お笑い芸人として、そしてミュージシャンとして活躍するふかわりょうさん。
最近では『バラいろダンディ』(TOKYO MX)の新MCに抜擢され、昨秋にはエッセイ『世の中と足並みがそろわない 』(新潮社)も刊行。多彩な才能を発揮し、ますます活動の場を広げるふかわさんですが、その裏には、幅広い仕事をこなす人間ならではの苦労もありました。
今回は、ふかわさんに"好き"を仕事にすることの意義についてインタビューを実施。お笑いと音楽にかける思いや仕事の流儀について、お話をうかがいました。
▼お笑いか、音楽か。ブレイクするまでの道のり
―― まずはお笑い芸人になった経緯やキッカケなどを教えてもらえますか?
子供の頃からテレビに夢中で、この世界に入りたいという気持ちはありました。音楽をやりたいとも思っていたんですけど、高校生のときにお笑いの道を選ぼうと決意しました。年を重ねても年齢がハンディにならず、むしろ"味"になるような職業に就きたい。そう考えると、やっぱりお笑いと音楽はすごく魅力的に感じました。
―― では、音楽は一度諦めたということですか?
ピアノを始めたのが小3のときで、プロを目指すには遅いスタートだと判断しました。それもあって、音楽は趣味としてやろうと折り合いつけ、20歳でお笑いの門を叩きました。もともとヴィジョンを描きながら行動するタイプでしたが、お笑いはひとりで始めたのでいろんな試行錯誤がありました。
―― ふかわさんと言えば、BGMに合わせて一言ネタをいう芸風でブレイクしましたね。
あのネタは、コンビニでバイトしているときに、最初のインスピレーションがありました、会計のときに、お客さんが端数をあとから出すじゃないですか? 「あっ、6円あります」みたいな。その言葉が耳に残っていて、「こういう、"数カ月に1回くらい耳にするフレーズ"を集めたら面白いじゃないか」って思ったんです。当時はまだあるあるネタやリズムネタという括りもない時代だったんですけどね。
▼ブレイクを決定付けたのは「ジャケット買いによる出会い」
―― 「これはペットの臭いじゃないだろ」「もう、おぎわらでもはぎわらでもどっちでもいいだろ」など、なんか共感できるフレーズですよね。
そして、ジャケ買いをしまくっていたときに、『London Jazz Classics Vol.3』っていうアルバムに出会うんです。その2曲目に、のちに一言ネタのBGMで使うことになるDonna McGheeの『MR.BLINDMAN』が入っていて、流れた途端にイメージがぽんっと浮かんだんです。頭の中にあることとか結集して、エアロビクスのネタになりました。
―― そんな舞台裏があったとは。
曲に出会ったときがビッグバンでしたね。
―― ネタは最初から爆笑をかっさらったんですか?
最初にネタやったときは、ひとつめの一言ネタでは無風、ふたつめの一言ネタで客席がザワザワし始めて、みっつめで風が大きくなるのを感じました。最初は意味がわからないけど、最後は盛り上がって終わる。その時、「このネタは世に出る」と確信しました。そこからは、僕の芸風に目をつけてくれたディレクターやスタッフとの出会いが大きかったですね。
―― そして現役の大学生ながらブレイクした、と。
昔は、今で言う"第七世代"のように、若手芸人がチヤホヤされることなんてまったくなかったんです。むしろ、タレントとして認知されるまではスタッフも目を合わせてくれないレベルで(笑)。当時はゴールデンの時間にネタ番組もなかったし、今みたいにYouTubeもない。若手には厳しい冬の時代でしたが、冬の間に糖度を増す野菜のように、熟成期間としてプラスに働いたと思っています。
▼番組MCも「音楽を届けるつもりでやっている」
―― その後はMCや音楽でも頭角を現すわけですが、ふかわさんが思う"さまざまな仕事をこなす楽しさ"について教えてください。
ビートたけしさんのように執筆や映画などで幅広く活動している人への憧れもありました。よく「芸人はネタだけやってろ」「芸人なのに映画なんて撮るな」という声もありましたが、そんな声には違和感を覚えていました。ましてや、僕は音楽をやりたいという思いもずっとありましたし、根底ではつながっているものなので。
結局、お笑いの仕事をしていると音楽に携わる人とも接点ができるじゃないですか。そうこうしているうちに音楽への思いがまた沸々と煮えたぎって、いてもたってもいられなくなって。それで始めたのがDJだったんです。
―― やはり風当たりは強かったんですか?
当時は今よりDJをやっている人も少なかったから、余計「芸人のくせにチャラチャラするな」と白い目も向けられました。でも、好きでやっているのでしょうがないですよね(笑)。僕からすれば、お笑いと音楽は無関係ではなく、むしろ表裏一体です。お笑い芸人は、みんなDJを体験したほうがいいとさえ思いますよ。曲の流れを組み立て、人の気持ちを変えていく。これはエンタメをやるうえで重要なことだし、お笑いに通ずる部分だとも思います。
―― そこまでお笑いと音楽がリンクしていたんですね。
僕は『バラいろダンディ』という生放送の番組でMCをしていますが、これも音楽を届けるつもりでやっています。お茶の間はダンスフロアと一緒だと思っていて、みんなでトークしたあとに、カーティス・メイフィールドの『Mo ve On Up』が流れるのですが、出だしの「カンカン!」というスティック音から始まるその気持ちよさを、番組のスタッフたちとも共有できています。
―― それはかなり独特な考え方ですね。
サザエさんもミュージッククリップだと思っているんですよ(笑)。視覚情報と聴覚情報の力はやっぱり違って、人は見ているようでいて、実は耳で感じる感動も大きいんです。音の力はすごいですよ。学生の頃や中学の頃に聞いていたアルバムをたまに聞き返すと、当時の思い出が蘇りますよね? 音が記憶を保存してくれている。番組にとって、音楽はとても重要です。