富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のパソコン生産拠点である島根富士通(SFJ)は、2021年8月25日にオンライン会見を開き、事業方針「SFJ Next 30」について発表した。1995年からはノートパソコンの生産に特化していたSFJだが、これまで富士通アイソテックで行っていたデスクトップパソコンの生産を、2021年5月に島根富士通へと完全移管したことも明らかにした。
1989年12月設立のSFJは、1990年10月に操業を開始し、2020年10月には30周年の節目を迎えている。SFJが最初に生産したパソコンはFM TOWNSであり、そこから現在までに4,500万台以上のパソコンを生産してきた。現在、ノートパソコンの生産ラインを20本、新設したデスクトップパソコン専用生産ラインは3本を設置。ノートパソコンの生産ラインではデスクトップパソコンの生産も可能だといい、需要の変動に応じて運用できる。あわせて年間約200万台以上の生産能力を持つ。
島根富士通の神門明(ごうど あきら)社長は、「お客さまの豊かで夢のある未来のために、お客さまに寄り添う。要望にすばやく、柔軟に応え、市場に最適なスマートファクトリーへの進化を目指す」としたほか、「デスクトップパソコンの製造を開始したことで、さまざまなシナジーを生み出し、モノづくりを進化させ、これまで以上にFMVパソコンのコアファクトリーとしての責任を果たしながら、これからもMAID IN JAPANの製品を届けていく」と抱負を述べた。
SFJ Next 30(次の30年)の基本方針として神門社長は、これまで培ってきた「現場力」「技術力」「創造力」に加えて、環境の変化に追随する「変動力」、逆境を乗り越えて糧にする「逆境力」をSFJの新たな強みとし、変化に強くしなやかな工場への進化を目指すとした。
「現場力」では、SFJが持つ匠の技と現場のデジタル化によって、データに基づく改善や品質管理を実現。熟練者のノウハウをデータ化して、技術伝承に活用する。「技術力」では、人とロボットがシームレスに協調する工場を目指して成長。人とロボットがお互いを補完するとともに、人間がクリエイティブな仕事で活躍できる環境を構築。AIを活用して、ロボットの進化を加速させる。
「創造力」では、顧客1人ひとりの仕様にカスタマイズするマスカスタマイゼーションを実現。これまで培ったノウハウのすべてをサービス化することで、日本のモノづくりの進化に貢献したいと述べた。
新たに追加した「変動力」では、現在の多品種少量生産から、変種変量生産にも対応。人、設備、場所を固定しない、フレキシブルでコンパクトな生産ラインを構築するほか、需要の予測精度向上に向けてAIを活用した在庫の最適化、ジャストインタイムを追求する。
「逆境力」では、持続可能な強い企業へと変革するために、人間が高いモチベーションで能力を発揮できるようにニューノーマル時代の働き方改革を実施。レジリエンス向上を図り、自然災害といった想定外の出来事への対応力強化を進めるという。「島根の地で、持続可能な強い企業を目指して、さらに進化させる」(神門社長)とした。
「30年前のパソコンは高額だった。パーソナルユースでパソコンを所有する人は少なく、Windowsもなかった。この30年間でパソコン業界は急激な発展を遂げたが、島根富士通は常に変化に直面し、柔軟に対応してきた。また、その瞬間に満足せず、常に最先端の先を目指して努力を続けてきた。パソコンを使う人たちのことを考えて品質の向上に取り組んできた30年間だったともいえる。
変化への対応と、最先端のさらに先を目指す探求心、顧客を最優先に考える姿勢を持っているのが島根富士通の特徴。高性能や高機能を追求すれば売れる時代は終焉を迎えている。30年先のパソコン業界がどのようになっていても、これまでの30年の歴史で貫いてきた企業姿勢を崩さない限り、これからの30年間も、島根富士通はパソコン業界のトップランナーであり続けると確信している。次の変革ある未来に向けて大きな一歩を踏み出す。これからの島根富士通に期待してほしい」(神門社長)
SFJは、1990年10月の操業以来、2003年6月には累計生産台数が1,000万台に到達。2003年からは生産革新活動を開始し、2005年からはトヨタ生産方式を導入。ジャストインタイム、自動化、平準化による生産革新を実施したほか、2008年からは、組み立てから梱包までの一気通貫ラインを構築している。ロボットや自動搬送機などの導入も加速させてきた。現在では、1台単位での混流生産の実現や、最短なら中2日で出荷する製造リードタイムのほか、75%に達した自動化、98%の人材定着率を誇るという。2019年6月には累計生産台数が4,000万台を越えた。
世界最軽量のノートパソコンであるLIFEBOOK UHシリーズの生産もSFJだ。
「設計の工夫と、島根富士通の匠の技で乗り越える部分を、ぎりぎりまでせめぎあいながら、量産品質の向上や生産性向上につなげている。LIFEBOOK UHシリーズは、FCCLの設計開発と、島根富士通の製造が一体となったMADE IN JAPANを象徴するモデルになっている」(神門社長)
地域との強いつながり
SFJでは協力会社を含めて約1,400人が従事しており、SFJの従業員の99%が島根県を地元にしている人たちだという。就職活動でSFJにエントリーする学生の63%が県外からのUターン希望者。
2012年には、SFJで生産するパソコンが出雲市の出雲ブランド商品に認定。出雲のイメージや知名度を高める役割を果たしている。2020年からは、ふるさと納税の返礼品としてLIFEBOOKシリーズとARROWS Tabが選ばれ、2021年度には返礼品のラインナップをさらに拡大したという。2010年からは、夏休み企画として、小中学生を対象にしたパソコン組み立て教室を実施。これまでに約400人が参加している実績を持つ。
2015年からは島根産業振興財団との連携によって、地元企業を対象にしたモノづくりに関するコンサルティングを開始。2020年には、島根県から永年貢献立地企業として表彰されている。
「島根富士通が生産したパソコンで、出雲と世界中の人たちとの縁をつなげる役割を果たしてきた」(神門社長)
「島根富士通が国内一貫生産にこだわった高品質なモノづくりを展開し、着実に事業規模を拡大してきたことに敬意を表する。出雲の地で生産されているパソコンは、出雲モデルの名称で展開し、出雲市の出雲ブランド商品にも認定されている。新卒者を毎年採用するなど、地域における貴重な雇用の場にもなっている。
島根富士通の存在は、出雲市の経済の発展や定住の促進には欠かせない。今後も良好な操業環境が確保できるように最大限の支援を行っていく。縁結びの街である出雲の地から、MADE IN IZUMOによる製品を世界中に発信し、日本のモノづくり産業を契印することを期待している」(出雲市の飯塚俊之市長)
なお、出雲市は2021年にも何度か豪雨の影響を受けているが、SFJの操業には影響がないという。
富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰会長は、以下のように語っている。
「島根富士通はこの30年間にわたって、簡単ではない進化を遂げてきた。かつては、他社がコスト削減の観点から海外に生産拠点を移す動きを見て、ひやひやしたこともあった。しかし、プリント板から製造し、MADE IN JAPANを継続しているのは、お客さまに少しでも多くの満足を届けたいという一念によるもの。品質、リードタイムはもちろん、顧客ごとに異なる要求に対しても、ベストフィットする製品づくりを目指した。
SFJの工場は多くのお客さまに見学してもらい、この工場で生産されているなら安心だと購入を決めてくれたお客さまもいる。こうした取り組みは、メリットは大きいが、コストなどを考えると生き残ることは並大抵のことではない。島根富士通の努力は大変なものだった。また、地元の人たちやパートナーの協力なしには成し遂げられなかった。すべてに感謝したい。島根富士通は、これからもスマートファクトリーとして大いに成長する。これからの島根富士通にも期待してほしい」(齋藤会長)
また、富士通クライアントコンピューティングの大隈健史社長兼CEOは、「2021年4月に社長に就任して以来、FCCLの独自性の堅持、レノボグループ内で存在感を高めること、FCCLの継続的成長の3つを掲げている。このいずれにも島根富士通は深く関わっている。数字、戦略、経営、すべての観点から貢献に感謝している。これからも、時代の変化に対応した新たな試みを、島根富士通と一緒になって取り組みたい」とした。