日産自動車「ノート」の上級モデル「ノート オーラ」にスポーツバージョン「ノート オーラ NISMO」が追加となる。発売は今秋の予定。トヨタ「GRヤリス」や欧州車がライバルとなりそうだが、オーラとオーラ NISMOは実際のところ、何が違うのか。乗り比べてきた。
シートベルトは赤! NISMOの内外装は?
「オーラ」はベースとなる「ノート」にワイドなボディや上質なインテリア、出力をアップしたパワートレインなどを搭載した上級モデル。このクルマに日産のモータースポーツ部門であるNISMOの手で“ワークスチューン”を施したのがオーラ NISMOだ。先日、オーラとオーラNISMOを日産追浜工場内のテストコース「グランドライブ」で乗り比べる機会を得たので、違いを確かめてきた。
エクステリアはNISMO仕様らしく、レーシーなカラーリングや空力の高そうなパーツで固められている。具体的には、NISMOのアイコンカラーであるレッドに塗られた前後のレイヤードダブルウイング、サイドスプリッター、カナード形状ウイング、エアロサイドシル、17インチエアロホイール、ダックテール断面のリアスポイラーなどが独自の部分だ。
前後バンパーの下部中央に配されたNISMOの新エンブレム、新形状のフロントフォグランプ、「フォーミュラE」にインスパイアされたリアフォグランプ、ボンネットのグロス/マットブラックのツートーンフッドステッカー(オプション)などが目を引く。落ち着いたイメージのオーラと比べ、相当に引き締まった印象だ。
インテリアもNISMOらしい素材や色であふれている。
専用ファブリックとPCVのコンビネーションシートとなるスタンダードバージョンに対して、我々の試乗車はアルカンターラを表皮にしたRECARO(レカロ)製のスポーツシートを装着していた。こちらはサイドエアバッグを標準設定しているNISMO車専用となるオプション装備だ。
先代「ノート NISMO」が採用していたRECARO製シートに比べ、オーラ NISMOでは肩甲骨を面で支える構造を採用することでロール方向(前後を軸にした回転)とヨー方向(上下を軸とした回転)の体の動きが抑えられ、クルマとの一体感がさらに向上したそうだ。オプションの価格は36.9万円と高価だけれども、このシートを試す価値は十分にあると思う。シートベルトも専用レッドカラーのもので、こちらは次世代NISMOの新しいアイコンとして順次採用していくという。
ライバルとも十分に渡り合える走りの完成度
開発のコンセプトとして「Agile Electric City Racer」(瞬足の電動シティレーサー)を目指したというオーラ NISMO。その走りを体感すべく、1周3.77kmのテストコースを走った。レッドのモードスイッチで加速とレスポンスが最高になる「NISMOモード」を選択し、シフターで「Bレンジ」に入れる。これで、スポーツ走行に最適な状態になっているはずだ。
ゼロ発進してすぐに全開加速。ピークの最高出力/最大トルクはオーラと変わっていないけれども、NISMOチューンのコンピューターによって中間加速力がアップしているので、スピードの乗り方が「ググンッ」と力強い。すぐに右、右、左と切り替えしながら坂を上り、頂点を過ぎて右に下るという連続コーナーに侵入。左右と上下にGが加わるこの難しいパートを、オーラ NISMOは相当なスピードで駆け抜けていく。
ルノーと共通の高性能なプラットフォーム「CMF-B」を基本としつつ、外筒板厚を増やし、専用形状のバンプラバーやバネを装着したフロントサスペンション、応答性が高く車体の上下動をすぐに抑えることができるモノチューブ式リアサス、6.5→7.0へとワイドになったホイールリム、それに装着する「ミシュラン・パイロットスポーツ4」ハイグリップタイヤ、介入を弱めつつ限界では助けてくれるVDC(シャシー制御)などによる総合力により、四輪が絶えず接地してくれているので(通常ではリアイン側のタイヤが浮くことが多い)、厳しいコーナーにも安心して入っていける。RECAROシートにより、車体との一体感が伝わってくるのもいい。
数百メートル続く直線路ではかなりの速度まで加速させることができた。続くスラロームも、アクセルのオン/オフとステアリングを切るタイミングをきっちりと合わせるだけで難なくクリアできる。あとで聞いた話では、開発ドライバーはここを100km/hで駆け抜けることができたというから、このシャシーが持っている高性能なポテンシャルにはびっくりだ。
一方で、こうした走りを続けていると、「電欠」によってパワーダウンしてしまうのはe-Powerの唯一の欠点かも。当日も、3周目あたりになると直線路での最高速が明らかに低くなったし、アクセルレスポンスも少々落ちてしまうのを感じた。その時はバッテリーが空になっていて、ガソリンエンジンが発電する電力だけで走っている状態なので、“空”の電池はただのオモリになってしまっているのだ。もっとも、サーキットを全開で周回し続けるような走りでなければ、電欠はそうそう起こるわけではないので、普段使いではあまり気にする必要もないのだが。
オーラ NISMOの本体価格は286.99万円。必需品の「プロパイロット+ナビパッケージ」が34.98万円、是非とも装着したいRECAROシートが39.6万円、ツートーンカラーボディが5.5万円~8.25万円なので、合計は370万円前後となる。
トータルでは、ライバルとなるトヨタ自動車「GRヤリス」の中間グレードや欧州コンパクトモデルが視野に入る価格になってしまうけれども、小型のスポーツモデルという点では抜群の出来栄えを感じさせてくれたので、十分に戦う力を持っていると思う。また、小さな高級車へのアプローチとして、この完成度はひとつの回答だとも考えられる。
今回のオーラ NISMOは、今後のNISMOモデルの基準となるクルマになるようだ。そのあたりについても開発者に話を聞いたので、別稿でお伝えしたい。