Appleが提唱する「空間オーディオ(Spatial Audio)」が広がりを見せています。Apple Musicで配布される一部楽曲で利用できるほか、2021年8月には動画配信サービス大手のNetflixでもサポートされるようになりました。音楽だけでなく、映画・ドラマも包み込まれるような音場感を楽しむことができます。
この「空間オーディオ」はフォーマットではなく、聴覚に立体的な感覚をもたらす技術体系の総称として用いられています。同様の音響効果をSONY製品では360 Reality Audioとして展開していますが、「MPEG-H 3D Audio」(標準化されたマルチチャンネルオーディオ技術)をフォーマットとして採用するところが、「Dolby ATMOS」を使うAppleの空間オーディオと異なります。なお、Amazonの「3Dオーディオ」のようにMPEG-HとDolby ATMOS両方のフォーマットに対応するサービスも存在します。
いずれの技術体系も、いわゆるサラウンドを実現する音声フォーマットを「バイノーラル」(両耳付近にマイクを装着して録音することで実際に近い音響特性の再現を可能にする技術)に変換することで、左右2基のスピーカーのみで立体的な音場を再現します。一般的にサラウンドというと、リスナーを取り囲むように複数のスピーカーを設置しますが、バイノーラルに変換すればイヤホン/ヘッドホンでもそれに近い音場を再現できるのです。
Appleは技術の詳細を明らかにしていませんが、空間オーディオに対応したイヤホン/ヘッドホンには「H1」や「W1」などAppleが設計したワイヤレスチップが搭載されており、そこでDolby ATMOSのデータをバイノーラルに変換していると推測されます。Dolby ATMOSというフォーマット自体は多数のメーカーに採用された汎用的なものですが、左右2チャンネルに変換するプロセスがApple独自の技術で、サードパーティーには提供されていません。
もうひとつ、空間オーディオには頭部の動きを捕捉する「ダイナミック・ヘッドトラッキング」という技術も含まれます。頭を動かすと画面が変化するVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を用いたアプリでの応用が期待されますが、こちらもAirPods ProなどApple製イヤホン/ヘッドホン限定です。