ホンダ「シビック」が来年で50周年を迎える。その直前に登場するのが、このたび発売となった11代目「シビック」だ。ホンダが「乗る人全員が『爽快』になる」ことを目指したという新型シビックだが、お手本にしたのは3代目の「ワンダーシビック」だという。
“爽快”シビックに決めた理由
ホンダ 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 車両企画管理課 LPL チーフエンジニアの佐藤洋介氏は、11代目シビックの開発の方向性を決める初期の時点で、ある言葉を思い出したそうだ。それは初代シビック発表の際に、あるジャーナリストが発した言葉だった。
「一服の清涼剤のようなクルマが、日本からも誕生したと形容してもらったんです。つまり、つかの間のさわやかな気分にさせてくれるクルマです。開発メンバーとしては、いまも、そしてこれからの時代にもふさわしい、一服の清涼剤のようなクルマにしたいという思いで、11代目シビックの開発に取り組みました」
11代目シビックのグランドコンセプトは、「親しみやすさの『アプローチャブル』、さらに特別な存在感の『スペシャリティー』を掛け合わせ、人中心にすべてを磨き上げ、お客様を心から爽快にしたいという思いで“爽快シビック”と名付けました」とのこと。爽快の「爽」の字には、「人という字が中心に入っています。ホンダのDNAである人中心という思いを込めました」と語る。
デザインについては「改めて過去のシビックを振り、人中心というホンダのDNAを最も強く感じたのが3代目『ワンダーシビック』でした」と佐藤氏。「ワンダーシビックの開放的でグラッシーなキャビン、そして薄く軽快に見えるボディ。これをいまの、そしてこれからの時代にふさわしいシビックに、どのように反映していこうかというのが原点です」とデザインに込めた思いを教えてくれた。
では、新型シビックの原点となった「ワンダーシビック」とは、どういうクルマなのだろうか。
ホンダの「M・M思想」を如実に表現した1台
1983年9月22日に「シビック・バラードシリーズ」のフルモデルチェンジが行われ、3代目としたデビューしたのがワンダーシビックだ。シビックシリーズ(3ドアハッチバック、4ドアセダン、シャトル5ドア、Pro)およびバラード4ドアセダンと、先に発売されていたバラードスポーツCR-Xを含めて6種類のラインアップを誇っていた。
シビック・バラードシリーズの広報資料によると、「居住性や走りなどクルマに求められる性能、機能を最大限に追求しながら、一方、これらを生み出すエンジン、サスペンションなどのメカニズム部分は小型、高密度で高性能な設計にするといったM・M思想をもとに開発。さらに、来るべく新しい時代のF・F小型車として3ドア・4ドア・5ドアそれぞれのタイプを目的別・生活別に最大限に追求し、それぞれが明快な個性をもつクルマとして、全く新しい考え方のシリーズ展開のもとに開発したものである」との説明があった。「M・M思想」とは「MAN(マン)-MAXIMUM(マキシマム)・MECHA(メカ)-MINIMUM(ミニマム)」を意味する言葉で、ホンダのDNAを明確に示す考え方だ。
ワンダーシビックのデザインは新しい時代のFF・2ボックスを追求した造形となっている。ボディには空力フォルムと居住性を両立させるべく斬新なロングルーフデザインを採用。これにより、ロングキャビン化による居住性スペースの大幅な拡大を可能としつつ、すぐれた空力性能を実現している。
「低重心、ワイド&ローのビュレット(弾丸)形状」とホンダが表現したワンダーシビックだが、空力を優先すると居住スペースを確保しにくくなるのは今も当時も同じだ。そこでワンダーシビックでは、居住スペースを前後方向に伸ばし、テールエンドでスパッとカットすることにより、風の剥離現象を起こすことなく、スムーズに流す空力フォルムを完成させた。その結果、スペース面ではリアのヘッドクリアランスを大きく確保しつつ、後席をより後ろに下げることが可能となったのだ。
エクステリアにフラッシュサーフェスボディを採用していることも、当時としては新しかった。フルドアタイプを採用することでボディとドアの間の段差を解消し、フロントとリアは風切り音を抑える接着ガラスタイプとすることで、ボディ面とガラス面の段差をわずか3mmに抑えていた。
「クリスタルゲート」と呼ばれるリアのハッチゲートには、高質の大型曲面ガラスを採用。リアコンビネーションランプのすぐ上から大きく開くハッチは使い勝手がよく、走る楽しさも感じられた。
このように、M・M思想を余すところなくエクステリアデザインで表現していた3代目シビック。その思いを“爽快さ”で改めて表現した11代目シビックは、ワンダーシビックの志をどこまで具現化できているのか。実車を見て判断して欲しい。