東京2020オリンピック・パラリンピックの開幕を前に、東京都心の空にブルーインパルスが飛行して話題になりました。機体とスモークを鮮明にとらえた写真をSNSで目にして、「超望遠レンズってすごい!」と思った人も多いのでは。そのような航空機の撮影も楽しめる超望遠域を広くカバーしながら、大きさや重さを抑えた超望遠ズームレンズがタムロンから登場。超望遠ズームで主流の100-400mmよりも望遠側に寄せた意欲作の使い勝手や描写性能を中心にレビューしました。

  • 3.33倍のズーム倍率を誇る超望遠ズームレンズ「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Model A057)」。得られる画角を考慮するとコンパクトに仕上がった鏡筒も魅力です。希望小売価格は187,000円で、実売価格は159,000円前後です

独自の「フレックスズームロック機構」が便利に感じた

このところの望遠ズームレンズにおけるムーブメントのひとつに、定番の70-200mmクラスよりもさらに長い焦点距離を持つ交換レンズが注目されていることがあります。これまで以上に迫力ある写真が撮りたい、遠くの被写体をさらに大きく引き寄せたい、より強い圧縮効果が欲しい、といったような要望の現れといえるでしょう。

タムロンが6月に発売した「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Model A057)」も、そのような期待に応えるEマウントの望遠ズームレンズです。開放絞りはさほど明るくありませんが、超望遠域までをカバーするミラーレス専用の望遠ズームあること、そして鏡筒がコンパクトに仕上がっていることなどがポイントとなります。

鏡筒の大きさは、長さ209.6mm、最大径φ93mm、質量は1,880g(三脚座含む)となります。似たような焦点距離を持つ同社のAマウントレンズ「150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2(Model A022)」は長さ259.7mm、最大径φ108.4mm、質量1,955g(三脚座含む)となり、本レンズは数字以上にコンパクトで軽量に感じられます。もちろん、テレ端の焦点距離は違うものの、感覚的にはそれを考慮してもなおコンパクト、といった感じです。

  • ワイド端時(上)とテレ端時(下)の鏡筒を比較してみました。写真は、α7シリーズのなかでも最もコンパクトなα7Cに装着していますが、他のα7であればもっとバランスよく見えると思います

  • さすがにテレ端時はぐっと前面にインナーの鏡筒が繰り出してきます

  • 鏡筒の左側面にはスイッチ類が備わっています。一番下のスイッチは手ブレ補正機構のモード選択用で、モード1が通常撮影、モード2が流し撮り専用、モード3がフレーミング重視となります

ソニーのフルサイズミラーレスに装着したときのバランスも上々。今回の撮影では、フルサイズαのなかでもひときわ小型軽量な「α7C」を用いましたが、操作感が低下することもなく、超望遠ズームとしては使いやすく思えました。なお、フィルター径はφ95mmとなります。

操作感といえば、ズームリングを前後にスライドさせることで同リングのロックとアンロックが可能な「フレックスズームロック機構」は、とても便利に思えました。任意の焦点距離に固定することが可能で、ズームリングの不用意な動きを防いでくれます。特に、三脚にレンズを固定してあらかじめアングルを決めておく際に重宝すると思えました。スライド操作は固すぎず動きすぎることもなく、節度あるものに感じます。なお、本機構とは別に通常のズームロック機構も備えています。

  • ズームリングを前後させると、同リングのロックとアンロックが切り替えられます。どの焦点距離でもロックは可能で、ズームリングを前方にスライドしてロックをかけると、そのことを示すシルバーのリングが現れます

  • 付属のレンズフードの先端にはラバーが装着されており、フードの傷やひび割れなどを防ぐほか、何かにぶつかったときは相手や自分へのダメージを軽減します

  • 取り外しのできる三脚座はアルカスイスに対応し、ワンタッチで同タイプの雲台に装着できます。ストラップホールを備えており、肩に提げたときは重心のバランスが向上すると感じます

精細な描写に不満なし、テレマクロ性能も優れる

光学系は16群25枚となります。レンズ構成図を見ると、同社お得意の特殊硝材であるXLDレンズやLDレンズ、さらに非球面レンズを効果的に配置しているのが分かります。実際、色のにじみはよく抑えられており、絞り開放からどの焦点距離でもヌケがよく、シャープネスの高い現代的な写りが得られます。絞りを開いて撮ることにためらいは必要ないと述べてよいでしょう。

  • 対角線画角はワイド端で16.25度、テレ端で4.57度となります。ズーム倍率は3.33倍ですが、数字以上にワイド端とテレ端の画角の違いが大きいように感じます 共通データ:ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf7.1)・WBオート・ISO100・JPEG

周辺減光やディストーションも良好に補正しており、ズーム全域、またどの撮影距離でもスキのない写りが得られます。フィルムMF時代のズームレンズの写りを知るものとしては、毎度ながらとても驚かされることでもあります。ちなみに、最短撮影距離はワイド端0.6m、テレ端1.8mとしています。

  • 望遠マクロ撮影も本レンズの得意とするところです。ちなみに、テレ端の最短撮影距離は1.8mです。作例は絞り開放ですが、ピントのユルさのようなものは感じられず、極めて解像感の高い写りが得られました ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf6.3・1/500秒)・WBオート・ISO250・JPEG・焦点距離469mm

  • 500mmのテレ端で、ほぼ最短撮影距離で撮影しています。カメラ側の性能に依存するところでもあるのですが、細かな部分に正確にピントを合わせられました。手ブレ補正機構の効果も強力で、シャープネスの高い写りが得られました ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf7.1・1/500秒)・WBオート・ISO250・JPEG・焦点距離500mm

AFが高速なのも本レンズの特徴です。レンズの名称に「VXD」とあるようにリニアモーターフォーカス機構を搭載しており、スピーディで高精度な動作としています。静粛性も高く、クラシックのコンサートなどカメラの作動音に神経を使うような撮影でも活躍してくれそうです。今回の作例撮影では、鉄道や航空機、船舶など動く被写体を狙ってみましたが、結果はたいへん満足できるものでした。超望遠域をカバーするレンズですが、AFに関するストレスはゼロと述べてよいでしょう。

強力な手ブレ補正機構VCの搭載も見逃せないところです。手持ちでの撮影の場合、焦点距離が長くなるほど正確なフレーミングがしにくくなります。そのようなとき手ブレ補正機構の威力は絶大で、ファインダーに映る映像が安定し、思ったとおりのフレーミングに調整しやすく感じます。手ブレ補正機構の動作モードは、鏡筒にあるスイッチで通常撮影と流し撮りで切り替えられます。

  • 500mmのテレ端で、絞りは開放F6.7での撮影です。コントラスト、解像感とも十分。特に、ピントの合った部分の解像感は開放絞りとしては高く感じられます。ジェットフォイルからの高温の排気により、背景が蜃気楼のように揺らいで写っています ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf6.7・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離500mm

  • 最短撮影距離近くまで被写体に寄って撮影。絞り開放ながらピントの合った部分はシャープネスが高く、立体感のある写りが得られました。背景および前景のボケも美しく、ズームレンズとは思えないほどの柔らかさです。ブレの発生もまったく見当たりません ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf6.3・1/500秒)・WBオート・ISO800・JPEG・焦点距離423mm

  • こちらも絞り開放での撮影です。意図的に前ボケと背景ボケを入れてみました。焦点距離はワイド端に近い192mmとしています。被写体との距離が近いため、大きなボケが得られました。背景ボケおよび前ボケとも、嫌味のないナチュラルな感じです ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf5・1/200秒)・WBオート・ISO400・JPEG・焦点距離192mm

  • ワイド端の150mmで、開放から少し絞ったf8としています。よく見ると、わずかにディストーションが残っていますが、全体的にはよく補正されており、気にならないレベルと述べてよいでしょう。被写体のエッジのキレもよく、鮮鋭度の高い写りが得られました ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf8・1/160秒)・WBオート・ISO250・JPEG・焦点距離150mm

ほかのマウントにも展開してほしいと感じる超望遠ズームの佳作

画角と鏡筒の大きさ重さ、そして写りを考えると、とても完成度が高く魅力的に思えるレンズです。「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」(実売価格は32万円前後)や「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」(同278,000円前後)などのソニー純正超望遠ズームと比べると手に入れやすい価格帯であり、少しでも被写体を大きく写し止めたいEマウントユーザーは注目してほしく思えます。

タムロンに期待したいのは、キヤノンRFマウントやニコンZマウント用のレンズもぜひリリースしてほしいこと。大人の事情があったりするようですが、ぜひ同社には解決していただき、本レンズの写りの凄さやハンドリングのよさをEOS RシリーズのユーザーやZシリーズのユーザーにも味わってほしいと思います。

  • フォーカスモードはAF-C(コンテニュアスAF)で撮影し、フォーカスエリアは先頭車両と重なる位置としています。AFのレスポンスはよく、被写体をよく捕捉しています。この場所では、何カットか似たような写真を撮影しましたが、いずれもピントを外してしまうことはありませんでした。手ブレ補正機構もよく効いています ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf6.3・1/400秒)・WBオート・ISO320・JPEG・焦点距離387mm

  • 航空機の撮影でも本レンズは活躍してくれそうです。広いズーム域を持つため、周りの情景を積極的に取り入れた撮影から機体のクローズアップまで、多彩な撮影に対応します。手ブレ補正機構は、流し撮り専用のモード2を選択しています ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf9.0・1/4000秒)・WBオート・ISO800・JPEG・焦点距離500mm

  • あらかじめアングルを決めて撮影する際、ズームリングを固定できるフレックスズームロック機構はとても便利。ズームリングが不用意に動くことがないため、狙った通りのアングルで撮影が楽しめます。この作例の撮影でも同機構を使い、ズームリングを固定して撮影しています ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf5.6・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離352mm

  • 絞り開放での撮影となります。周辺減光はほとんど気にならないレベルで、コントラストも上々。半逆光ですが、フレアの発生も見受けられないようです。街の風景スナップのような撮影でも活躍してくれそうな望遠ズームレンズです ソニーα7C・絞り優先AE(絞りf5.0・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離189mm