豊島竜王にとってはあまりにもチャンスの少ない将棋となった

お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合)第4局、▲豊島将之竜王-△藤井聡太王位戦が8月18、19日に関西将棋会館で行われました。結果は140手で藤井王位が勝利。シリーズ成績を3勝1敗とし、防衛まであと1勝としています。


お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負の勝敗表

王位戦第1局以来の相掛かりとなった本局。後手が△8六歩▲同歩△同飛と飛車先の歩を交換したのに対し、▲2二角成~▲8八銀と歩を打たずに対応するのが豊島竜王の新工夫でした。藤井王位は66分の長考で交換したばかりの角を△4四角と打っていきます。

「▲8八銀の図は一回やってみたかったんですけど、△4四角もそういう手もあるのかなと。難しいのかなと思っていました」と豊島竜王。一方、藤井王位はこの進行を「見えていない手順で、△4四角と打つようではこちらの角が負担になってしまう展開が多いのかなと思っていました」と振り返りました。

その後、豊島竜王も▲5六角と打って手放しました。豊島竜王は一歩得を果たす代わりに、角を狙われる展開になります。「(封じ手のところは)歩損が残ってしまうので、少し苦しい形なのかなと思っていました」と藤井王位が語れば、豊島竜王も「一歩得にはなったんですけど、なんかしっくりとくる組み方がその後分かりませんでした」と語りました。局後のコメントでは両者自信がなさそうでしたが、実際、形勢は全くの互角でした。

2日目の午前中、豊島竜王は玉を金銀3枚でしっかりと囲い、戦いに備えます。対する藤井王位はその間に角の利きを生かして、左銀と左桂をさばいていきます。そして手にした銀を△5四銀打と打ちました。

この△5四銀打が本局の勝因となった好手。次に△4五銀と出る手や、△6五歩と突いて攻めていく手をみています。盤上中央にどっしりと構えるこの銀が、攻めの司令塔となりました。

この銀打ちに対する応手を豊島竜王は悔やみました。本局は△4五銀を防ぐために▲4八飛と回りましたが、これが藤井王位の猛攻を誘発してしまいました。「▲4八飛が良くなかったのかもしれません。飛車回って悪形というか、(5七の地点に)成り込まれたらすぐに当たってしまいます」と豊島竜王は語ります。

ここがチャンスとみた藤井王位は総攻撃を開始します。△7五歩と歩を打ち捨て、△9五歩、△6五歩と連続で突き捨てます。さらに△6六歩とくさびを打ち込んだ後、角を入手してから、△5六歩と突き出したのが決め手と言ってもいいほどに厳しい一着でした。3五の角が豊島陣ににらみを利かしています。

この△5六歩で手ごたえを得たと藤井王位。「△5六歩と突いたあたりで、こちらの玉の広さが生きる展開になってきたかなと思っていました。飛車を取ることができて、指しやすくなったかなと思います」と振り返ります。豊島竜王も「7、9、6筋から総攻撃を受ける形になってからはちょっと苦しいような気がします」と同意しました。

この△5六歩以降、豊島竜王には一切チャンスが訪れませんでした。というのも、ここから終局数手前まで、藤井王位がひたすら攻め続けることとなったからです。豊島竜王は防戦一方となり、反撃する機会はありませんでした。

藤井王位は「その後明快な手がなかなか分からなくて、本譜ではうまくいってないのかなと思っていました」と語ったものの、その攻めは実際には厳しいものばかり。2枚の飛車で縦横から豊島玉に迫ったかと思えば、今度は2枚の角で上部から襲い掛かります。最後は相手の歩の利きに△8六金と打つ華麗な決め手で豊島玉を受けなしに追い込み、勝利を収めました。

「(封じ手付近の)もう一回駒組みになったところで、組み方をちょっと間違えているのかなという気がします」と豊島竜王が語ったように、本格的な戦いが始まってからは藤井王位の一方的な展開になった本局。感想戦で示されたのは、▲4八飛に代えて、▲6五歩と攻めていく手でした。しかし6五は、後手が△5四銀打として利きを増やしたばかりの地点です。指しづらいことこの上ありません。一局を通じて、豊島竜王にとってあまりにもチャンスの少ない展開でした。

この勝利で藤井王位はタイトル防衛に王手をかけました。追い込まれた豊島竜王は、タイトル奪取には3連勝が必要です。

注目の第5局は8月24、25日に徳島県「渭水苑」で行われます。この対局に向けて、藤井王位は「第5局は来週にすぐあるので、しっかりといい状態で臨めればと思います」、豊島竜王は「対局が続くので、体調を整えてまた頑張っていきたいと思います」と抱負を語りました。

タイトル防衛に王手をかけた藤井王位(提供:日本将棋連盟)
タイトル防衛に王手をかけた藤井王位(提供:日本将棋連盟)