「ともすれば」という言葉は少し堅苦しい言い回しであり、日常生活で使う機会はそう多くはありません。しかし、ビジネスシーンなどでは使われることもある表現であり、ぜひ覚えておきたい言葉のひとつです。
この記事では、「ともすれば」の意味や語源、使い方を紹介。また、類語や英語表現・中文などもまとめました。
「ともすれば」とは
「ともすれば」は、放っておくとある状態になりやすい、という状況を示す表現です。副詞ですので、動詞や形容詞、形容動詞などを修飾する言葉として使われます。
「起こってほしくはなかったできごとが起こってしまうかもしれない」という、ネガティブな意味で使われることが多いです。
昔の書物に登場する古語
「ともすれば」という表現は、日本において古くから使われていた言葉です。下記のように、日本最古の物語として知られる「竹取物語」に「ともすれば」という言葉が使われています。
「ともすれば人まにも月を見ては、いみじく泣き給ふ」(放っておくと人のいない間にも月を見ては、ひどくお泣きになる)
このように、「ともすれば」は日本で古くからなじみのある言葉です。
「ともすれば」の語源
「ともすれば」の由来は「竹取物語」という説が有力です。正式な漢字表現はありません。ほぼ同じ意味で使われる表現のひとつに「ややもすれば」がありますが、こちらの漢字表現は「動もすれば」です。
しかし「ともすれば」には漢字表現がないことから、平仮名で書かれます。
「ともすると」は同じ意味
「ともすれば」と同じ意味を持つ表現に「ともすると」があります。
「ば」は、もともとは口語で活用語の仮定形に付いて、未成立のことを成立したものと仮定する条件を表す接続助詞です。「と」は順接の仮定条件を表す接続助詞が元になっていると考えられます。
どちらも仮定条件を表す言葉が元になっていることから、同じ意味として使われます。
「ともすれば」の使い方と例文
「ともすれば」という表現は日常会話で使われることはそう多くはありません。使い方に困ってしまう人も多いでしょう。そこで、「ともすれば」を使うときのポイントと使用例を紹介します。
後ろ向きな意味で使われることが多い前置きの言葉
「ともすれば」は、あまり前向きな意味では使われません。後ろにネガティブな表現を伴って使われることが多いです。
「ともすれば失敗してしまうかもしれない」「ともすれば大きなクレームにつながってしまう危険性がある」など、ネガティブな表現でよく使われます。
解決策の提案もあわせて行う
ビジネスシーンで「ともすれば」を使用する場合、悪い予測やネガティブな気持ちなどが後ろに続きます。
しかし、会議やプレゼンテーションの場などでは、ネガティブな表現だけで終わってしまうのはよくありません。
「ともすれば失敗してしまうかもしれないが、対応策もいくつか考えている」などのように、ネガティブなことをどう解決すべきか提案し、結果的に前向きな表現になるよう心がけましょう。
「ともすれば」を使った例文
「ともすれば」は下記のように、後ろにネガティブな仮定を続けるときに使われる表現です。例文を紹介するので覚えておきましょう。
・今日は部署のほとんどの人が出張で不在なので、ともすればサボってしまいそうだ。気持ちを引き締めて頑張っていこうと思う。
・会議中の空気が重いので、ともすれば嫌な方ばかりに考えてしまいそうだ。切り替えるために休憩を入れることにした。
・何人もの人に続けざまに頼みごとをされてしまい、ともすれば何をすべきか忘れてしまいそうだ。すぐにメモをとるよう心がけなければならない。
・空には大きな積乱雲が見えていた。ともすれば雷雨がやってくるかもしれないから気を付けましょう。
「ともすれば」の類語表現
「ともすれば」は日本語として古くから使われていますが、口語表現としてはあまり馴染みがない人も多い表現です。そのため、状況によって他の類語表現に言い換えて使うようにしましょう。
ここでは、「ともすれば」の主な類語表現を紹介します。
「もしかして」「ひょっとして」
「もしかして」には、「疑いながら推測する様子」という意味があります。「ひょっとして」は「もしかして」と同じ意味です。
「ともすれば」のように、どちらも後ろにネガティブな言葉が続くとは限りませんが、同じように仮定を意味する言葉として使われます。
・空には大きな積乱雲が見えていた。もしかして雷雨がやってくるのではないだろうか。
・空には大きな積乱雲が見えていた。ひょっとして雷雨がやってくるのかもしれない。
・空には大きな積乱雲が見えていた。ともすれば雷雨がやってくるかもしれない。
「あるいは」
「あるいは」には、「ある事態が起こる可能性がある様子」という意味があります。「ともすれば」と似た状況で使われる表現のひとつです。
・続けざまに頼みごとをされて、あるいは忘れてしまうかもしれない。
・続けざまに頼みごとをされて、ともすれば忘れてしまいそうだ。
「可能性がある」
「可能性がある」は、可能性を認める表現として、ネガティブ・ポジティブどちらの意味に関わらず使われます。あることが起こってしまうかもしれないという「ともすれば」と共通する意味がありますので、下記の例を参考に言い換えてみましょう。
・失敗してしまう可能性があるが、対応策も考えている。
・ともすれば失敗してしまうかもしれないが、対応策も考えている。
「ともすれば」の英語表現
仕事や会話などで英語を使う機会がある人は、「ともすれば」の英語表現も押さえておきましょう。「ともすれば」の代表的な英語表現を紹介します。
prone to
・She is prone to bone fractures.(彼女はともすれば骨折しやすい)
「prone」には「傾向があって」「しやすい」などの意味がり、「prone to~」は「ともすれば~しやすい」という意味を持つ英語表現です。「ともすれば」の英訳として覚えておきましょう。
apt to
・It's apt to rain.(ともすれば雨がふりそうだ)
「apt」は「~しがち」「~しそう」などの意味があり、「apt to~」には「~しがち」という意味があります。「ともすれば」の英語表現として使われることがある表現のひとつです。
liable to
・It's liable to snow.(ともすれば雪が降りそうだ)
「liable」は「~しがち」「とかく~しやすい」などの意味がある英単語で、「liable to」には「ともすると」「ともすれば」などの意味があります。「ともすれば」の英語表現として押さえておきましょう。
「ともすれば」の中国語表現
「ともすれば」に相当する中国語には「一动」があります。発音を表すピンインは「yīdòng」です。
「ともすれば」は「場合によっては」を意味する表現
「ともすれば」とは「ともすると」と同じ意味があり、「放っておくとある状態になってしまうかもしれない」というような意味を持っています。日本の古典的な書物でも使われており、語源は竹取物語という説が有力です。
比較的ネガティブな意味で使われることが多い前置きの言葉なので、ビジネスシーンで実際に使うときには、一緒に解決策の提案も行うのが適切です。「もしかして」「あるいは」など、言い換え可能な言葉も多いですので、あわせて覚えておきましょう。