豊島竜王の強気の指し手が裏目に出たか。藤井王位は44分の長考で的確に対応
将棋のタイトル戦、お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合)の第5局、▲藤井聡太王位(3勝1敗)-△豊島将之竜王(1勝3敗)戦が8月24、25日の日程で徳島県「渭水苑」にて行われています。本日は決着のつく2日目。対局再開直後に一気に形勢が動いています。
相掛かりの戦型になった本局は、1日目から8筋の主導権を争う激しい展開になりました。△8六歩と歩を垂らして、次の△8七歩成を狙う豊島竜王に対し、藤井王位は飛車と角で相手の飛車の利きを止めようとします。
一手に藤井王位は121分、豊島竜王は113分も考えるなど、両者長考を繰り返すほどに難解で構想力が問われる将棋になりました。
藤井王位が▲7七銀と上がり、8六の垂れ歩を除去しようとした局面で、豊島竜王が40分考えて封じ手を行い1日目が終了しました。
2日目は9時から対局再開。立会人の深浦康市九段によって開封された封じ手は△3三桂でした。先手の2五の飛車を五段目からどかすことで、△8五飛と飛車を活用しようという狙いです。
本譜、豊島竜王の狙い通りに▲2九飛△8五飛と進行します。△8七歩成でと金を作られてしまうと敗勢になる藤井王位は、▲8八歩と打ってしっかりと守りました。
飛車取りで手順に跳ねられた△3三桂は、指した瞬間は気持ちのいい手です。ところが戦いが長引くと、弱点も露呈します。具体的には桂頭を攻められる展開になったり、後手玉から見て左辺への逃げ道がなくなっているのがその弱点です。
よって豊島竜王はここで動いていかないといけないとみたのでしょう。41分の考慮で角取りに△7五銀と出ました。▲4四角△同歩と角交換になれば、手順に歩が伸びるので△4五桂と跳ねられるようになります。
ところがこの手でABEMAのAIの評価値は、一気に藤井王位に傾きました。この銀には飛車のひもが付いていますが、もし飛車が五段目からいなくなってしまうと、角にタダ取りされてしまいます。そしてその飛車に働きかける絶好の一手があるのです。
ここでチャンスとみたのか、藤井王位も長考に沈みます。AIが示す手を指すのか、指さないのか。観戦するファンは固唾を飲んで見守っていたでしょう。そして44分後、藤井王位は▲9七桂と着手。この手がAIも最善と評価していた、盤上この一手の好手でした。
後手は飛車を逃がすと銀を取られてしまいます。飛車を見捨てて角を取る展開になると、後手陣は前述の△3三桂跳ねの弱点である「左辺への逃げ道がなくなる」がクローズアップされてしまうのです。例えば▲8二飛と打たれるだけでも、一気に寄り形になってしまいます。
豊島竜王に誤算があったのは間違いないでしょう。▲9七桂に対し、1時間以上手が止まりました。そして70分の大長考の末、△8四飛と着手。銀をボロっと取られてしまうだけに鬼の辛抱です。もちろん藤井王位は▲7五角で銀を入手。これで先手の銀得となりました。
封じ手の46手目△3三桂からわずか5手の間に本局は大きく様相が変わりました。形勢全くの互角でしたが、▲9七桂を境に先手が大きく優勢になっています。
このまま藤井王位が押し切って、王位のタイトルを防衛するのか。それとも豊島竜王が形勢を挽回して、カド番を一つしのぐことができるのか。午後からの戦いに注目です。