「三つ子の魂、百まで」という諺があるように、人間関係を築く上でも生後から数年間は、非常に重要な期間です。「叱る」ということも、社会で生きて行くために、必要な習慣、スキルを教え込んでいくことの1つとなります。言い換えれば、自己の実現と他者との関与を現実生活の中で統合することです。

子どもからすると、生後から無条件に満喫していた世界に、「大人の世界」が侵入してきたように感じますから、「好きな人」から叱られるのが、現実的かつ効果的なのです。

それは「自分の要求」と「大人の要求」が対立葛藤する世界です。そこに、駆け引きや交渉などの折衝も現れてきます。具体的には、好きなテレビ番組を見てから、食器運びを手伝う……とか。その折衝の次の段階では、列になって順番を待つような行為もあります。

日本と欧米の親のしつけについて考えてみます。昔から、日本においては、親の役割は少なく、地域社会や学校が大きな役割をしていたようですが、現在は地域社会も学校もしつけの役割をあまり果たさなくなったようです。

親も「ほめて育てる」がトレンドになり、厳しく接する人が少なくなりました。そのような観点から、学習塾、スポーツ教室が流行るのかもしれません。叱るのが大変だから別の組織に委ねるのです。

親が子どもを叱ることは、悪いことではありません。しかし、叱ることはとても疲れることなので、叱る方法を変えていくとよいでしょう。悪いのは、衝動的に叱ってしまうことです。まずは、冷静に落ち着いて、親が余裕、ゆとりをもち、長期的に効果を出していくという意識で、次のことに気をつけて叱りましょう。

  • 叱る時の基準を明確にする。
  • 一点に絞り、曖昧にしないこと。人格否定はしない。
  • 一方的に、断定しない(約束を守れていることもある場合など)。
  • 譲歩案も必要な場合もある。子どもにとって難題であれば、ハードルを少し下げることを検討していく。
  • 問題集を1日10問解けない日もあった場合などは、1日5問にハードルを下げてあげる。
  • 忘れ物をしない日もあった場合などは、そのことを認めてあげる。

うつやキレる大人の子ども時代とは?

「アタッチメント=愛着」という概念があります。ヒトを含めた哺乳類が、個体の生き残りの確率を高めるために、「アタッチメント」欲求を備えたという考えです。

子どもは不安、恐れを感じた時に、泣く、微笑む、しがみつく、などの行動をとります。生後6カ月以降、特定の養育者を、特別な存在と認識するようになりますが、養育者とくっつくことで、子どもの脳神経は発達していき、養育者が「安全基地」として役割を果たしていないと、健全な発達が阻害されてしまうといわれています。

実は「人見知り」も「分離不安」と密接に関連していて、愛着形成があったからこそ起こる反応です。

そして、子どもの自立は、養育者が「安全基地」として機能していることに左右されるといわれています。虐待・ネグレクトなどが原因で、養育者との適切な関係がつくれない場合、他者との良好な関係性の構築が困難になってしまうのです。

また、柔らかくて、温かいものに触れ合うことも、子どもにとって重要です。これは、皮膚感覚、スキンシップが大事なことを意味します。

子どもの「アタッチメント」は、一般的に「安定型」「アンビバレント型」「回避型」の3つのタイプに分類されます。対人関係の行動パターンで見ると、「回避型」は、養育者が別の養育者に代わっても無反応のタイプです。「アンビバレント型」は、養育者が別の養育者に代わってから動揺を示すタイプで、元の養育者が戻ってからも動揺をしばらく示します。「安定型」は、養育者と子どもが信頼関係で結ばれており、成人しても、別の人と安定した対人関係を築くことができます。

子どもは成長するにつれ、小学校・中学校・高校と探索するエリアを拡げていきますが、何かしらの困難にぶつかると、「安全基地」の養育者の元に戻ってきます。

そして、「アタッチメント」が不足した場合、キレる、うつになるなど、こころの状態に移行しやすくなります。また、健全な対人関係を築くことが難しくなって、馴れ馴れしさ、あまのじゃく、ひねくれなどの特徴が出やすくなります。

うつ状態というのは、生物学的には脳内でセロトニン、ノルアドレナリンが低下した状態です。また、成人のうつ状態に関連して、子ども時代に親との別離が起きたことが、一つのファクターになると考えられています。離別、死別なども原因になります。

一方、キレ易い状態は脳の扁桃体が優位な状態です。正常な状態ではイライラしても、前頭葉が合理的に扁桃体を抑え込みます。

様々な調査で、「安定型」が減少傾向にあり、「回避型」「アンビバレント型」の割合が、増大傾向にあります。これは伝統やしきたりなどの社会規範が自由になった分、対人関係が曖昧になり、「回避型」「アンビバレント型」が増えたためともいえます。

一方で「回避型」「アンビバレント型」の人々が教師・友人・配偶者等を介して、「安定型」に移行するケースもみられています。不充分な「アタッチメント」は、その後の人間関係で修正されることもあるということです。

子どもが怒っている時を観察してみよう

一方、子どもの「怒り方」も年齢によって変化します。タイプを知り発達心理学の観点から、子どもの怒りの反応と、それに対する対応を見ていきましょう。

年齢0歳〜2歳

a「泣く」
不安、孤立、痛みの表現である。リズミカルな刺激をすることで落ち着く・涙を拭いて肩をたたく・抱き上げ声をかけてあげる。

b「噛みつく」
親、友人に噛みつくことは、年齢が長ずるにつれて、なくなっていく。不安、不快、恐怖、怒りの非言語的な表現である。

c「こだわり」
特定の洋服、ぬいぐるみ、カバン、アイテムをいつも身につけようとする。これに対しては汚れているから洗濯する、修繕すると説得して短時間、身につけることを我慢するトレーニングをしていく。

3〜5歳 保育園や幼稚園に入園以降

d「虫を踏みつける」
残酷というイメージがない。命の概念がないから、踏みつぶすと動かなくなるのを観察している。これに対しては、虫のお墓をつくるなど、生命のイメージを尊重していく。

e「馬鹿・馬鹿と言う」
悲しみ、悔しさ、恥ずかしい、不快、の感情を表現している。これに対しては表現力、単語数を増やしていくようにする。

f「仲間外れ」
プールに入れない、劇や演奏のメンバーになれないときに激しく感情を高ぶらせる状態。これに対しては理論的に理解できない場合は、代わりの役割を与えていく。

g「口論になる」
利己的、自己中心的、競争心、嫉妬心などに基づくことが多い。譲り合い、我慢する、合理的に考える習慣をつけていく。

年齢に応じて変えたい叱り方

哺乳類である人間は、子どもが生まれると、授乳したりこまごまと世話を焼いたりします。この時期にオキシトシンというホルモンの分泌が増加して、人間の信頼関係の維持に貢献します。このような関係性は小学生くらいまで、継続しています。トイレ、食事、着替え、入浴等々です。ですから、小学生位までは、親が感情的に叱っても、ある程度は受容されることが多いでしょう。もちろん、叱る理由を、率直に指摘するのは重要な要素です。

しかし、中学生以降になると、学校生活のシステムの比重が大きくなります。 クラブ活動、学校の行事、友人関係、趣味のサークル等々です。感情的に叱ることより、冷静に相手が納得するように叱ることが、重要な要素です。感情をむき出しにした怒り方は、逆効果になる危険性があります。

重要なことは、一点に絞り、叱ることです。いろいろまとめて、注意しても、かえって反感をかう可能性があります。

具体的な事例を挙げると、

  • クラブで帰宅が遅くなっても、宿題をすること
  • 小テストは、かならず合格点をとる
  • 脱いだ服は必ず洗濯機に入れる
  • 友人から、お金を借りないこと

上記のように基準を曖昧にしないで、明確に叱ることが大切です。