スバルのSUV「レガシィ アウトバック」が、再び日本でも販売されることになった。米国では2019年1月のニューヨークショーでお披露目された新型アウトバックだが、それから2年半余りを経ての日本導入だ。なぜ今、アウトバックが日本に上陸するのだろうか。

  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」

    スバルが「レガシィ アウトバック」日本仕様の予約受け付けを開始!

日本導入がこのタイミングになった理由

日本導入が遅れた理由としては、国内で人気の高い運転支援機能「アイサイト」の最新版である「アイサイトX」を搭載するうえで、アウトバックの車両開発とアイサイトXの開発がタイミング的に一致しなかったことが影響したようだ。スバルは2020年に発売した新型「レヴォーグ」に「アイサイトX」を初採用し、今回の日本向けアウトバックにも適用することとした。

スバル独創のアイサイトは、独自のステレオカメラ方式を採用しているため、各車両への適応が必要となる。かつての初代「レヴォーグ」導入の際には、それに時間を要し、発売時期が遅れたことがある。

車両との相性を最適にしたうえで市場に導入するアイサイトは、同等の性能を持つ他社のシステムに比べ安心感や親近感が高い。理由は、人間(の眼)と同じく、左右のカメラで前方を見る方式だからだろう。前方認識には早くからカラー画像を取り入れ、ブレーキランプの点灯を認識しやすくするなど、人間と同じ感覚で状況を把握できる点が大きい。

  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」

    新型「アウトバック」の日本仕様は「アイサイト」の最新版「アイサイトX」を採用。これを搭載するため、日本導入を遅らせたのだろう

日本仕様と北米仕様では、搭載するエンジンも異なる。

大排気量エンジンで親しまれてきた米国車も、近年では欧州車と同様にダウンサイジングが進み、直列4気筒ターボエンジンを積む新車が増えている。だが、米国消費者の心情はなお、大排気量エンジンへの期待が高い。したがって新型アウトバックにおいても、搭載するエンジンの仕様が日米で異なるのだ。日本仕様が搭載するのは、新型レヴォーグと同じ排気量1.8Lの水平対向4気筒ガソリン直噴ターボ。ハイブリッドなど、電動化の採用はいまのところなさそうだ。

  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」

    新型「アウトバック」は「レヴォーグ」と同じく1.8Lの水平対向4気筒ガソリン直噴ターボエンジンを搭載する

北米向けアウトバックは米国で生産しているが、日本仕様は群馬工場で専用に生産することになる。これも、国内導入に時間がかかった理由だろう。

日本でも人気は出る?

では、スバルが日本に最適化して開発した「レヴォーグ」という人気商品のある日本市場で、新しく入ってくる「アウトバック」は多くの顧客を獲得できるのだろうか。考察してみる。

アウトバックの原点は、2代目「レガシィ」に車種追加された「グランドワゴン」(のちに「ランカスター」と呼んだ時期もある)だ。

レガシィの前の「レオーネ」時代から、ステーションワゴンの「ツーリングワゴン」は他社と違う独特な存在として人気を集め、スバルを牽引してきた。リゾート地へ、荷物を積んで仲間と一緒に快適に移動するためのクルマとして評価されたが、ことに冬のスポーツでは、4輪駆動であることがスバルならではの価値として認められた。低重心の水平対向4気筒エンジンにターボチャージャーを組み合わせた性能は、「リゾートエクスプレス」として俊足の移動を実現した。

それをレガシィでも受け継いだのだが、グランドワゴンは車高をやや高くし、悪路走破性の高さを目にも印象付けるフェンダーの造形などを取り入れ、人気を得た、リゾートエクスプレスとしての性能を継承しながら、目的地では未舗装路にも入っていけて、床下をこするなどの心配をすることなく、自在に進路を選べるクルマに進化していたのだ。

  • スバルの「レガシィ グランドワゴン」

    これが「レガシィ グランドワゴン」だ

こういったタイプのクルマを探すと、海外メーカーではアウディ「オールロードクワトロ」やボルボ「V70XC」(現在のXCとは異なる)などがあったが、グランドワゴンの誕生はそれらより早い。米国では当初から「アウトバック」の車名で販売され、ヒットした。

例えばアウディのオールロードクワトロは、確かに高性能ではあったが、価格はアウトバックの2倍ほどした。欧州ではターボチャージャーによる過給や4輪駆動など、追加の技術があると、その分がそのまま価格に反映される。一方、日本車も追加の性能分は価格に反映されるものの、原価低減の努力を行うことで、できるだけ消費者が手に入れやすい価格に収めようとする。しかも、日常的に手に入れられる性能に大きな不足があるわけではない。

ことにドイツ車は、「アウトバーン」という速度無制限区間のある高速道路を前提に高性能車を開発するため、時速200キロ以上での連続走行も視野に入れながら性能を作り込むため、負荷が大きい分、耐久性などにはより多くの開発費がかかる。

一方、米国は日本とほぼ同等の速度での利用が中心だ。したがって、スバルのようなクルマは、必要とする人にとっては容易に手に入れられるし、十分な性能を備えているという得難い存在なのである。

そもそも、4輪駆動を悪路だけでなく舗装路でも活用し、アウトバックのような商品価値を創出したのはスバルが先駆者だ。ことに、季節を問わず大陸を横断したり縦断したりするうえ、場所による気温の差が大きく、気象条件も多様な米国では、アウトバックの存在価値が大いに高まる。それが証拠に、北米で販売される新車のタイヤは、どのメーカー、どの車種もオールシーズン仕様が標準だ。

日本ではグランドワゴンやランカスターなどの車名を名乗ったこともあるが、米国では当初からアウトバックとして販売され、今回の新型が6代目となる。この6代目アウトバックが、再び日本にやってくるのである。

大きな車体がかえって人気に?

新型アウトバックは米国での利用を主体として考えられているので、車体寸法がそれなりに大きい。全長×全幅×全高は4,870mm×1,875mm×1,670mm~1,675mmである。比較として、レヴォーグは4,755mm×1,795mm×1,500mmだ。3ナンバー車なのは一緒だが、レヴォーグは立体駐車場の利用も視野に入れた車体寸法になっている。

  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」
  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」
  • 新型「アウトバック」は「X-BREAK EX」(左)と「Limited EX」(右)の2グレード

そのうえで、国内では都市部を中心に輸入車のSUVやステーションワゴンを利用するユーザーが多く、大柄な車体を苦にしない消費者は確実にいる。

アウトバックの日本における販売台数は、アウトバックと名乗って以降の2003年からの累計で約12.1万台だ。2019年までは登録車販売ランキングの上位50位以内に顔を見せていたが、2019年には米国で次期型(現行型=6代目)が発表となり、4ドアセダンの「レガシィB4」が2020年度上期に販売終了となったこともあって、売り上げが大きく下がった。日本におけるアウトバック(前型)の販売は2021年1月に終了している。

しかしながら、それまでの販売動向では、レガシィ販売のうち平均78%がアウトバックだったから、日本にアウトバックへの根強い期待があるのは間違いないだろう。アウトバックという車名は、日本国内でもひとつのブランドに育っている。

販売店では、新型アウトバックへの問い合わせが都内を中心に多いという。大型SUV人気が続く輸入車の動向と連動しているといえそうだ。

  • スバルの新型「レガシィ アウトバック」

    都内の販売店では新型「レガシィ アウトバック」への問い合わせが増えているとのこと(写真は「Limited EX」のインテリア)

新型アウトバックはスバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)を採用している。新型レヴォーグに試乗した印象から考えると、SGPの採用による走行性能の飛躍的な向上は、アウトバックでも期待できるだろう。130キロほど重くなる車両重量に対しては、最終減速比が変更されており、これにターボ過給とリニアトロニックのCVTの制御を併用することで、動力性能を補っているはずだ。それが証拠に、WLTCの燃費性能において、アウトバックとレヴォーグの差(悪化)は0.6~0.7km/L程度に収められている。

すべての消費者にというわけではないにしても、歴代のアウトバックを利用してきた所有者や、あるいは人気の輸入車とは違った味を求める消費者にとって、新型アウトバックは有力な選択肢となり得る商品性を持っているように見える。