テレビの人気アナウンサーという立場を捨て、自らeスポーツ実況事務所「ODYSSEY」を立ち上げ「eスポーツアナウンサーの第一人者」となった平岩康佑さん。
「休みの日は16時間くらいゲームに没頭していた」というほどゲーム愛は強く、eスポーツアナウンサーとなった今もゲーム愛は高まるばかりです。
そんな平岩さんは今、どのような思いでeスポーツアナウンサーとしての日々を送っているのでしょうか。後編となる今回は、平岩さんが見据える「eスポーツの未来」を含めてお話をお聞きしました。
■eスポーツアナウンサー・平岩康佑さんインタビュー、前編はこちら
「本当にゲームが好きな人じゃないと、この仕事はできない」
――仕事をするうえで大事にしていることはありますか?
事前準備は怠りません。というのも、野球やサッカーの場合、観客の9割近くはそのスポーツをやってない人だと言われているのですが、eスポーツの観客は実際のプレイヤーであることが多く、リテラシーや知識も高いんですね。そのため、実況者も知識を高める必要があります。
うちの会社では「新規のゲームタイトルは100時間プレイしてから実況する」というルールを作っています。そうすることで、そのゲームの難しいポイントや勝負の決めどころがわかりますし、ゲームごとにノウハウも作って、会社に溜め込んでいます。
――eスポーツはどんどん新しいゲームが出てきて、それぞれルールも違うわけですよね。それらの知識を詰め込むのはかなり大変では?
だからこそ、本当にゲームが好きな人じゃないと、この仕事はできないんですよ。僕もかつては、新しいスタッフを採用するときに、「実況をできる人がeスポーツアナウンサーに転身したほうがいい」って考えていたんです。要するに、ゲームの知識は後で学べばいいと思っていました。でも、本当にゲームが好きじゃないと100時間もプレイできません。今は「ゲームが好きな人の中から、アナウンサーに向いていそうな人」をリクルートするようにしています。
選手やゲームへの“リスペクト”は忘れない
――仕事に対する姿勢などで心掛けていることがあれば教えてください。
ゲームに対する自分の姿勢は大事にしています。僕自身、実況するゲームを好きでいたいと思っていますし、選手へのリスペクトやゲームへのリスペクトも忘れないよう意識しています。
――具体的には、どういうふうに?
例えば、通称や略称で呼ばれているゲーム名やアイテム名も、ちゃんと正式名称で呼ぶようにしています。クリエイターたちは、ちゃんと意図があって名前を付けているはずですからね。そこを裏切らないよう、リスペクトは欠かさないようにしています。
――ゲームが大好きで、eスポーツ実況の先駆者となった平岩さんですが、「仕事を好きでいるために努力していること」はありますか?
新しいゲームに最初に触れるときは、いちゲーマーであることを意識しています。この仕事をしていると、どうしてもゲームを見るプロになっちゃうので、ゲームをシステマティックに理解しちゃうんです。でも、ゲームって本来は楽しいものですから、子どもの頃に『スーパードンキーコング』でワクワクしたときの気持ちを忘れず、「あえてプロ目線でゲームを見ない」ということを大切にしていますね。
――今後の目標などはありますか?
やりたいことはたくさんあります。YouTuberの皆さんから、「昔の動画に実況をつけてほしい」という声もいただいています。既存のコンテンツに実況をつけることで、新しいコンテンツになる可能性も秘めているので。
それから、eスポーツ実況の事務所として立ち上げた「ODYSSEY」を日本一実況に長けた会社にしたいと思っています。その一環として、先日、日本で始めてVチューバーのeスポーツキャスターをデビューさせました。
――Vチューバーって、アバターを使ってYouTube配信を行っている方のことですよね?
今、Vチューバーって、すごく大事な立ち位置にいるんです。多くのeスポーツの大会に呼ばれています。そういった状況も受け、「御影ヤマト」というVチューバーをデビューさせました。
早くも多く方にYouTubeのチャンネル登録もしていただいて、生配信も1300人くらいの皆さんに見てもらっています。ちなみに御影ヤマトは、平安時代に蹴鞠の実況をしていたら現世に飛ばされちゃってVチューバーになった、という設定でやっています(笑)。
平岩さんが思い描くeスポーツ業界の未来
――今後、eスポーツ業界の未来はどうなっていくとお考えですか?
5年以内にプロ野球より大きくなると思っています。実際に世界を見渡すと、メジャーリーグを見ている人よりも、eスポーツを見ている人のほうが多いんです。たとえば『フォートナイト』は世界で3.5億人のプレイヤーがいるのですが、これはサッカーの競技人口と同じくらいなんですよ。
――そんなにスゴいことになっているんですね。
世界大会にはルイ・ヴィトンやメルセデス・ベンツもスポンサーとして参入していたり、中国ではeスポーツの放映権が3年間で125億円という額で売買されたりもしています。日本でも賞金額が1億円を超える大会が年に4回ほど開催されていて、大金を稼いでいるプロゲーマーも増えているんです。
――夢が膨らみますね。そして、まさに平岩さんのように、選手以外にもeスポーツに携わる方法があります。「大好きなゲームを仕事にする」という選択肢は、これからもっと増えてきそうですね。
そうですね。「ODYSSEY」には大体1週間で1〜2人、多いときで7人くらいから入社の問い合わせがきます。アナウンサー以外でも、大会のプロデューサーやゲーム内カメラマンという仕事もあります。選手以外にもeスポーツに関わる仕事はいろいろありますから、ゲームが好きな人はこういった選択肢も考えてみてほしいですね。
――今後のeスポーツ業界の発展が楽しみです!
日本だと、ゲームはどうしてもネガティブに捉えられることが多いですよね。「犯人の家から暴力的なゲームが見つかった」という報道も、何度もありました。ですが、オックスフォード大学の研究などでは、子どもに暴力的なゲームをやらせても、その子の性格に影響は及ばないことが明らかになっています。
日本では、学生時代にファミコンブームを経験した世代がまもなく還暦を迎えます。きっと、ゲームへの理解も今より進んでいくでしょう。今はまだ多くの人が「ゲームなんて子どもの遊びでしょ」と誤解していますが、そんな人たちもeスポーツで感動するような未来を目指して、僕も頑張りたいと思っています。