Googleは9月4日、インディー系ゲームデベロッパーを対象としたコンテスト「Google Play Indie Games Festival 2021」のファイナルイベントをオンラインで開催した。2018年から開催されているインディー系ゲームデベロッパーの新作を対象としたイベントだが、 4回目となる今年もユーザーの支持を集めたユニークな作品が選ばれた。

  • オンラインでの開催となった「Google Play Indie Games Festival 2021」

独立系デベロッパー支援のための一大イベント

もはやゲーム専用機を超えて広く普及しているスマートフォンゲーム市場だが、大手デベロッパーによるワールドワイドな市場を視野に入れた大作が続々と登場する一方で、個人や小規模なデベロッパーによる作品が思わぬヒットを飛ばすことも珍しくはない。とはいえ、小規模デベロッパーは、開発力や宣伝など、大手に比べてハンディキャップが大きい。

そこでGoogleは、そんな独立系デベロッパーたちから「明日のヒットメーカー」を探し出し、世界に通用する草の根デベロッパーを発掘するために、本イベントを開催している(ちなみに、日本のほかヨーロッパ、韓国でも開催されている)。Googleだけでなく、集英社や東宝といったメディアや映画配給会社も協賛しており、各社からの開発資金援助やIP(商標)のゲーム化といったビジネスチャンスにも直結している。さらに今年は「学生部門賞」が追加され、13歳以上の学生デベロッパーを重点的にバックアップする取り組みも。

今年は7月1日に応募が締め切られ、応募作の中からトップ20作品がファイナルイベントに選出された。ファイナルイベントはオンラインで開催されたが、今回は「アドベンチャー」というバーチャル会場が用意され、キャラクターを動かしてブースを巡り、ゲームの情報にアクセスしたり、Google Playへのリンクを使ってゲームをダウンロードできるなどの仕組みが用意されていた。ブースにはテーブルと椅子が用意されており、キャラクターがそこを訪れると、ブースのデベロッパーと音声チャットが行えるといった仕掛けもあり、開発者とユーザーが貴重な交流を行える場になっていたようだ。

  • 今回用意されたオンラインのバーチャル会場「アドベンチャー」。8bit時代を思わせるグラフィックの中を動き回ってブースで交流できる。正直、これ単体でサービス提供してほしいほどの作り込みだった

さて、イベントではデベロッパーのプレゼンテーションを見た後でユーザーによる投票が行われ、上位に選ばれた10作品から、さらにグランプリ3作品が選ばれるという形式をとる。また、前述した学生部門賞や、協賛企業からの特別賞もそれぞれ選出される。それでは以下にトップ20作品(50音順)を紹介しよう。

  • 5つのネイト
    ねこどらソフト
    呪いによって5つの人格を持ってしまった妹と兄が協力して戦う本格派RPG。コロコロと人格ごと性能が変わってしまう妹のネイトをうまく活用して強敵を倒そう。ゲーム内攻略本などのコンテンツもユニーク

  • エレクトリアコード
    ELECTRIA LABO
    AIで自律戦闘するパートナーを創り育てていく育成&バトルゲーム。パラメーターの割り振りによってパートナーの戦術も戦闘力も大きく変わっていく点が戦略的でユニーク。個人開発とは思えないクオリティ

  • 終わる世界とキミとボク
    illuCalab.
    終末の世界を二人でサバイバルしながら彷徨うローグライク+脱出系テキストアドベンチャーゲーム。選択肢に運の要素があるため、TRUEエンドを目指すと難易度は極めて高い

  • クトゥルフと夢の階段
    てんゆ
    クトゥルフ神話をベースに、「一人でもTRPGができたなら」をコンセプトに作られたローグライト(死=ゲームオーバー、ランダムマップなど、Rogue的な要素の入った)ゲーム。外宇宙からの超存在による狂気の世界へようこそ

  • クローズドサークルからの脱出
    はなちる
    「制限時間内に謎を解くミステリー脱出ゲーム」。建物の中に散りばめられた謎を解き、クローズドサークル(密室)に閉じ込められた8人の少女を救って脱出しよう

  • 言葉で育成 妖怪アマビエさん
    ハラペココーポレーション
    ことわざや四字熟語を当てることで、疫病避けのご利益があるという妖怪アマビエを育てて進化させよう。子供の国語教育にもよさそう。ハラペココーポレーションは2019年に続き2度目のノミネート

  • サバイバーズ・ギルト
    あそ.
    巨大地震に見舞われ、エレベーターに閉じ込められた被災者を体験するアドベンチャーゲーム。限られた資源を大切に使いつつ、救助まで生き延びよう。実際のサバイバルに役立ちそうな描写のリアルさが秀逸

  • 時空運送
    るっちょ
    時空がねじれた四次元倉庫の中で、過去や未来へ荷物やプレイヤーを移動させながら荷物を運び出す新感覚のパズルゲーム。全40ステージとステージエディット機能が用意されており、延々と遊べそう

  • 人狼将棋
    baton
    駒を伏せて自由に並べ、何の駒かわからない状況下で、相手の駒を推測しながら進める将棋ゲーム。普通の将棋に推理要素が加わることで戦略性が大幅に変わる点がユニーク。batonは2020年に続き2度目のノミネート

  • Super Glitter Rush
    tiny cactus studio (はちのす)
    ポップなデザインが目を引く、弾幕系シューティングゲーム。8種類のキャラクターから1人を選んで、30体ものボスキャラを攻略しよう。相手の弾を巻き込んで弾き返せる特殊弾で一気にダメージを与えるのがコツ

  • 戦国心探し
    ZEN APP
    戦闘だけでなく、茶湯や宗教、技術といった文化面も含んだ「心」を集めて天下を目指す異色の戦国シミュレーションゲーム。シミュレーションながら隙間時間で遊べる手軽さが◯

  • 二枚残す道場
    ScreenPocket
    いわゆる「瓦割り」ゲームだが、「2枚残さねばならない」という微妙な力加減が難しい。いい意味で頭を使わなくていい手軽さと爽快さ、設定のシュールさがいかにもインディーズゲームならでは、という感じで微笑ましい

  • にゃんばーカードWARS
    Nukenin
    ネコの兵士を召喚して敵を倒し、塔のてっぺんを目指すデッキ構築型のタワーディフェンスゲーム。つながる数字のカードを出してコンボさせることでゲームを有利に進められる。Nukeninは2019年に続き2度目のノミネート

  • ねずみバスターズ!
    Odencat
    ネズミになってアパートに巣食う悪霊を退治するアドベンチャーゲーム。2018年、2020年に続き最多の3度目のノミネートとなるOdencatの作品だけあって、グラフィックもストーリーも秀逸

  • パラサイトデイズ
    ズィーマ
    謎の寄生虫に寄生された主人公が生き残りを賭けて支給品の組み合わせで健康を取り戻すサバイバルアドベンチャーゲーム。キモかわいい寄生虫との会話やミニゲームが楽しい。ズィーマは2020年に続き2度目のノミネート

  • ミニミニ農園
    CoffeBreak
    スワイプのみのお手軽操作で、村民の依頼をこなしたり、畑を耕しながら、島を開拓していく農園ゲーム。BGMを廃して流水や虫の音など、自然音にこだわったサウンド面もユニーク

  • モノハコビのプロ
    CGO
    荷物をトラックの荷台に積み込み、落とさないようにゴールまで運ぶパズルアクション。急ぎすぎると荷物がゴロゴロと落ちていくので、慎重かつ大胆に運ばねばならない

  • 弓矢バトルオンライン
    藤枝 卓也
    5対5で上に矢を撃ち合い、降ってくる矢を避けながら生き残りを賭けるオンライン対戦ゲーム。ランクが上がると選べる「盾兵」などを駆使して協力プレイで勝利を掴もう。自由度の高いキャラエディット機能も秀逸

  • 立体将棋:ノッカノッカ
    Curiouspark
    5つのコマを進めて、相手の陣地に先に入り込むか、相手のコマを全て移動不能にすれば勝ちなボードゲーム。「将棋」とはいうが、ルールもコマの進み方もかなり異なる。相手のコマに「乗っかる」ことで行動不能にできる点がユニーク。ネット対戦のほかAIとの対戦も可能。見た目によらずかなり頭を使う

  • 和階堂真の事件簿 処刑人の楔
    ハフハフ・おでーん(スカシウマラボ)
    ポイント&クリック型のアドベンチャーゲーム。証拠を集めて推理を行い、連続殺人事件の犯人を追おう。ファミコン時代を思わせる素朴だが完成度の高いグラフィックと、簡単な操作でサクサクとストーリーが魅力

栄光の受賞作品はいかに?

さて、会場のユーザーからの投票と審査員の投票結果を経て選ばれた上位10作品は以下の通り。

終わる世界とキミとボク
サバイバーズ・ギルト
時空運送
戦国心探し
にゃんばーカードWARS
ねずみバスターズ!
パラサイトデイズ
弓矢バトルオンライン
和階堂真の事件簿 処刑人の楔
Super Glitter Rush

ベスト10に残ったデベロッパーにはPixel 5が1台プレゼントされるほか、個別コンサルティングなどの副賞も提供される。そしてこのベスト10の中から、最終的に選出されたのが以下の3作品だ。

  • サバイバーズ・ギルト
  • 時空運送
  • ねずみバスターズ!

ベスト3に選出された作品はいずれも、アイデアや完成度が頭ひとつ抜けているという感じだった。この3作品にはGoogle Playストアでトップページに掲載されるほか、専用のバナーや特集記事が用意される。

さらに協賛各社およびオンライン投票で特別賞に選ばれたのが以下の作品だ。

  • 集英社ゲームクリエイターズ CAMP賞
    和階堂真の事件簿 処刑人の楔

  • TOHO Games賞
    にゃんばーカードWARS

  • UUUM賞
    人狼将棋

  • Indie Games Accelerator賞
    Odencat

  • 学生部門賞
    HAKOT(対象作:追憶の電車通り 横浜市電編)

協賛企業からの特別賞は各スポンサーのIPを利用したタイトル開発権や、その際の開発費がサポートされる(最大1,000万円)など、商業展開への大きなチャンスが与えられる。デベロッパーにとってはビジネスチャンスに直結しており、メインの大賞とも見劣りしない、とても大きなチャンスと言えるだろう。

Indie Games Accelerator賞は、ゲームのローンチに向けてビジネス上のアドバイスや研修プログラムなどが受けられる。前述の通り、受賞したOdencatは最多のノミネート3回(うち2回ベスト3入り)というベテランでもあり、これを機にますますの発展が見込まれる。

学生部門賞では記念品に加えて、Google Playストアのインディーコーナーに掲載されるため、露出が大幅に増えることになる。今回はファイナルイベントに残れなかった作品の作者が選ばれたが、これを機に次回はファイナルイベントに残れるような作品作りに励んでほしい。

スマホのゲーム市場はまだまだ元気!

筆者は2018年からこのイベントを取材し続けているが、年々参加するデベロッパーのレベルが上がっているというのが正直な感想だ。ものによっては、大手デベロッパーの作品に匹敵するようなクオリティやボリュームの作品もある。特に一部のデベロッパーは、本大会に登場するのが2回目、3回目というところも出てきており、ヒットが一発に終わらず、継続してゲーム開発を続け、それが評価され続けているというのは素晴らしいことだと思う。

インディー系タイトルに筆者が期待しているお手軽さや、「カオス感」や「勢い」という点でも、注目すべきタイトルがノミネートされている点は嬉しい。インディー系ゲームはお行儀よく収まるより、少しはみ出しているくらいがいいと思うのだ。特に個人開発のタイトルについては、現代アートのように開発者のアイデアや個性が爆発している作品ほど面白いと思っている。このイベントに参加しているユーザーの多くも、そいうった作品との出会いを期待しているのではないだろうか。

また、学生部門賞の存在が象徴的だが、若いデベロッパーの存在は心強いものがある。かつて8bitパソコンの時代、オリジナルゲーム作成は学生にも可能なホビーであり、中には学生で人気ゲームを開発し、現在のゲーム業界でも活躍し続けているスタープログラマーも数多く登場したものだった。その後、ゲーム専用機の高度化でインディーズ作品が作りにくくなってしまった感があったのだが、スマートフォンの台頭に加え、最近はUnityやCocos2d-xなどの高度なゲーム開発ツールの登場により、開発の敷居もずいぶん低くなった。学生であっても、アイデアひとつで世界を席巻するゲームが開発できる可能性が生まれたというのは素晴らしいことだ。こうした学生デベロッパーを支援するGoogleの試みについても高く評価したい。

スマートフォン用ゲーム市場は、まだまだアイデアひとつで大きなヒットを狙える市場だ。またVR/ARなど、これから普及が見込まれる機能を使うことで、さらなるチャンスも待ち受けている。Google Play Indie Games Festivalは優秀な独立系デベロッパーにとって、大きく名を挙げるチャンスに直結した、魅力あふれるコンテストだ。腕に自信のあるデベロッパー諸氏や学生は、今から次回の開催に向けて開発を始めてみてはいかがだろうか。