永瀬拓矢王座の消費時間は77手目まででわずか25分。木村一基九段は小刻みに持ち時間を消費
将棋のタイトル戦、第69期王座戦(主催:日本経済新聞社)第1局、▲永瀬拓矢王座-△木村一基九段戦が9月1日に宮城県「ホテルメトロポリタン仙台」で行われています。本局はタイトル戦では異例とも言えるハイスピードで進行中です。
本局はタイトル戦の開幕局のため、振り駒が行われました。結果は歩が3枚出て、永瀬王座が先手番に。午前9時に対局が始まりました。
戦型は角換わりになり、両者持ち時間をほとんど使わずに駒組みを進めていきます。
現代では研究範囲までは持ち時間を使わずに指し進め、勝負所で時間を投入するのが一般的なスタイル。角換わりは特に研究が行き届いているため、駒がぶつかるまで両者ノータイムで進める、などというのも見慣れた光景となっています。
ところが本局では、駒交換が行われた後も永瀬王座の手が止まりません。ほとんど持ち時間を使うことなく木村九段の攻めに対応し、73手目までで消費時間はわずか13分。75手目にようやくまとまった時間を使いましたが、それでもわずか8分程度です。木村九段の76手目までの消費時間は1時間37分。これでも平成のタイトル戦だったら「早指し」に分類されていたところです。
2日前に行われた竜王戦挑戦者決定三番勝負の▲藤井聡太二冠-△永瀬拓矢王座戦の終局手数は77手でした。その手数に本局では対局開始から2時間程度で到達しています。
時代が変われば戦い方も変化していきます。平成初期から中期頃のタイトル戦では、駒組み段階で両者持ち時間を半分以上使う、ということも頻繁にありました。これは定跡の体系化がまだ進んでおらず、タイトル戦で定跡を創り上げていくという時代だったからです。王座戦は持ち時間5時間の1日制タイトル戦ですが、名人戦や竜王戦などの2日制のタイトル戦では序盤で1時間、2時間の長考もよく見られました。
この当事者だった羽生善治九段は『平成将棋名局百番』(発行:日本将棋連盟)の巻頭インタビューで以下のように振り返っています。
「定跡の体系化が平成の初めごろは進んでいないので、序盤から考えなければいけないことがいっぱいあるんですよ。(中略)当時は手掛かりがなく、ひとつずつ考えていくしかないので、どうしても最初のところで時間がかかってしまいました」
「序盤の長考は、アイデアをストックしていくという感じなんですね。指せるのは1手だけなので。この手もあるかな、こっちの可能性もあるかな、というのをいろいろ考えてみて、洗い出して次の対局に、ということをしていたんです。序盤が体系化されていない時代なので、アイデアをためていくのも大事な要素だったと思います」
平成の終わりから令和になると、ソフトを使った研究がメインになっていき、次第に研究範囲までは猛スピードで飛ばすというスタイルに変化しました。本局の永瀬王座の戦い方は、さらに一歩進んだ令和の新スタイルと言えるのではないでしょうか。
11時40分時点では、永瀬王座が木村九段の78手目△3一飛に対して、約30分程度の考慮中です。いよいよ研究範囲から外れたのでしょうか。78手目までの両者の考慮時間は永瀬王座が25分、木村九段が1時間44分。形勢はやや永瀬王座が有利という状況になっています。
持ち時間が5時間の本局は、通常なら本日夜の決着となります。ところが、ここまでハイスピードで進むと、もっと早い終局も十分に考えられます。17時30分からの夕食前に終局、ということもあるかもしれません。