YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第2弾は、テレビ朝日『家事ヤロウ!!!』の米田裕一氏、中京テレビ『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』の加藤優一氏が登場。『今夜はナゾトレ』を手がけるモデレーターのフジテレビ・木月洋介氏を含め、4月に3番組が改編となった激戦区「火曜7時バラエティ」演出による裏番組同士の禁断のテレビ談義を、4回シリーズでお届けする。

ライバルに当たる互いの番組の印象について、第2回は『オモウマい店』を徹底分析してもらった――。

  • (左から)『家事ヤロウ!!!』米田裕一氏、『今夜はナゾトレ』木月洋介氏、『オモウマい店』加藤優一氏

    (左から)『家事ヤロウ!!!』米田裕一氏、『今夜はナゾトレ』木月洋介氏、『オモウマい店』加藤優一氏

■スタジオと視聴者が同じ気持ちなれるカメラワーク

米田:『オモウマい店』は、僕がTwitterで「これからロケや編集覚えていく若いディレクターやADさんは全員見た方がいいと思う」「教典みたいな番組」って勝手に書かせてもらったら、テレ東の上出遼平さん(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』演出)をはじめ、いろんなテレビ業界の方が賛同してくださって、やっぱり今『オモウマい店』はテレビ界の重要なトピックなんだなと思いました。何が衝撃って、突拍子もないアイデアが詰め込まれているというよりも、全テレビマンが通ってきたであろう基本中の基本がそこにはあって。その色んな基礎が全て高次元で表現されているので、悔しさもあり、うらやましさもあります。1つは、やっぱり“人対人”なんだなというのを改めて思い知らされました。ディレクターが店主さんに名前で呼ばれてたり、「結婚式呼んでね」って言われたりしてるのを見てると、取材って本来こうあるべきだよなあって思って。これが正解だと分かってるはずなのに、どこかに置いて来ちゃったものがちゃんとあるんですよね。

加藤:そういっていただけると、めちゃくちゃうれしいですね(笑)

米田:あと、編集ってやっぱり強い画や面白い画を丁寧に並べる作業だったんだということ。テクニックとして、ナレーションで先に目線をつけるとか、受けて面白くするとか、そういうのもあるんですけど、やっぱり動画メディアなんだから、強い画がただただ並んでるだけでこんなにも面白いんだなと。これは加藤さんにぜひお聞きしたいことなんですけど、今は見ている人の目も肥えている時代になってきて、例えばカメラが近いと「この人、絶対映されてるの分かってるだろうな」っていう気持ち悪さみたいなのがすぐ伝わっちゃうじゃないですか。でも『オモウマい店』を見てると、カメラの距離感が見事だと思うんです。デカ盛りとか遠くから現れた方が面白いよなっていう時には絶対遠いし、近づいてほしいって時にはものすごい至近距離になったり、すごく見ていて心地いいんですよね。“客観”であることや、“現象”に見えることにすごくこだわっていると思うんですけど、スタッフの皆さんで共有している教えとか、大切にされていることみたいなものがあるんですか?

加藤:距離感はすごく大事にしているところで、取材ディレクターには「なるべく存在感を消す」とか「お客としてお店に溶け込む」とか「景色に近づくように」ということを心がけてもらっています。米田さんがおっしゃったように、近づくとどうしてもリアリティがなくなっちゃうので、お客さんが食べる画や、店主さんが働く画は、近づきすぎないように。取材スタッフが、気になったものを気になったタイミングでズームするってことを徹底的にやってます。

木月:あれが絶妙なんですよね。でかいエビフライのときも、最初からカメラが寄ってるんじゃなくて、引いて見たときにでかさの違和感に気づく感じ。「なんだあれ! でかっ!」っていうスタジオの皆さんがしているリアクションと同じタイミングで、視聴者さんもその気持ちになれるという感じがするんです。あれはどうやってるんだろうなと、いつも思ってました。

米田:景色としてスタッフが入ってるから、木月さんがおっしゃった「スタジオの演者と視聴者の見てる気持ちのタイミングが同じ」ということになるんですね。そもそもどこにカメラを置くかというのがこんなに大切だったんだということも、改めて思い知らされました。

木月:今の話を聞いてて、コントを撮るときの画のサイズも同じだなと思いました。

米田:そうなんですね!

木月:渡辺琢さんという『ワンナイR&R』の演出家の方から「いきなりオチのところに寄ったサイズで撮らない方がいい。引きの映像の中で、見てる人に自分でオチを発見してもらった方が面白い」というのを教わりました。それと一緒だったんだなと思いましたね。

加藤:なるほど~

米田:へぇ~

  • ロングソフトクリームを頬張る少年・多田くん=8月31日の放送より (C)CTV

■取材ではなく「店主さんの顔が見たいから会いに行く」

加藤:ほかに気をつけているのは、「取材するという感覚で行かないで」ということです。店主さんの顔が見たいから会いに行く、ご飯を食べたいから行く、たまたま右手にカメラがありますという姿勢で撮影してほしいと伝えていて、そこをみんなが守ってくれるので、リアリティのある画になってるんだと思います。

木月:それはやっぱり『PS』(※)からのノウハウなんですか?

(※)…94年にスタートした『P.S.愛してる!』から続く中京テレビのローカルバラエティ番組シリーズ。

加藤:そうですね。『PS』も最初は普通に取材してたんですけど、どうやったら面白く撮れるんだろうと試行錯誤していたら、あんまり近づくとお客さんとか店主さんが素の感じにならないから、じゃあ離れて撮ろうかというところから始まった感じです。

米田:やっぱりすごいなあ。寄りの画こそ強いんだっていう勝手な印象があったんですけど、改めてルーズとか遠い画ってめちゃくちゃ意味があったんだなあというのを、『オモウマい店』を見ていて気づかされました。

木月:そうですね。

米田:あと「店主さんに会いに行く」っていうのは綺麗事じゃなくて、そういう精神的なものを番組内で共有するのは本当に大事なんでしょうね。僕も『博士ちゃん』という番組をやっているんですが、子供を相手に取材するときに「こういうふうに会いに行きましょう」とか「こういう言葉は使わないように」とか「カメラをこう向けるのは失礼です」とか、箇条書きにするのも大事なんですけど、それより番組としての想いや姿勢を全員で意思統一することで、自然と子供への話し方とか撮り方も変わっていったので、通じる部分があるなと思いました。