当初、『#家蔵募集します』(TBS系)は「とりあえず見てみるか」という、ドラマオタクの使命感のような気持ちでいた。主演の重岡大毅さん(ジャニーズWEST)は、長年かかって掴んだという、ゴールデンタイム主演の座。彼の演技は他作品でもめちゃくちゃ信頼度を積まれているので、上手いか下手かという視点はない。
でも共演には木村文乃さん、中野太賀さん、岸井ゆきのさんといった、何をやってもハズレなし、演技道を真っ直ぐに進む面々が並ぶ。果たして重岡さんの演技はどこまで……と注目した第一話。あっさり放送終盤の突然妻を亡くした夫と、父としての思いを吐露する演技で泣かされた。
そしてその姿の向こうに"いいひと"の文字がふんわり浮かんだのである。
見た目やパフォーマンスではない、新しい魅力"いいひと"
重岡さんが所属しているジャニーズ事務所には、言わずもがな、だけどとんでもない才能に溢れたタレントさんたちがいる。見た目、パフォーマンス、王子様……といった、その辺には転がっていない非日常を武器にしている人がほとんどだ。
その歴史を少しだけ揺らしたのが、もう今は在籍していないけれど草彅剛さん(SMAP)だった。なんせキラキラした世界観をモットーにしていた事務所なのに『いいひと。』(フジテレビ系 1997年)というタイトルのドラマに主演して、世間を軽く裏切ったのだから。"いいひと"という言葉から即座に彼を連想するようになったのは、偉業だった。プリンス(アイドル)はプリンセス(ファン)だけに優しければいいというものではない。性別、年代問わず、全ての人に普通の温かさを振りまいていい。草彅さんはそんな道を作った。余談だけど「良い人」と書こうとすると、つい"いいひと"とひらがな表記をしたくなるのは、ドラマの影響かもしれない。
そして"いいひと"継承の2代目は誰なのか。
私はジャニーズ事務所の全てのメンバーを把握しているわけではないので、開く前もテレビドラマだけで推測する。そうすると次に名前を挙げたいのが、風間俊介さんだ。彼もまた踊って歌うことがベースの事務所なのに、演技で名前を広げていった異色の人。
風間さんと聞いて思い出すのは、あのつぶらな瞳を細くさせてクシャッと笑う笑顔。今まで数々の作品に出演しているけれど、直近では『監察医朝顔』(フジテレビ系・2019年~)で、妻や警察官の仕事に対してひたすら真摯に向き合う"いいひと"の塊のような桑原真也役を演じていた。桑原くんとは結婚したかったよ……。
ただパブリックイメージと対極するような『それでも、いきてゆく』(フジテレビ系 2011年)は、少女を殺害した過去を持つ影のある役を演じていた。少女に対する異常愛を持つ、サイコパス。こういう一面もあったからこそ、光った"いいひと"だった。
嫌な男と"いいひと"役を両立させた演技
風間さんがまた新しい道を開いたところで、3代目"いいひと"に推薦したいと思ったのが、重岡さんだ。彼が「この人、性格良さそう」だと視聴者を引き込んだのは『これは経費で落ちません!』(NHK総合 2019年)の山田太陽役。話題になった『ごめんね、青春!』(TBS系 2014年)の海老沢役ではなく、地味に頑張る営業マンの太陽くんの優しさ演技の方が心に残った。
重岡さんも風間さんと同じく、サイコパスとまではいかないけれど屈折した役を経験したことがある。『知らなくていいコト』(日本テレビ系 2020年)での、ヒロインの元カレ役。婚約中の彼女が殺人犯の娘だと知って、切り捨て。さらにつまんない女に手を出して、最終的には元カノをつけ回すという一線級のクズ男役を見せた。そんな怪演について今回は脇に置いておこう。ただ彼の"いいひと"に気づいたのは、このドラマ内でキスシーンがあったこと。よくあるシーンだったけれど、私の中ではえなりくんが悪い男ぶったセリフ吐く違和感とリンクしたのである。もしくは、えなりくんのキスシーンをうっかり観てしまった気持ち……とも言える。
(勝手に)キスシーン事件以来「彼はお人好しかもしれない」というイメージを抱いて、各所で重岡さんの演技を見ている。現在出演中の『#家蔵募集します』は歴代の先輩たちが開いてきた道を継ぐことになるかもしれない、そんな理由でこの原稿を書いた。
ドラマは最終章を迎えた。彼の"いいひと道"は最後までどんな形に伸びていくのだろうか。