富士通クライアントコンピューティングは、同社のPC「FMV」シリーズにプリインストールしているAIアシスタント「いつもアシスト ふくまろ」の新たなサービスとして、「ふくまろおしえてサービス」を2021年8月16日から開始した。

2021年は富士通のパソコンが発売されてから40周年となり、年間を通じて様々な記念企画や記念製品の発表を計画している。今回のふくまろおしえてサービスは、40周年記念企画の第2弾となる。

ふくまろおしえてサービスは、AIアシスタント「いつもアシスト ふくまろ」を利用して、高齢者をはじめとした「デジタル苦手さん」にパソコンの使い方などをサポートするもの。従来、こうしたサービスはAI機能などによる先進技術を利用したり、コールセンターによる専門家を通じた課題解決を目指していたのに対して、ふくまろおしえてサービスはLINEアプリとふくまろを組み合わせて家族同士をつなぎ、家族同士でパソコンの操作方法などを教えやすい環境を提供する点が特徴だ。これまでにはない視点で新たなサポートの仕組みを構築したといえる。

  • 「ふくまろおしえてサービス」は、パソコンの使い方やトラブル解決を「家族に教えてもらう」ことを手伝うサービス

「パソコンを活用してもらうために、またユーザーの困りごとを解決するために、何ができるかが大切。これまではそのゴールに向けて、ふくまろを活用し、魔法使いのように、できることはすべてやることを目指してきた。一方、家族にも協力してもらうことで、課題解決のゴールに近づけると考えた。新たなサービスは、困りごとを解決するという目的を達成することには変わりはないが、手段を変化させたもの。その点では、ふくまろの大きなフェーズチェンジである」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

  • 富士通クライアントコンピューティング 取締役会長 齋藤邦彰氏

開発段階では「ふくまろDash」という仮称で呼ばれていたが、よりわかりやすく、親しみやすい名称(ふくまろおしえてサービス)に変更して、正式にリリースした。

ふくまろおしえてサービスが想定するのは家族同士によるサポート。たとえば、パソコンに不慣れな高齢者を、日常的にパソコンを使っている息子や娘などの離れて暮らす家族が、遠隔操作で使い方をサポートするといったものだ。FMVシリーズに搭載されているふくまろに、「ふくまろ、おしえて」と話しかけて利用する。

サポートを依頼する側は、ふくまろに「家族に教えてもらいたいことがあるんだけど」と話しかけると、ふくまろが「家族に遠隔操作をお願いするまろ」と答えて、LINEアプリから自動的に家族のLINEグループにメッセージを送り、パソコンの使い方について質問があることを通知。家族の誰かがすぐにサポート可能であれば、発行される6桁のセキュリティコードをLINEで送り返す。サポートを受ける側がこのセキュリティコードを目の前のパソコンに入力して許可ボタンを押すと、画面が共有され、家族がパソコンをリモート操作できるようになる。

  • ふくまろおしえてサービスは、LINEアプリを介在させている点がポイント

  • パソコンに詳しい家族が、祖父母のパソコンをリモート操作して教えるイメージ

上記の仕組みにはWindows 10の標準機能「クイックアシスト」を利用しており、これを3ステップで利用できるようにしているのが特徴だ。

パソコンに不慣れな利用者でも、セキュリティコードを入力する場所や許可ボタンを押す操作などはふくまろがガイドするため、迷わず遠隔操作モードに移行できる。うまくいかない場合には再びふくまろに話かけて、最初から何度もやり直せる。

  • サポートを受ける側は、ふくまろに話しかけて、家族にサポートを依頼

  • 家族のLINEグループに自動でメッセージが流れ、サポートする側は自分のパソコンでクイックアシストのセキュリティコードを発行。そのセキュリティコードを、家族のLINEグループで伝える

  • サポートを受ける側は、自分のパソコンでクイックアシストにセキュリティコードをを入力

  • サポートを受ける側・サポートする側の両パソコンがつながる。サポートする側のパソコンから、サポートを受ける側のパソコンをリモート操作可能に

  • ふくまろおしえてサービスの流れ

一例として、祖父母がパソコンに保存している家族旅行の写真を見たいといった操作や、その写真をスマホに送信するといった操作を、家族が遠隔からリモート操作してあげられる。ネットショッピングなら購入と決済まで、そして新型コロナワクチン接種の予約も、家族がリモート操作で代行することが可能だ。

「目的が明確な場合は、操作を教えるよりも、家族が代わって操作をしたほうが最適な場合もある。高齢者は、ふくまろに伝言する気軽さで家族にお願いして、家族も都合が悪いときには後で連絡するからと気軽に返せる。家族というつながりをもとに、お互いに負担が少ない環境が作れるようにしている」(富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部 青山裕司事業部長)

「ネットショッピングの場合は、コールセンターの専門家にリモート操作してもらうこともできるが、購入ボタンまでは押せないという課題がある。家族であれば、リモート操作で購入ボタンを押すところまでできる」(富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部第三技術部 千葉祐太氏)

  • 富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部 青山裕司事業部長

  • 富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部第三技術部 千葉祐太氏

リモート操作を行う家族にはマイクロソフトアカウントが必要だが、支援をしてもらう高齢者には不要。また、支援を受ける側はFMVシリーズのパソコンが前提となるが、サポートする側のパソコンは他社製でもかまわない。

さらに、ふくまろとの会話では「家族にパソコンを診てもらう」といった操作のほか、「専門家にパソコンを診てもらう」、「専門家に来てもらう」、「ネットで教えてもらう」といったメニューも選べる。こうした選択肢では、「PCコンシェルジュサービス」の専用電話番号や事前の準備内容を表示したり、Yahoo知恵袋やOKWAVEといったネットサービスに誘導する。

富士通クライアントコンピューティングでは、これまでも電話で相談する「PCコンシェルジュサービス」、専門家が訪問して課題を解決する「PC家庭教師」、各種サービスメニューを用意した「My Cloudプレミアムあんしんスタンダード」、パソコン以外の住まいの困りごとまでサポートする「My Cloudプレミアム安心ワイド」といったサービスを用意してきた。

「高齢者のユーザーには、ちょっとわからないだけし、専門家に問い合わせるには費用がかかるし、個人情報を知られるのもちょっと心配だという声がある。気軽に家族に聞けたらいいのにといった要望があった。また、Windows 10にクイックアシストという機能があっても、知らなかったり準備が難しかったりした。ふくまろおしえてサービスは、そうした要望に応え、利用時の課題を解決するもの」(富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部 青山裕司事業部長)

  • AIアシスタントとしてのふくまろができること

ふくまろおしえてサービスは、離れて暮らす家族に教えてもらうことを「お手伝い」をする機能と位置づけて、開発を進めたという。社員が高齢者の家族と実際にやりとりしながら、ユーザーとして検証。毎週2回ずつチームがミーティングして、アジャイルでUI・UXを改善していった。「サポートを受ける親の気持ちとしては、この前も同じことを聞いたような気がする、家族にイライラされたらどうしよう――と思うことがある。サポートする子ども側も親を助けたい気持ちはあるが、電話で聞かれても状況がわかりにくい、ところかまわず電話されても困るという状況がある。双方の本音に向き合った結果、LINEを利用して、ふくまろに話しかけるだけでつながる環境を作った」という。

当初は、サービス全体を自前で構築することも考えたが、多くの高齢者がLINEを便利に使っていることがわかったため、ふくまろおしえてサービスに取り込むことにした。「トライ&エラーを繰り返しながら、開発を進めていった。家族同士が気持ちよく、ちょうどいい関係で、サポートの橋渡しができる環境を作った」とする。

  • 富士通クライアントコンピューティングの社員と家族がユーザー検証を実施

今回の開発では、サービス開始直前まで改善を繰り返したほか、コールセンターとの連携によって、ユーザーの困りごとの変化なども分析。今後も継続的にブラッシュアップを進めていく。

「ネットサーフィンやメールのやりとりだけでなく、パソコンの優れた機能をもっと使ってもらいたい。そのために家族にサポートしてもらうのも重要な手段と考えた。家族で解決できないときには、プロが手伝える環境も用意している」(富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業部 青山裕司事業部長)

富士通クライアントコンピューティングの齋藤会長は、「富士通クライアントコンピューティングの社員には、ふくまろおしえてサービスを使って、親から連絡があったら、就業時間中でも親のパソコンをサポートしていいことに決めた」と笑う。これも、社員の声をサービスの進化にフィードバックする仕組みのひとつに位置づけている。

なお、ふくまろは2021年冬に新たな家族の見守り機能を追加するという。青山事業部長は、「ふくまろは機能的価値と情緒的価値を融合させながら進化させたい。将来的には家族の一員になることを目指す」としている。

コロナ禍によって、デジタルディバイドの課題がより大きく

齋藤会長は、コロナ禍において外出機会が減少し、おうち時間が増加していることにあわせ、これまで以上にオンラインに対するニーズが高まっていることを指摘する。

「外出できない、人に会えないという厳しい生活が続き、オンラインを通じてコミュニケーションをとったり、オンラインで様々なものを購入したりといった動きが増えている。だがその結果、オンラインが使えるか使えないかで、生活の便利さや楽しさに大きな違いが生まれている。便利なオンライン社会が作られても、使えない人がいたり、使いやすい環境が提供されていなければ、その価値は発揮できない。この40年間で富士通のパソコンが目指してきたのは、そうした課題の解決。デジタルが苦手だと思っている人にも、パソコンでオンライン生活を楽しんでもらうようにすることが、私の強い信念だ」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

齋藤会長が指摘するのが、「生活者」とオンラインによって生まれる「便利な社会」の間には、大きな「川」があるということだ。

  • 「川」を渡れるか

「オンラインで実現する便利な社会に行くには、大きな川を渡る必要がある。この川を渡ることができれば、便利でワクワクした世界がやってくる。だが、渡れないと不便な生活を強いられる。ワクチン接種のネット予約はその一例だ。私の母もこの川に妨げられ、1人では川を渡れずに家族が支援した。1人では川を渡れず、いまだにワクチンを打っていなかったかもしれない。基本的な生活を脅かしかねないこと。オンラインによる便利な社会を自由に往来できることが、ますます重要になる。

川を渡る方法はいろいろある。スマホやテレビも川を渡る橋になる。そのなかでもパソコンは、川を渡るのには一番の道具であり、最も橋の幅が広い。UI・UXの点で最も優れ、大量のデータを送れ、迅速な処理ができるからだ。外出できない生活において、パソコンを使ってオンラインによるワクワクをもっと体験してほしい」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

パソコンがあれば1人じゃないこと、離れて暮らしていても、家族が助けてくれること、いまや不可欠となったオンライン生活を安心して楽しめるように、価値を提供する形で進化させたいとする。ただ、パソコンが持つ課題がある。使い方が「難しい」という状況が、パソコン登場以来ずっと続いていることだ。

「パソコンは難しく、いまから覚えるのは無理だという声があるのも事実。しかも、高齢者のワクチン接種の現状を見て、デジタル苦手さんが想像以上に多いことがわかった。パソコンは何でもできると言われるが、実は何もできないのではないかという捉え方もされている。それは私も感じていること。新たな技術が人のためになり、やさしい技術になることを目指したい。FMVシリーズのパソコンは40年間お客さまに寄り添い、困りごとを解決してきた。その実績をもとに、40年の節目を迎えた今年から、パソコンは難しいという概念を取り払うための努力を新たにスタートさせたい」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

  • パソコンは1人1台でも、家族と一緒に使うことで楽しく、生活も便利に

今回のふくまろおしえてサービスはその第一歩といえそうだ。

「パソコンは難しいもの、覚えないと使えないものではないという環境を目指す。親世代がデジタル苦手さんになる一方で、生まれたときからスマホに触れている世代は、極めてデジタルリテラシーが高い。ふくまろおしえてサービスは、パソコンは離れて暮らす家族と一緒に楽しむものとして見つめなおした結果、生まれたサービスでもある」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

そして「ふくまろ」そのものの進化も継続的に進めることを示す。

「デジタルが苦手な人がパソコンを使いやすいように、ふくまろが手伝う取り組みはますます進化させていく。ふくまろが魔法使いとなって、パソコンすべての機能を自由に操り、成し遂げたいことを成し遂げる。将来的には、パソコンで何かをやりたいといった場合に、パソコンの代わりにふくまろが何かを行うことも目指したい。最終的には、ふくまろが家族の一員になるという目標もある。将来はパソコンというハードがなくなりUIだけが残るのかもしれないが、そうした時代が来たとしても、目に見えるものとしてユーザーを助けるのがふくまろだ。ITがどんなに進化しても、最高の魔法使いとして、助けることができるパートナーでいられるように成長させたい」(富士通クライアントコンピューティング 齋藤邦彰会長)

  • いまITに詳しい世代も、10年20年30年後はどうなっているだろうか

富士通クライアントコンピューティングが目指しているのは、あらゆるユーザーに、快適で、優しく、美しい暮らしを体験してもらうことだという。齋藤会長は「オンライン生活に配慮した製品づくりはもちろん、デジタルに弱いユーザーを徹底してサポートする。いまはまだ簡単に使えるという理想には届いていないが、できるだけ多くの人にオンライン生活のワクワクを体験してもらいたい」と語る。

「技術は、生活に溶け込まないと新しい使い方ができない」というのが齋藤会長の考え方だ。それを実現するためのやさしいサービスの創出と、使いやすいモノづくりを、今後も追求していく考えを改めて強調した。