コロナ禍になり、企業のあり方が大きく変わろうとしている。オンライン会議、テレワークなど、新たな働き方も浸透してきた。このような時代、ビジネスパーソンはどのようなマインドで人や仕事と向き合っていけば良いのだろうか?

スノーピークビジネスソリューションズ は、アウトドア総合メーカー「スノーピーク」のキャンプギアを使ったオフィス環境づくりや、アウトドア研修といった数々のユニークな提案をしている。同社を率いる代表取締役の村瀬亮氏は、コロナ禍で変わったコミュニケーションについてどう捉えているのか。

  • スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役の村瀬亮氏に話を聞いた

■後編はこちら:チーム内で対立しない仕組みとは? - スノーピークビジネスソリューションズの村瀬氏に聞くIT×コミュニケーション

IT会社でありながら、コンサルティングも手掛ける理由

証券会社に3年ほど勤めたあと、産業用センサーや自動制御機器の開発・製造などを手掛けるキーエンスに10年間勤めた村瀬氏。ある日、「コンパクトでシンプルなシステムが欲しいときに、すぐに対応してくれる気の利いた会社がない」ことの不便さに気が付いたという。

「そこでITに詳しい仲間と一緒に簡単なシステムをつくってお客様に持って行ったところ、現場の方に大変喜ばれたのです。この想いが原点となり、1999年、現場改善専門のシステム提案ができる会社を起業しました」。立ち上げた新会社で、村瀬氏は営業マンとして顧客目線に立ったプロジェクトを考え、現場に役立つ事業モデルを次々と提案していった。

同社はパッケージになったシステムを販売するのではなく、現場で働く方とコミュニケーションを取り、一緒に現場改善システムをつくるスタイルを取っている。 そのなかで、村瀬氏はあることに気付いたという。「たとえ優れたソリューションがあったとしても、社員同士の関係性が良好でなければ現場に定着させることはできない」。取引先のシステム担当者の要望に合わせて現場向けのシステムを導入したにもかかわらず、当の現場からは使いづらいと声が上がってしまう。そんな悩みをたびたび聞いた。

「このズレの原因は、社内の人間関係が築けていないことにあります。現場には現場にしか見えない事情やルール、工程があります。また、システムをつくる側にもスキルや手順、ノウハウがある。それらをかけあわせて”共創”することで、プロジェクトはうまくいくものです。しかし、互いのことを知らないと共創はできません」。一般的にIT会社はシステムだけを提供する企業と思われがちだが、良好な人間関係を築くサポートも行うために、同社は組織活性化のコンサルティングも手掛けている。

取引先を拡大していくとともに、自社にもその手本となるような、良好な人間関係を築く企業風土を根付かせていった。

「様々なイベントや仕掛け、仕組みをつくり、社員のイキイキ・ワクワクを醸成する会社へと変化していきました。そしてあるとき、キャンプをしながら仕事をする働き方を実践してみたところ、自然の中ではクリエイティブな発想が生まれ、仲間とキャンプをすることがチームビルディングにつながると気づいたのです。その後、IT活用と自然への関わりを通して、企業の『人財問題』を総合的に解決することを目的に、2016年にスノーピークとともに合弁会社としてスノーピークビジネスソリューションズを設立しました 」。

そんな成り立ちを持つ同社の強みについて、村瀬氏はこう語る。「今企業において重要な要素は、“ITリテラシーの向上”と“クリエイティブな人材”です。テクノロジーの提案と、チームワークやクリエイティビティを備える人材育成、企業が求める要素を同時に提供しています」。

ここで村瀬氏は「良好な人間関係を築く重要性は、システムを導入する現場の話だけに限りません。コロナ禍になってからリモートワークやオンライン会議を始めてみたものの、どうもうまくいかない……そんな課題を抱える企業も多いですが、良い関係性の土壌を作ることは、こういったオンライン化の成功にもつながります」」と説明する。そして「社内のメンバー間の関係性を築くために、最適なアクティビティが”キャンプ”なんです」とも付け加えた。キャンプはプライベートで楽しむイメージが強いが、なぜこれが最適なのだろうか。村瀬氏が感じている、コロナ禍におけるコミュニケーションの課題とともに、その理由を聞いてみよう。

  • スノーピークビジネスソリューションズ(岡崎本社)の1Fはコワーキング・シェアオフィスとして提供している。心地良い鳥の啼き声のなか、キャンプギアに腰をかけて仕事する人の姿があった

コロナ禍で見えてきたコミュニケーションの課題とは?

まずは、コロナ禍で浮かび上がった「コミュニケーションの課題」について聞いた。

「弊社では、10年ほど前からテレワークやオンライン会議を取り入れていました。お客さんにオンライン会議を提案しても、まだ当時は珍しがられましたね。それがコロナ禍になり、リモートでの働き方が世の中の新常識になりました」。

  • コロナ禍の前からリモートワークを推奨し、サテライトオフィスも増設してきた、と語る

オンライン会議が主流になるなかで、ある課題も見えてきた。「今までは、会議後に立ち話をしたり、トイレや廊下で偶然会って『あの件だけど……』といった雑談ができました。しかしオンライン会議やリモートワークでは、このような偶発的な会話や、互いの気配を感じることはできません。また、権限のある人やコミュニケーション能力の高い人だけが発言する雰囲気になりがちで、物足りなく感じる方もいるでしょう」。

村瀬氏によると、この課題の原因は、「余白がなくなった こと」だという。「対面の会議では、その前後に雑談をする余白がありました。気になった点を補足したり不安を打ち明けたり、雑談などのコミュニケーションで精神的な隙間を埋められていたんです。オンライン会議だと、議題に対する会話をしたらスパッと終了するので、この余白がありません。心配事や悩みを聞いてもらう機会がなくなると、心理的な孤立にも繋がります」。

この課題は、同社に限ったことではない。同様に社員間のコミュニケーションに課題を抱える企業から、スノーピークビジネスソリューションズが提供する「アウトドア研修」の問い合わせも増えているという。「社員同士で交流したくても、この状況下では今まで通り集まれません。でも屋外なら集まりやすい。短時間でも濃いコミュニケーションを取れる場として、アウトドア研修が適しているのです」。

  • アウトドア空間で研修をしたいという企業からの問い合わせも増えているという(画像提供:スノーピークビジネスソリューションズ)

オンライン化を成功させるカギは、「普段の人間関係」

もちろん、オンライン化にはメリットもある。しかし村瀬氏によると、メリットを享受できるかどうかは、”普段の人間関係”で決まるという。「もともと良好な人間関係を築けていれば、課題があっても解決する力を持ったチームになれます。そのため、オンラインのメリットを十分に受けられるでしょう」。では、関係性を築くにはどうしたら良いのだろうか。

「関係性を築く法則や仕組みは、我々も模索しました。同じ空間で過ごしたり、共同作業をしたり……最終的には”キャンプ”に行きつくのですが (笑)。私たちの取り組みのひとつに、全社員総当たりで、2人きりのランチへ行く“One to One ランチミーティング”があります」と村瀬氏。

「普段話すことがない相手に対して、人はちょっとしたことで攻撃的になったり、批判してしまったりすることがあります。逆に一度でも相手を知れば、互いを尊重するし、すれ違った時に挨拶したりと関係性が生まれる。この関係を作る仕組みが『社員全員と、2人きりのランチに行く』ことですね。会社の規模によっては部署単位でやるのも良いと思います 」。確かに、少し距離のある相手と自発的に2人きりになる機会はなかなかないものだ。ランチの場を会社がセットすることで、社員の関係性を築くきっかけになるだろう。

  • 社員間のコミュニケーションがうまくいくためのメソッドを明かした

「あらかじめ関係性を作っておけば、オンラインで実務的なやりとりをしていても、『そういえば○○さん、猫を飼ってるんでしたっけ?』なんて雑談もできますよね」。互いを知って関係性を築くことで、オンライン会議やリモートワークになっても雑談する”余白”が生まれそうだ。

また、オンライン会議では「顔出し」を必須にする企業もある。「弊社の場合、オンライン会議は顔出しなしで、集中すべきところに集中してもらっています。顔を出していると自分がどう見られているのか気になって疲れてしまうこともあるので。でも毎日行う「昼礼」では、全社員がカメラをオンにして顔を合わせ、業務や連絡事項の共有をします。雑談をする時間もあり『元気かな~』なんて、寛ぎながら互いの雰囲気を感じる場になっていますね。オンライン会議でもメリハリをつけています」。

「互いの気配を感じる」ことは、オンラインに限らず、サテライトオフィスなど社員同士が離れた場所で勤務するケースでも感じにくいものだ。同社ではこの課題に対し、オフィス同士の雰囲気が伝わる「インタラクティビジョン 」も提案している。

  • オフィスをリアルタイムに映す立体型のシステム「インタラクティビジョン」。立体的な配置、常時接続、等身大の映像で、離れたオフィスであっても場の雰囲気が感じられる。下からプロジェクターで投映している

「インタラクティビジョン」は、2台のWebカメラを90度の角度で配置し、超単焦点のプロジェクターで映像を常時配信・投影するシステムだ。等身大のサイズで投影されるので、別のオフィスにいても互いに隣にいるような雰囲気を感じられる。もちろん会話も可能なので、ちょっとしたオンライン会議にも利用できる。愛知県岡崎市の本社と、東京・名古屋のサテライトオフィスの3拠点から成るスノーピークビジネスソリューションズの社員からも「同僚の気配を感じることができる」と好評だそう。

テント設営は「事業作りの疑似体験」

冒頭で村瀬氏は「良好な人間関係を築けていれば、オンライン化は成功するものであり、そのためにキャンプは最適です」と話していた。「例えばテントを立てることで、事業作りの疑似体験ができます」とその狙いを語る。

同社の「アウトドア研修」では、キャンプギアを使った屋外での会議や、ゲーム性を加えてテントやタープを設営するアクティビティなど、各企業の課題に寄り添ったコンテンツが提案される。しかし「テント設営が事業作りの疑似体験になる」とは、どういうことだろうか?

  • 「アウトドア研修」では、テントの設営を通して、チームビルディングを行うコンテンツも (画像提供:スノーピークビジネスソリューションズ)

「テントを設営する際、マニュアルは渡しません。新しく事業を作る時も、始めからマニュアルなんてないですよね。テント設営も事業開発も、『一定の条件のもとで、自分たちなりに設計する』という点は共通しています。どう役割を分担するか、誰がリーダーシップを執るのかを話すなかで、お互いの人間関係も見えてくるでしょう」。普段のオフィスを離れて慣れない作業をチームで行うことで、メンバーの意外な一面を知ったり、新たな関係も生まれそうだ。

  • キャンプギアがあると、打ち合わせもリラックスしたムードになる。写真はイミテーションの焚き火を囲んだ会議中の様子(画像提供:スノーピークビジネスソリューションズ)

また、キャンプギアを活用して、オフィス環境を変えたいという依頼も寄せられる。「出社の機会が減る今だからこそ、会社に来たら交流したくなるような、戻ってきたくなるような、居心地の良いオフィス空間のニーズは高まっています。持ち運びしやすいキャンプギアは自分たちで自由にレイアウトを変えられますし、植物と組み合わせれば雰囲気がガラッと変わりますよね。大型のオフィス什器より購入しやすいコストメリットもあります」。

実際にこのインタビューもキャンプギアを囲んで行ったが、アウトドアチェアに座るだけでもなんだかワクワクしてくる。秘密基地のようなテントに入ってみたり、ローチェアで円を描くように座ってみると、普段の会議でも自然と会話が弾みそうだ。

後編では村瀬氏に、コミュニケーションで大事にしていることを聞いていく。

■後編はこちら:チーム内で対立しない仕組みとは? - スノーピークビジネスソリューションズの村瀬氏に聞くIT×コミュニケーション

写真:カワベ ミサキ