岩手県二戸市で1902年創業の日本酒蔵元「南部美人」がこのほど、クラフトジンとクラフトウォッカの製造をスタート。記者発表会で五代目蔵元の久慈浩介 代表取締役社長が創業119年目の挑戦について語った。

  • 南部美人の五代目蔵元・久慈浩介 代表取締役社長

消毒アルコール製造のために興した新事業

昨年、新型コロナウイルス拡大によって岩手県内でも消毒アルコールが不足。南部美人では消毒アルコールを製造し、胃ろうや人工呼吸器使用などで必要とする医療ケア児に届けた。

それをきっかけに、久慈社長は「医療ケア児の皆さんがこれからも安心して消毒アルコールを使える世の中にするには、消毒アルコールの『地産地消』に取り組むしかない。会社が継続する限り造り続ける」と決意。消毒アルコールの製造を事業として成り立たせるために、同じスピリッツの免許で製造できるジンとウォッカの製造を思いついたという。

  • 二戸市下斗米の「馬仙峡蔵」敷地内に新たに設けた蒸留所。2021年2月にはスピリッツ製造免許も取得した

ジンとウォッカは、同社の歴史ある日本酒とは全く別の蒸留酒。製造する設備も異なるため、一から蒸留所を建設し、"119年目のベンチャー事業"として立ち上げた。

日本酒の販売減で余った岩手県産の酒米を活用

ベースアルコールには、コロナの影響による日本酒の販売量減で余った岩手県の契約栽培の酒米が使われている。「ジンもウォッカもすべて岩手の酒米からできています。酒米は酒になって本望です。日本酒ではありませんが姿を変えて皆さまのもとに届くことを酒米も喜んでいると思います」と久慈社長。

  • 南部美人のクラフトジンとクラフトウォッカ

二戸市の名産「浄法寺漆」をボタニカルにしたクラフトジン

クラフトジンは、日本でも近年人気を集めているジャンル。ジュニパーベリーなどのボタニカルで香りに特徴を持たせることがジンの特徴で、そのボタニカルにはさまざまな木や花や果実などが使われる。

南部美人のクラフトジンには、ボタニカルに岩手県二戸市の名産「浄法寺漆(うるし)」を使用。浄法寺漆は日本一の生産量を誇り、ユネスコの無形文化遺産登録や日本遺産登録もされている。漆を使ったジンは日本でも初となる。漆の木を一度炙ったことで、後味に軽くスモーキーな香りをまとった仕上がりに。

平庭高原の白樺林の活性炭でろ過したクラフトウォッカ

ウォッカには、白樺の活性炭でろ過するという国際ルールがあるのだそう。今回開発したクラフトウォッカでは、全国的にも有名な岩手県久慈市にある平庭高原の白樺林に注目。久慈市の谷地林業にこの白樺を炭にしてもらったものをろ過に使用している。

白樺の炭によるろ過で味を純粋に研ぎすました、きれいで透明感ある味わいと米由来のうま味が特徴だ。

「まさにクラフト」な岩手県の新たな名産品

久慈社長が「まさにクラフトという言葉がぴったりの、岩手県でなければ製造することできない、岩手にこだわった岩手の新しい名産品として皆さまに愛飲していただければ幸いです」と語る、"岩手テロワール"な自信作。

初回生産分のプレミアム限定商品「ザ・ファーストロット」(各・200ml/1万1,000円/2021本の限定販売)は8月18日から先行発売された。アルコール度数も60%と高純度で通常のジンやウォッカよりも高く、ロット番号は久慈社長がすべて手書きした。

  • 「ザ・ファーストロット」(各・200ml/1万1,000円/2021本の限定販売)

このザ・ファーストロットのロット番号それぞれ1番は、9月23日に開催されるシンワオークションに出品される。ジンの落札額全額は二戸市の漆振興に、ウォッカの落札額全額は久慈市の白樺の振興に寄付するという。

通常のクラフトジン(700ml/4,730円、200ml/1,815円)とクラフトウォッカ(700ml/4,290円、200ml/1,485円)は、9月中旬〜末に発売予定。アルコール度数は45%前後。日本で製造されるジン、ウォッカの中では初めて完全菜食主義者「ビーガン」の国際認定も取得している。

日本酒を世界55カ国・地域に輸出する南部美人。今回のクラフトジンとクラフトウォッカも北米・欧米など全世界へ輸出予定だ。