ビジネスシーンでも使われる「よしなに」について、意味や語源、使い方、実際に使える例文を紹介します。敬語として目上の人に使えるかなど、使用時の注意点や類語、対義語、英語表現なども解説します。使い方で迷ったときの参考にしてみてください。
「よしなに」の基本的な意味とは
まずは「よしなに」の基本的な意味をしっかり押さえておきましょう。
「よしなに」とは「ちょうどいい具合に」「適切に」「よろしく」
「よしなに」には「ちょうどいい具合になるように」「適切に」の意味があります。「よろしく」という意味もあり、「よしなにしてください」「よしなに頼む」という使い方が一般的です。
「よしなに」の語源とは? 方言なの?
「よしなに」は耳慣れない言葉なので、方言ではないかと思う人もいるかもしれませんが、方言ではありません。言葉の由来について知っておきましょう。
「よしなに」は方言ではない
「よしなに」は方言辞典には記載がありません。「よしなに」の起源には諸説ありますが、一般的には「古語・和語」の一種と考えられています。江戸時代の文献にも見ることができます。
「よしなに」は大和言葉?
大和言葉(やまとことば)とはつまり和語のことで、外来語や漢語が入ってくる前から存在した日本固有の言葉です。主にひらがなで表記され、柔らかな印象を持つ言葉は大和言葉である可能性が高いと言えます。「よしなに」も大和言葉の一つではないかとされていますが、現時点では明確な根拠は見つかっていません。
「よしなに」の語源となった神話
「よしなに」は古事記に記載されている神話を語源だとする説があります。
その昔、邇邇芸命(ニニギノミコト)の妻である木花之佐久夜毘売(コノハナサクヤヒメ)が三つ子を産んだとき、信濃の4人の県主が「へその緒を分けてほしい」と申し出ました。3つのへその緒を4人で分配できるよう、うまくやってほしい、というところから、「4人の信濃(しなの)に計らう=よしなに計らう」になったといわれています。
「よしなに」のビジネスシーンでの使い方 - 便利な例文集
「よしなに」を使った例文をご紹介します。どのような場面で使うべきかを明確にしておきましょう。
どうぞよしなに
「どうぞよしなに」には「この後のことはよろしくお願いします」という意味も込められています。ビジネスシーンでは、ちょっとした挨拶をするときに使うといいでしょう。
例えば社内ですれ違ったときに「今日も暑いですね、どうぞよしなに」と添えると、「暑いので体調に気を付けてください」というニュアンスを含めることができます。軽い挨拶でありながら丁寧な印象です。
よしなにお願いします
「どうぞよろしくお願いします」を「よしなにお願いします」とすると、幾分かあたたかな印象になります。第三者に対し「当事者によろしくお伝えください」と伝えるニュアンスでも使うことができます。
よしなにお取り計らいください
「取り計らう」は物事がうまく運ぶように考え、処理することです。「後のことは頼みます」という意味が含まれています。
よしなに頼む
「適切に頼む」というニュアンスを含む表現です。目下の人に対して現場判断でうまく対処してほしいと思ったら、「よしなに頼みます」と伝えておくといいでしょう。
よしなにする
「どうぞ然るべき(しかるべき)ことをなさってください」という意味になります。具体的な指示はなく、現場の判断に任せるときに使いましょう。
これはNG! 「よしなに」の間違った使い方
「よしなに」の間違った使い方についてご紹介します。使える場面をしっかり把握して適切に使えるようにしましょう。
ビジネス文書など公式文書に使うのはNG
「よしなに」はどちらかというと話し言葉で使われます。また会社などの組織から発行する、不特定多数への公式文書で使うことは一般的ではありません。
例えば新商品を発表する際のツールに「来月から弊社から新商品が出ますので、どうぞよしなに」とはしません。
曖昧な表現なので仕事の指図にはNG
仕事の指示を出すときに「よしなに頼む」と言うのはふさわしくありません。「よしなに頼む」は、言い換えると「いい具合に頼む」です。頼まれた側が言葉通りに自身の裁量で仕事をした結果、望むものとはまったく異なる結果になってしまう可能性があります。
仕事で何かを依頼するときは「よしなに」と曖昧な表現は使わず、明確な指示を出すようにしましょう。
敬語ではないので目上の人に使うのは注意
「よしなに」は丁寧な印象がありますが、敬語ではありません。そのため、目上の人に対して使う場合は「どうぞよしなに」といった形ではなく、「お手数ですが、どうぞよしなによろしくお願いいたします」「よしなにお取り計らいくださいますようお願い申し上げます」などの形にするべきです。
またそもそも目上の人に対して、「後のことはよろしく頼む」という意味で「よしなに」を使用すること自体が失礼にあたることも。使用する場合は、相手との関係性や状況を見極めることが必要です。
「よしない」は別物
字面がよく似ていますが、「よしない(由無い)」は漢字をみるとわかるとおり「よしなに」とは意味がまったく異なります。「よしない」は「つまらない」「そのようにする根拠がない」ことを意味するので、混同してしまわないよう注意しましょう。
「よしなに」の類語・言い換え表現
「よしなに」の類語表現としてふさわしい言葉をまとめました。「よしなに」を使うべき場面かどうか迷ったら、類語に言い換えてみましょう。
適当に
「よしなに」の類語に該当するのは「適当に」です。この場合の「適当」は「いい加減」「雑」という意味ではなく、「程度や状態がちょうどいい」「適度に」という意味になります。
適宜
「適宜」は「その場に応じてふさわしい行動をするさま」を意味します。世代によってはなじみが薄い言葉かもしれませんが、漢字があてられていることもあり「よしなに」よりは意味が伝わりやすいでしょう。「よしなに」もその場でうまく丸く収まるように、という意味で使われていますが、「よしなに」ではそのニュアンスが伝わりにくいと感じたら「適宜」に言い換えてみましょう。
相応に、相応しく
「つり合いがとれている」という意味の仏教用語である「相応」も「よしなに」の類語です。一説によると「相応しい(ふさわしい)」は、「よくつりあう」「似合う」という意味を持つ「ふれそふ(触添)」から変じた動詞「ふさう」が形容詞化したもので、後から「相応」の漢字を当てはめたとされています。
然るべき(しかるべき)、然るべく(しかるべく)
「そうあるのが当然である」という意味の「然るべし(しかるべし)」から派生した「然るべき」「然るべく」も「よしなに」の類語です。「然るべき措置をとる」など、「よしなに」に比べると少し硬い表現になります。
「よしなに」の対義語
「よしなに」の対義語をまとめました。「いいようにする」の反対の意味を持つ言葉が「よしなに」の対義語となります。
悪化する
「ちょうどいい具合にならない」、つまり「物事が良くない方向に進む」という意味の「悪化する」は「よしなに」の対義語といえるでしょう。「戦況が悪化する」というように使います。
雲行きが怪しい
こちらも「物事が悪い方向に向かう」ことを意味しているので、「よしなに」の対義語です。「悪化する」を少しオブラートに包んだ表現といえるでしょう。「会議の雲行きが怪しくなってきた」のような使い方があります。
正確に、正確な
「よしなに」の持つ「ちょうどいい具合」という曖昧なニュアンスの対義語として、「正確に」「正確な」も挙げられるでしょう。
「よしなに」の英語表現
「よしなにお取り計らいください」を意味する英語は「Do as you think best」です。ほかにどのような表現があるのでしょうか。見ていきましょう。
fittingly
「fittingly」は直訳すると「適宜に」「適切に」となるので、「よしなに」の英訳としても使うことができます。
appropriately
「appropriately」は「ふさわしく」「適切に」という意味があります。「to be able to deal with matters appropriately」で「適当に取り計らうことができる」という意味になります。
suitably
「suitably」にも「適切に」「ふさわしく」という意味があり、「よしなに」の英訳としてよく使われています。「I am counting on your support tomorrow also as you consider suitably」で「明日もよしなによろしくお願いします」という意味です。なお、「count on」は「頼る」と訳します。
「よしなに」は挨拶としては丁寧だけれど曖昧な表現
「よしなに」の意味や使い方についてまとめました。「よしなに」は大和言葉だとする説があるように、やわらかい響きで日常の挨拶に添えると大人のゆとりを醸してくれます。
ただし、仕事の中で使うと「後のことは適当に頼む」という曖昧な表現のため、言われた側は戸惑ってしまうことも。シーンによって上手に使い分けられるようにしましょう。