「知恵熱」という言葉を聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか。「頭脳を要する作業をして熱が出た、あるいは頭痛がする」という意味を持つ言葉……と思っている人も少なくないでしょう。
実は知恵熱とは「乳幼児期にみられる突然の発熱」を意味する言葉なのです。ただし「知恵熱」 という正式な病名はなく、あくまで乳児が不定期に出す熱に対して用いられる俗称となります。
本記事では、知恵熱の正体や赤ちゃんが発熱したときの対処法などについて、くわしくご紹介します。
知恵熱の本来の意味と誤用
知恵熱とは「乳幼児期にみられる突然の発熱」を表す俗称です。知恵がついてくる頃の発熱なので「知恵熱」という名が付いたとされています。近年では「頭を使いすぎたときに起こる熱」を知恵熱と呼ぶこともありますが、これは誤用です。
文化庁が平成28年度に実施した「知恵熱について尋ねた国語に関する世論調査」によると、本来の意味である「乳幼児期に突然起こる発熱」選んだ人が45.6%、誤った意味の「深く考えたり頭を使ったりした後の発熱」を選んだ人が40.2%となっています。とくに、50代よりも若い年代は誤った意味を選択した人が多いようです。
乳幼児期に突然の発熱が起こることは昔も今も変わりませんが、現代では発熱の原因がウイルス感染に対する身体の防御反応であることがわかってきています。また、「突発性発疹」や「アデノウイルス感染症」といった具体的な病名も使われるようになったため、知恵熱を使う機会は少なくなりました。
一方で、頭を使いすぎたときの「知恵熱」は現在でも用いられているため、もともとの意味を知らない若い世代で誤用が浸透したと考えられています。「知恵」という言葉だけで「乳児期に起こる突然の発熱」を連想するのは難しいという理由もあるでしょう。
知恵熱と診断されかねない病気とは
発熱には必ず原因があります。原因を特定できない病気もありますが、それが「知恵熱」と診断される可能性もあるでしょう。
乳幼児期に見られる発熱の原因としては、下記のようなものが考えられます。
突発性発疹症
突発性発疹症は、おもに生後6カ月頃から3歳までの乳幼児がかかるウイルス感染症です。突然の38~40℃の高熱が3~5日続き、解熱前後には発疹がみられるという特徴があります。咳や鼻水などの症状はほとんどみられません。なお、発疹は数日で消えて痕が残らないことが一般的です。
アデノウイルス感染症
アデノウイルスが原因で起こる感染症です。アデノウイルスには50種類以上の型があり、プールの水を介して流行する「プール熱(咽頭結膜熱)」を起こすもの、流行性角結膜炎(はやり目)を引き起こすものがよく知られています。
乳幼児は特にプール熱に注意したいところですが、夏以外でもプールやさまざまな場所で感染するため、季節を問わず感染対策を意識しなければいけません。症状は喉の痛みや結膜炎、食欲不振、頭痛などさまざまで、39度前後の熱が数日続きます。
インフルエンザ
突然の発熱や鼻水、咳、喉の痛みなど、一般的な風邪よりも強い全身症状がインフルエンザの特徴です。下痢や腹痛、嘔吐といった消化器症状が出ることもあります。主な症状は約1週間で治まりますが、肺炎や気管支炎などの合併症を引き起こすケースもあるため、免疫力が弱い乳幼児は特に注意が必要です。
インフルエンザはワクチンの接種で予防効果が期待できます。また、予防接種を受けておけば、発症した際の重症化も防げます。子どもの発病を防ぐだけではなく、保育園や幼稚園などの集団生活で周りの子どもにうつさないためにも、適切な時期に予防接種を受けておきましょう。
子どもの平熱はどのくらい?
どのぐらいの熱が「発熱」なのかを判断するために、子どもの平熱を覚えておきましょう。
- 赤ちゃん:36.3℃~37.4℃
- 幼児:36.5℃~37.4℃
- 小学生:36.5℃~37.3℃
上記が平熱の目安とされていますが、運動直後や食後は体温が上がりやすい傾向があります。朝は普通で夕方頃から熱が出てくることもありますが、それは生理的現象です。
自律神経が発達してくると、環境による体温の変動が調節されて常に同じ体温となり、その人の平熱が決まります。自律神経が十分に発達していない小児は、環境の変化によって平熱が大きく左右されることを覚えておきましょう。
赤ちゃんが熱を出したときの受診のポイント
赤ちゃんが発熱しても、機嫌がよくて食欲がある場合は基本的に様子見で構いません。赤ちゃんの発熱で注意したいのは、体温計の数字よりも熱以外の症状です。
下記のような症状があるときは、夜間でも救急病院を受診する必要があります。
- 下痢や嘔吐を繰り返している
- 苦しそうに肩で息をしている
- おしっこの回数が極端に少ない
- けいれんが5分以上続く
- 目や表情に活気がない、ぐったりしている
ただし、生後3カ月未満で38℃以上の熱がある場合は、熱だけの症状でもすぐに病院で受診させるようにしましょう。
赤ちゃんが熱を出したときの対処法
赤ちゃんが発熱したときの、主な対処法をご紹介します。
十分に水分補給する
熱が出たときに大切なのは水分補給です。発熱すると発汗して呼吸も荒くなるため、脱水症になる恐れがあります。
水分は少しずつこまめに補給しましょう。湯冷ましや水などでも構いませんが、水に電解質と少量の糖質を加えた「経口補水液」なら、効率よく水分を補給することができます。
経口補水液の材料と作り方は、次の通りです。
- 経口補水液の材料
湯冷まし:1リットル
食塩:小さじ1/2杯(3グラム)
砂糖:大さじ4と1/2杯(40グラム)
好みでレモンやグレープフルーツの果汁
- 経口補水液の作り方
- 湯冷ましに砂糖と塩を加えてよく溶かします。
- かき混ぜたら、飲みやすい温度に冷まします。
- 好みで果汁を加えてください。
下痢や嘔吐の症状がなければ何を食べても問題ありませんが、できれば消化のよいものや、冷たくて食べやすいアイスクリームのようなものを選んであげましょう。
安静にする
発熱による体力の消耗を避けるために、十分休ませてあげましょう。元気があるようなら無理に寝かしつける必要はありません。ただし、興奮しすぎて疲れないように注意してください。
厚着に注意
熱の上がり始めは寒気で震えることもあるため、赤ちゃんが寒そうにしていたら手足や体を温めてあげてください。
熱が上がって暑そうにしている場合は、熱が体内にこもらないよう、布団や衣類の枚数を減らしてあげましょう。冷却シートや氷枕などを使うのもひとつの方法です。
知恵熱の英語表現
英語では、知恵熱のことを歯が生える頃に出る熱という意味で「teething fever」と表現します。
- This may be a symptom called tooth fever.(これは知恵熱と呼ばれる症状かもしれない )
知恵熱の使い方・例文
最後に知恵熱を使った例文を紹介します。
- 娘が初めて知恵熱を出した
- 子どもを持つ親として、知恵熱への対処法を知っておこう
知恵熱には必ず原因がある! 誤用にも注意しよう
知恵熱は「乳児期にみられる突然の発熱」を意味する言葉です。「頭の使いすぎで熱が出た」などの意味で使うのは誤用となるので気をつけましょう。
発熱の原因は「インフルエンザ」や「アデノウイルス感染症」などさまざまですが、赤ちゃんが熱を出しても慌てず、適切な対処をするようにしてください。