退職金も所得とみなされるため、住民税がかかってくるのをご存じでしょうか? これから老後に向けて生計プランを練っている方や、退職金を転職活動中の生活費に充てようと考えている方は、住民税が引かれるということを頭に入れておきましょう。そうはいっても「いったいいくら引かれるの? 」と不安を感じる方もいるでしょう。今回の記事では、退職金にかかる住民税の計算方法をわかりやすくまとめています。よくある住民税の質問にも回答してるので、ぜひ参考にしてください。
退職金の住民税の計算方法
さっそく退職金にかかる住民税の計算方法について見ていきましょう。 退職金から引かれる税金には、特別なルールがあります。まずは、退職金から退職所得控除額を算定して住民税がかかる額を算出しましょう。
ステップ1. 勤続年数で退職所得控除額を算出
退職金には勤続年数に応じて、退職所得控除額が設定されています。目安となるのが「20年以上勤務したかどうか」です。 計算式は以下の通りです。
勤続年数が20年以下 | 40万円×勤続年数(※合計額が80万円に満たない場合は80万円) |
勤続年数が20年超え | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
勤続年数が1年に満たない場合は、端数を切り上げます。例えば、12年2ヵ月であれば、勤続年数は13年に切り上がります。
ステップ2. 退職所得を算出
次に、退職金から退職所得控除額を引いて退職所得を出します。退職所得の計算は一般的に以下のようになります。
退職所得の計算式 | 退職所得=(退職金-退職所得控除額)×1/2 |
仮に退職金から退職控除額を引いて0円になった場合、退職所得も0円となり非課税扱いになります。
ステップ3. 退職所得から住民税の額を算出
最後に退職所得に10%(税率)を掛けて、引かれる住民税の金額を計算します。
- 退職所得×10%(税率)
税率の割合ですが、今回は住民税の所得割である都道府県税率4%と市区町村成立6%を足して10%で算出しています。 標準税率以外の税率を採用している自治体にお住まいの方は、まずは市区町村のHPで税率を確認しましょう。 ステップ1~3を踏まえた住民税の算出例を紹介します。
【勤続年数21年で退職金1,000万円のケース】
退職所得控除額を算出 | 70万円×(21年-20年)+800万円=870万円 |
退職所得を算出 | (1,000万円-870万円)×1/2=65万円 |
住民税額の算出 | 65万円×10%=6万5,000円 |
住民税: 6万5,000円 |
計算自体はとても簡単なので、まずは自身の勤続年数・退職金を当てはめて算出しましょう。
退職金から引かれる住民税の特例
前項では退職金から引かれる住民税額を説明しました。ただし退職金にかかる住民税には、2つの特例があります。 該当する場合は控除額が増減するため、あわせて確認しておきましょう。
退職理由によっては優遇される
在職中に障害者になったために退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加算されます。 例えば、前項のケースであれば住民税が6万5,000円でしたが、この場合は100万円の優遇があるため1万5,000円になります。ちなみに国税庁が規定する障害者に当てはまる項目は以下の通りです。
障害者とは 障害者とは、次に掲げるような心身に障害のある方です。
<イ>精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方(特別障害者となります。)
<ロ>精神保健指定医などにより知的障害者と判定された方(重度の知的障害者と判定された方は特別障害者となります。)
<ハ>精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方(障害等級が1級と記載されている方は特別障害者となります。)
<ニ>身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている方(障害の程度が1級又は2級と記載されている方は特別障害者となります。)
<ホ>戦傷病者手帳の交付を受けている方(障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの方は特別障害者となります。)
<ヘ>原子爆弾被爆者で厚生労働大臣の認定を受けている方(特別障害者となります。)
<ト>いつも就床していて、複雑な介護を受けなければならない方(特別障害者となります。)
<チ>精神又は身体に障害のある65歳以上の方で、その障害の程度が<イ>、<ロ>又は<ニ>に掲げる方に準ずるものとして市町村長、特別区の区長や福祉事務所長の認定を受けている方(<イ>、<ロ>又は<.ニ>に掲げる方のうち特別障害者となる方に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている方は特別障害者となります。)
もし障害が理由で退職せざるを得なくなった場合は、控除額が増えて住民税が安くなることを念のため覚えておきましょう。
勤続年数5年以下の法人役員は割高になる
こちらは引かれる住民税が割高になるパターンです。勤続年数が5年以下の法人役員は、退職所得の算出時に行う「×1/2」がなくなります。 参考例として、勤続年数が4年で退職金が300万円のケースを見てみましょう。
【法人役員 勤続年数4年で退職金300万円のケース】
退職所得: 300万円-(40万円×4年)=140万円
住民税: 140万円×10%=14万円
一般の方と比べると2倍の住民税が徴収されるため、やや割高に感じます。そうはいっても控除手続きをしたほうが、引かれる住民税を少なくできるのは確かです。
退職金にかかる住民税の仕組みとは?
退職金にかかる住民税は、その他の所得にかかる住民税とは違った特別なものです。どのような仕組みなのかチェックしましょう。
住民税とは?
住民税とは、地方自治体が住民に対して徴収する税金のことで、市町村民税・道府県民税の2つからなります。前年の所得額をベースに算出され、その翌年に住民票がある自治体に納付します。ただし退職金に関する住民税は、他の所得と切り離されて計算される特例となります。
退職金から引かれる住民税を減らす方法
退職金を受け取り方はまず、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しなければなりません。退職が近づくと勤務先から配布される、もしくは、国税庁のホームページからのダウンロードで入手可能です。 もし書類を提出しないでいると、退職所得控除を受けることができずに、退職金額の20.42%が住民税として徴収されます。しかし、仮に申告を忘れた場合でも、確定申告する際に手続きすれば多く納税した分の金額が戻ってきます。
退職金の住民税の徴収方法
住民税の徴収方法は、会社の給料から天引きされる特別徴収と、自分で納める普通徴収の2つがあります。退職金にかかる住民税は、退職金額から特別徴収によって会社側で納められます。 退職した後の住民税については、基本的には普通徴収となります。ただし退職するタイミングによっては、一括徴収が義務付けられている場合もあります。 また、退職後の1年間は、前年度の所得に応じた金額が徴収されるので注意しましょう。5~6月にかけて自治体が納付書から送られてくるので、コンビニや銀行振り込みで納税します。 住民税の納期は以下の4期に分かれています。
- 第1期:6月30日まで
- 第2期:8月31日まで
- 第3期:10月31日まで
- 第4期:翌年の1月31日まで
年間の住民税を4回に分けて支払いできますが、第1期の6月末までに一括納付も可能です。
退職金にかかる住民税に関するQ&A
前述した内容の補足も兼ねて、退職金にかかる住民税のよくある質問をまとめました。予備知識として覚えておくと、いざというとき困りません。退職金をもらう前にあらかじめ確認しておくといいでしょう。
退職金にかかる住民税の税率はいくら?
標準税率であれば、道府県民税4%と市町村民税6%を足した10%となります。政令指定都市の場合は、道府県民税2%と市町村民税8%を足した10%です。 ただし、標準税率を適用していない自治体では税率が違うので注意が必要です。 例えば、2007年からの10年間、北海道夕張市では、市町村民税が所得割で0.5ポイント、個人均等割で500円高くなっていたことがあります。まずは自分が住んでいる自治体の税率を確認しましょう。
退職金にかかる住民税の支払い期限は?
退職金にかかる住民税は、会社側で算出して退職金額から引いてくれます。そのため自身で何か手続きをしたり、役所に支払いに出向いたりする必要はありません。 期限に関しても、自動で引かれるものなので会社側に任せておけば大丈夫です。ただし、退職後の住民税は普通徴収となるので振込用紙が届き次第、納期をチェックしましょう。
一括払いと分割払い、どっちが得なの?
住民税は、一括でも分割でも納める金額は変わりません。自分の支払いやすい方法を選択しましょう。 ただし退職金の住民税に関しては、会社側からの特別徴収となり自動で引かれます。
退職金の住民税も「ふるさと納税」の対象?
退職金にかかる住民税は、分離課税なのでふるさと納税の対象外となります。退職金を受け取っても、ふるさと納税対象額が増えるわけではないので、限度額計算には影響しません。 ただし退職金にかかる所得税はふるさと納税の対象となるため、所得税の寄付金控除を受けることができます。
退職金にもかかる住民税! あらかじめ金額を把握しておこう
毎月給料から引かれている住民税が退職金からも引かれると知って、びっくりした方も多いでしょう。住民税は前年度の所得に応じた額を毎月納めるものですが、退職金にかかる住民税は特別です。 今回の記事では、退職金にかかる住民税の計算方法や、特例について解説しました。いざ退職する際に「思っていた額より少ない」とならないためにも、ある程度引かれる金額を把握しておきましょう。