通常なら数カ月かかる作業を数日で完了

移行にあたっては、いくつかの工夫があった。本番環境にデプロイする前に行うアプリケーションのテストは、「Oracle Real Application Testing」を活用して短期間で行った。

データベースの移行では「Oracle GoldenGate」「Oracle GoldenGate Veridata」、カスタム開発ツールのファイル移行ツールなどを活用した。小堀氏によると、まずはオンプレで毎日作成しているバックアップファイルをクラウドに転送して復元する。データ量が多いので3日を要するため、クラウドで復元したデータは4日前の時点のものだ。オンプレではその間も変更が発生しており、この差分を復元するためにGoldenGateを使ったとのこと。

最終的には、切り替え当日にオンプレのデータベースを一旦停止し、最終的な差分をクラウドに移してオンプレとクラウドを同じ状態にした後、クラウドを立ち上げて稼働させるというやり方をとった。リスクを回避するため、クラウドからオンプレミスへの逆同期も設定していたそうだ。

もう一つの工夫が、”Infrastructure as Code(IaC)”だ。「できるだけ手作業をなくすという方針を立てました。クラウドになるとコードで構築もできますが、コード化しておけば、うまくいかないとなった時にコードを書き換えればいい」と小堀氏。DR環境を構築する際も短期間で効率よく一気にサーバをデプロイすることができたという。

「通常なら1~2カ月かかるような作業が数日程度で完了したことは大きかったです」と小堀氏。ツールとしては「Terraform」(HashiCorp)や「Ansible」などオープンソースの枯れた技術を使ったが、これも自分たちで調べたそうだ。

結果として、2019年末にクラウド移行を決定、要件定義から稼働までの移行プロセスを11カ月で完了した。コロナ禍と重なっていたが、元々テレワーク環境が整っていたこともあり、全員リモートでプロジェクトを進め、予定通りに進行できたという。

本稼働に入って半年以上が経過するが、問題なく動いていると両氏は胸を張る。

  • Oracle Cloud Infrastructureに移行した後のエディオンのシステム環境

内製化への挑戦で変わったIT部門の意識

クラウドへの移行の目的だったスピードについては「メリットを感じるのはまだまだこれから」(松藤氏)というが、既に実感しているメリットとして「ハードウェアの運用保守は大幅に削減された」ことを挙げる。「今後は、運用保守を担当していた人員をコアビジネスにアサインしたい」と松藤氏。コストについても、「効果が出てくるのはこれからだが、少なくとも5年に1度のハードウェア保守切れに伴うリプレースがなくなった」という。

そして、何よりも感じているのは、IT部門の意識の変化だ。小堀氏はこう説明する。「これまでアプリケーションチームや企画チームは、インフラチームに『こういうシステムが作りたいからインフラを用意して』という依頼をして、インフラ環境は準備してもらうものという意識でした。しかし今では、アプリケーションチームや企画チームがクラウド前提でインフラの要件定義を考えるようになりつつあります。全員がクラウドをちゃんと使うためにはどうすればいいのかを考えるようになりました」

クラウドに二の足を踏む企業に対しては、「オンプレと違って機器を買う必要がない。コンピューティングリソースを簡単に準備できるので、とりあえず動かすことができる」と松藤氏はアドバイスをする。加えて、「まずは構築作業に取り掛かる。小さく構築して動かすことができたので、大丈夫だろうという見込みを最初に持ってから進めました」と語っていた。

「今後、オンプレで何かをやるということはないだろう」という小堀氏。内製化とクラウドにより、「以前ならベンダーにお願いしていたところを、現在クラウドで利用できる技術だとどうやればいいかといったことを全員で考えるようになりました」とも話す。

プロジェクトを振り返って、「OCIにリフトしてDR構成を強固に作ることができました。自分たちでやれたことで自信がつきました」と語る両氏、今後はアプリケーションのモダン化を進めたいと目を輝かせていた。