ルールを知ればリスクを回避できる
物ごとの多くにはルールがある。つまり決まりごとだ。ルールがなぜ作られたのかと言えば、ルールを守らなければ、秩序が乱れ、犯罪が横行するが、ルールが有ることで自制心も働く。スポーツもそうだ。ルールを守ることで、リスクを回避できる。ちなみにここで言うリスクは危機的な意味でのリスクである。
つまりルールとはリスクを冒さないためにあり、そのリスクを回避するための守るべき大事な掟なのだ。
投資が怖いという人の多くは、このルールを知らない。知らないものは、やはり怖い。それが人間の心理だ。逆にルールを知っている人は、ルールからリスクが回避できることを理解しているので、資産を保全したり、損失したりするリスクから守る行動ができるようになる、またそれだけではなく、事前にそのリスクを察知し、未然に起こり得るリスクを事前に対応する判断ができるようになる。
まずは投資のルールを知れば、リスク回避につながることを理解するべきだ。そうすれば、投資に対する恐怖心は大きく和らぐに違いない。
ストライクゾーンだけ狙え
2021年の米国メジャーリーグでは「二刀流」の大谷翔平選手が大活躍している。もしあなたがメジャーリーガーの野手だとして、ピッチャーとしての大谷選手と対戦するとしよう。あなたは相手の球種や配球、クセなどをよく研究するに違いない。
一流のバッターは、投手の球筋を見極めるのがうまいバッターが活躍する。引退したイチロー選手は、天才バッターだと言われて日米でヒットを量産したが、彼も相手ピッチャーをとことん研究していたからこそ、ヒットを量産し続けることができたのだ。
もちろん、研究すればイチロー選手になれるわけではないが、一流の選手は確実に打てる球を狙っているからヒットを量産できると言われている。これがいわゆる打撃理論の基本中の基本であり、ここではこのことを「ストライクゾーン理論」と呼ぶことにする。
この理論は、投資の世界でも実は大いに当てはまる。投資の世界のストライクゾーン以外には手を出さなければ凡打や振り損ね(損失)を減らし、ヒット(利益)を増やすことができるようになる。
狙いを定めるという意味では、投資も同じだということをまずは理解しておこう。
投資のストライクゾーン理論
では、投資の世界のストライクゾーンとは何を指すのだろうか。それは、資産を成長させることのできる投資商品のことだ。ズバリ「株式」「債券」「不動産」の3つに定めるとよいだろう。これらを投資のストライクゾーンと定めると、他のものはボール球ということになる。よって手を出す必要のない球、つまり投資をする必要はないという結論になる。
例えば、暗号資産と呼ばれる仮想通貨は、あなたにとっての投資のストライクゾーンかと聞かれたら自信を持ってNOと答えていいということだ。最も有名な仮想通貨の1つはビットコインだ。一時日本円で1ビットコイン=600万円を超えたが、その後300万円台まで落ち込んだり、その後また400万円台半ばまで上昇したりとつかみどころがない。こうしたものに多額のお金を投じると、まるでジェットコースターに乗った気分で気も休まらない。
株式、債券、不動産に的を絞ればいいというのは、この3つは共通点があるからだ。それは「人間にオーナーになる」ということ。加えて言うならば、更には「社会的価値を生み出す」という投資先がこの3つなのだ。次のところで詳しく見ていこう。
人間のオーナーになるという投資の原則を知る
株式、債券、不動産への投資が人間にオーナーになるというのはどういうことか。まずは株式について話をしよう。例えば日本で一番大きな時価総額を誇る企業はトヨタ自動車だ。この企業に投資をする場合、その株を買えばあなたはその企業の持ち分に応じたオーナーになることができる。つまり会社の社長や役員をはじめ、全ての従業員のオーナーになるわけだ。
会社は社員たちが働いて利益を生み出し、その利益を生む行為が社会的価値である。そしてオーナーはその最終的な利益を配当という形で受けとる権利を有している。
債券の場合はどうだろうか。国債を買ったとしよう。この国債によって集めたお金は国の予算に組み込まれ、道路や橋を建設する公共事業に使われたり、災害復興事業などに当たれたりする。国債を買うということは、広義では国民のオーナーになることでもある。
不動産はどうか。あなたが投資用にワンルームマンションを買ったとしよう。そのマンションには賃貸人がつく。賃貸人は大家であるあなたに家賃をもたらしてくれる。これもまさに人間のオーナーになっているということだ。
この3つだけをストライクゾーンと捉えて、あなたはその他には手を出す必要はない。どんなに良さそうに見える商品も手を出してはいけない。なぜならば、それはあなたにとってボール球なのだから。これがストライクゾーンを見極めるということだ。
例えばFXや仮想通貨で資産運用をする場合を考えてみよう。この場合、投じた資金が基本的に上がれば儲かる、下がれば損をするというものだ。こういうもので利益を出すのは実は至難の業だ。人間のオーナーになるというものではなく、言うなれば一種のゲーム。それもゼロサムゲームと言われるものだ。
投資はゲームではない。投資の世界ではゲーム性のある商品はボール球であると意識しておけば、ストライクゾーンを見失うことはなくなるはずだ。まずはストライクゾーン理論を念頭に投資に取り組むように心がけるようにしよう。
著者プロフィール:市川雄一郎(いちかわ・ゆういちろう)
グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP。MBA/経営学修士。日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。テレビ、新聞、雑誌等のメディア活動経験も豊富。主な著書に『投資で利益を出している人たちが大事にしている45の教え』(日本経済新聞出版)がある。