玉の早逃げで安全を確保し、鋭く寄せ切った

将棋のタイトル戦、第69期王座戦(主催:日本経済新聞社)第2局、▲木村一基九段-△永瀬拓矢王座戦が9月15日に愛知県「西浦温泉 旬景浪漫 銀波荘」で行われました。結果は100手で永瀬王座が勝利。シリーズ成績を1勝1敗のタイとしています。


第69期王座戦五番勝負の勝敗表

相掛かりの戦型になった本局は、先手の木村九段が1筋から積極的に動いていき、両者が早々に香を持ち合う展開になりました。

先に香を打って局面を動かしていったのは永瀬王座でした。△7五歩▲同角△7四香と7筋に香を設置し、先手の桂頭から攻めていきます。角を取られるわけにはいかない木村九段は▲8六角と逃がしました。

ここで永瀬王座は1分未満の消費時間で△7六香と走りましたが、この手を局後真っ先に悔やみました。終局後のインタビューの第一声で、「△7四香▲8六角に△7六香としたんですけど、△7五歩がどうだったか。手拍子で指してしまって、比較をしなければいけなかったかなと思いました」と振り返っています。感想戦で△7五歩は検討され、やはり本譜よりも勝るとされました。

しかし本譜でも形勢は互角。永瀬王座が桂と歩の協力で7筋にと金を作れば、木村九段は角・桂・香で永瀬玉に迫っていきます。激しい攻め合いでどちらかに形勢が傾いていてもおかしくないところですが、なおも難解な戦いです。

先手に飛車を取られ、詰めろをかけられた局面。永瀬王座は角の利きをさえぎるため、△7三歩と打って受けました。しかし、実はここで受けの決め手がありました。△7三歩の前に△8四歩と犠打を放つのがそれで、先手の角の位置を9五から8四にずらしておくのがポイントだったのです。この効果は数手後に判明します。

本譜、木村九段はと金を作って盤上左辺から永瀬玉に迫っていきます。ここで攻め合うのではなく、△4二玉~△3四歩~△3三玉と玉を早逃げしたのが永瀬王座の好判断でした。△3三玉の形が意外にも安定していて、先手からの攻めが難しくなっているのです。

△3三玉に対し、木村九段は▲1一飛と打っていきましたが、これが敗着となってしまいました。感想戦で検討されたのは▲7七角△同桂成▲同金と角を犠牲にと金を払う手。いったん受けに回っていれば、先手陣は安定しており、後手も攻め方が難しいところでした。

△7三歩に変えて△8四歩が勝ったのは、この変化を消すためでした。「△7三歩に変えて△8四歩の方が良かったかもしれなかったです。迷ったんですけど、一歩の価値が高いのかなと思ってしまったので。ただ、本譜だと、負けでもおかしくないのかなと思います」と永瀬王座は語りました。

一方の木村九段は「(△3三)玉と上がられたところで悲観していたから。もう全然ダメだと思ってた」とこの変化を掘り下げてはいなかった様子でした。

▲1一飛と打っても後手玉に響きが薄いのが問題でした。次に▲2一飛成としても、後手玉に詰めろがかかっていません。木村九段は3三の玉を「(後手玉は)詰めろと縁がない形」と感想戦で評しました。

攻めるチャンスが訪れた永瀬王座は、△7八とで金を取ってから△7七歩と銀取りをかけて鋭く木村玉に迫ります。最後は冷静に木村玉に必至を掛けて、勝利を収めました。

終盤までずっと難解な形勢が続いていた本局。終局直後のインタビューで、永瀬王座は勝ちを意識したのは最後の最後と語れば、木村九段も「難しくてよく分からなかったですね。いいのか、悪いのか分かりませんでした」と振り返りました。

また、感想戦の最中、木村九段は「作戦が悪かったか……。ちょっと悪い気がしますね。そうか……」と序盤の作戦を悔いていた様子。最後は「作戦としては課題が残ったまま、最後まで行っちゃった気がしますね。そうか……」と総括して感想戦は終了となりました。

激闘を制した永瀬王座はシリーズ初勝利を挙げ、1勝1敗のタイにしました。先の叡王戦五番勝負ですべて先手番が勝利したように、現代将棋では先手番がやや有利とされています。本シリーズは互いに後手番で勝利する展開になっていますが、第3局はどうなるでしょうか。

その注目の第3局は9月22日に神奈川県「元湯陣屋」で行われます。

防衛に向け一つ前進した永瀬王座(提供:日本将棋連盟)
防衛に向け一つ前進した永瀬王座(提供:日本将棋連盟)