転職先が決まるまでの期間や老後のことを考えると、今働いている会社の退職金がいくらになるか気になるところでしょう。今回は、退職金は公務員や民間によって違うのか、高卒や大卒など学歴によって変わるのか、勤続年数でも違うのかなど、よくある疑問にお答えします。さらに、退職金についてや、さまざまな退職金の平均相場などもご紹介します。
退職金とは
退職金とは、文字通り退職したときに受け取るお金のことです。退職理由は自己都合で退職した場合や、会社都合により解雇された場合などさまざまで、退職金をもらえる場合もあればもらえない場合もあります。そうした退職金についてもう少しくわしくみていきましょう。
退職金の仕組みについて
退職金とは、ある一定の勤続年数以上の労働者が退職または解雇される際に支払われる賃金のことです。退職金の有無、受け取れる金額、支払い期間やその他条件については就業規則に記載されています。つまり、就職している企業によって退職金が異なります。
退職金制度について
退職金制度には、企業が独自に従業員のために積み立てて退職時に従業員に支払う退職金と、自社で退職金制度を行うことが困難な中小企業が利用している退職金があります。後者は中小企業退職金制度と言って、資金に余裕がない場合、外部機関に掛け金を積み立てておくものです。従業員が退職するときに外部機関から退職金が支払われます。
退職金制度のあり、なし
退職金制度を必ず企業が設けなければいけないという法律はありません。2018年の厚生労働省の調査では、退職給付制度がある企業の割合は80.5%となっており、19.5%の企業には退職金がありません。退職金に関しては就業規則に記載されているので確認しておきましょう。
退職金のトレンド
これまで年功序列の企業が多かったことから年齢に比例した退職金の金額が決まるのが主流でした。しかし現在は、個人の能力や実績に応じた成果報酬により退職金の額が決まる企業が増えてきています。
退職金の種類について
ひとことで退職金といってもさまざまな種類があります。退職金にはどのような種類があるのかみていきましょう。
制度からみた退職金
退職金の制度を大きく分けると3つあります。1つめは「退職一時金制度」で、一般的に退職金といわれているものです。退職時に一括して賃金が支給されます。
2つめは「前払い制度」です。通常は退職時に支払われる退職金を、就業中の月々の給料やボーナスに上乗せして支給する制度のことをいいます。
3つめは「企業年金制度」です。退職金を一生涯、または一定の期間内に分配して賃金を支払う制度のことです。企業側は一定の額をまとめて支払う必要がなく、受給者側も利息分を上乗せしてもらえる可能性があるというメリットがあります。この企業年金制度は、退職一時金制度とあわせて利用されることもあります。
退職金のパターン
退職金のパターンとしても、大きくわけて3つあります。1つめが勤続年数に応じて高くなっていく「年功序列型」です。かつては日本のほとんどの企業が終身雇用制だったことからこの年功序列型が主流でした。
しかし現在年功序列型は減ってきており、かわりに増えているのが2つめの「成果報酬型」です。役職や実績など会社への貢献度によって退職金の額が変わります。
3つめはポイント型です。勤続年数や役職、資格などの会社貢献度によって評価されるもので、ポイント分を単価でかけた金額が退職金として支払われます。これは年功序列型と成果報酬型をミックスしたものといえます。
さまざまな角度からみた退職金平均額について
退職金の金額については、企業毎に金額を決めることができるため、企業によって異なります。しかし、企業規模や勤続年数、学歴などによって退職金の額は実際にどれくらい違っているのでしょうか。ここでは平均額から、おおよその相場をご紹介します。
企業規模
大企業の退職金平均額が大卒の場合だと2,289万円5,000円に対して、中小企業の退職平均額は1,118万9,000円となり、その差は1,000万円以上になります。高卒の場合でも大企業の1,858万円9,000円に対して中小企業は1,031万4,000円となっており、800万円以上の差が出ています。このように、企業規模によって、受け取る退職金の金額に大きな隔たりがあります。
勤続年数
勤続年数によっても退職金の平均額は異なります。例えば大企業を会社都合で退職した場合、3年だと72万1,000円ですが、5年で124万4,000円、10年で329万7,000円、20年で1,010万6,000円、30年で2,183万6,000円となります。3年の10倍の30年働くと、30倍以上の金額になることから、勤続年数が長いほど、もらえる退職金の金額は大幅に高くなることがわかります。
学歴
先述の企業規模別の退職金の平均からも、学歴によって平均額が変わることがわかるでしょう。大卒と高卒の退職平均額の差は、大企業で430万6,000円、中小企業で87万5,000円です。中小企業では退職金の差はそれほど大きくはありませんが、大企業では学歴で大きく差が出る傾向にあります。
その他による退職金の違い
その他の退職金の平均額の違いとしては、職種別にも違いが出てきます。大卒の場合、金融業だと1,725万円に対して、建設業が1,313万8,000円、運輸業が893万2,000円、サービス業が996万円、学習支援事業は656万9,000円となっています。
このことから、業種によっても1,000万円以上の差が出るということがわかります。ちなみに国家公務員の退職金平均の相場は大手企業よりも少し上回る金額となっています。
退職金の計算方法
退職金はどのように金額が決まっているのでしょうか。各企業によって計算方法は異なりますが、主な計算方法を紹介していきます。
定額制
定額制とは年功序列型の考え方で、勤続年数だけで金額が決定しています。3年であればいくら、10年であればいくらといった形であらかじめ金額が決められており、就業規則に記載があるので、ぜひ確認してみてください。
基本給連動型
基本給連動型とは、定額制のような勤続年数に加えて退職時の基本給や退職理由を考慮して決める方法です。支給係数は勤続年数が3年目は1.0、4年目は2.0、5年目は5.0、10年目は10.0というように勤続年数に比例しています。さらに、退職理由を加味される場合は、会社都合が10割で、自己都合退職は8割としているケースもあります。
では実際に計算してみましょう。3年目に自己都合退職をして退職時の基本給が25万円だった人と、10年目に自己都合退職をして退職時の基本給が30万円だった人の退職金を比べてみます。
【3年目 基本給25万円 自己都合退職】
25万×1×0.8=20万円
【10年目 基本給30万円 自己都合退職】
30万円×10×0.8=240万
このように同じ自己都合退職でも、3年目と10年目では大きな差があることがわかります。
別テーブル制
別テーブル制とは役職や等級ごとに係数を設定し、勤続年数によって定めた基準額をかけあわせた表を作り、それをもとに計算する方法です。勤続年数や階級を変えて実際に計算してみましょう。
勤続年数3年目の基準額を50万円、一般社員は係数を0.7、課長職を1.3、自己都合退職の場合は8割支給と設定したとします。
【3年目 一般社員 自己都合退職】
50万×0.7×0.8=28万円
次に、勤続年数10年目の基準額を120万円、課長クラスの係数を1.5、自己都合退職の場合を8割支給と設定します。
【10年目 課長 自己都合退職】
120万円×1.5×0.8=144万円
このように、退職時の階級に係数をつけたり、退職理由によって割合を変えたりして退職金を計算する方法を別テーブル制といいます。
ポイント制
ポイント制は、先ほど紹介した通り勤続年数や役職、資格など会社貢献度によって評価される制度です。勤続年数や退職時の基本給、役職や等級、退職理由などを考慮して、在職1年あたりのポイントを累積します。そして累積したポイントに1点あたりのポイント単価をかけて退職金の金額を算出します。
たとえば、勤続1年毎に10ポイントずつ加算され、係長はさらに5ポイント、課長ならさらに10ポイントというように加算されるとします。また、自己都合は8割支給です。1ポイントの単価は1万円とします。
勤続年数3年目の一般社員が自己都合退職した場合を計算してみましょう。
【3年目 一般社員 自己都合退職】
10ポイント×3年×0.8×1万=24万円
また、勤続年数10年目の課長が自己都合退職した場合を計算します。5年目で係長、7年目で課長になった場合です。
【10年目 係長からの課長 自己都合退職】
(10ポイント×10年+5ポイント×2年+10ポイント×4年)×0.8×1万=120万円
このように、勤続年数や退職理由によって全く違ってくるので、退職金がどのような計算方法で算出されているかを確認しておきましょう。
退職金の制度や平均を知って、老後に役立てよう
退職金の制度やおおよその平均相場、計算方法についてご紹介しました。退職金といっても、会社の規模や勤続年数、業種によっても支給される額が大きく異なります。中には退職金制度がないところもあれば、違う形で支給される場合もあります。会社毎に異なるため、現在の会社の退職金がどのくらいになるのかを把握したうえで、転職活動や老後の資産の準備をしましょう。
- 厚生労働省「第8章 退職金」
- 厚生労働省「3_退職給付(一時金・年金)制度」
- 厚生労働省「平成20年就労条件総合調査結果の概況」
- 政府統計の総合窓口 「就労条件総合調査 / 平成30年_就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」