ホベルト・サトシ・ソウザ、クレベル・コイケの活躍で注目を集めるボンサイ柔術。いま、勢いに乗る彼らが、<RIZIN主役の座>を朝倉兄弟から奪いつつある。そんな中、興味深いカードが組まれた。

  • RIZINバンタム級トーナメントの優勝候補筆頭と目される朝倉海。6月13日・東京ドームでの1回戦では渡部修斗にド迫力のパウンドを見舞いKO勝利を収めた。(写真:RIZIN FF)

『RIZIN.30』(9月19日、さいたまスーパーアリーナ)でのバンタム級トーナメント準々決勝で、優勝候補筆頭の朝倉海とボンサイ柔術のアラン・ヒロ・ヤマニハが対峙するのだ。クレベルは「ヒロが勝つ」と断言。何が起こる? 番狂わせはあるのか?

■朝倉優位も強気なヤマニハ

「(朝倉海との対戦が決まったことは)ありがたいです。海はビッグネームだけど、それほど強くない。弱い。ボンサイ(柔術)の仲間は私の家族。その名誉を守る。私が(関節技か絞め技で)決めて勝ちます」(アラン・ヒロ・ヤマニハ)
「いまのボンサイには勢いがあります。ホベルト・サトシ・ソウザ選手やクレベル・コイケ選手が強くて尊敬していました。でも、一番弱いボンサイの選手が勘違いしちゃってるみたいなんで、ちょっと分からせてやります。ボコボコにしますので、楽しみにしていて下さい」 (朝倉海)

  • 先月(7月)、東京・目黒雅叙園で開かれた対戦発表記者会見で挑発し合った朝倉海(左)とアラン・ヒロ・ヤマニハ。(写真:RIZIN FF)

9月19日、さいたまスーパーアリーナで開催される『RIZIN.30』。ここで行われる「RIZINバンタム級(61キロ級)トーナメント準々決勝の組み合わせが既に発表されている。公開抽選会で組み合わせを決めた1回戦とは異なり、今回は主催者側がマッチメイクを行なった。決定した準々決勝4試合は以下の通り。

元谷友貴(フリー)vs.瀧澤謙太(フリー)
扇久保博正(パラエストラ松戸)vs.大塚隆史(T GRIP TOKYO)
井上直樹(セラ・ロンゴ・ファイトチーム)vs.金太郎(パンクラス大阪稲垣組)
朝倉海(トライフォース赤坂)vs.アラン・ヒロ・ヤマニハ(ボンサイ柔術)

いずれも、東京ラウンド(6・13東京ドーム『RIZIN.28』)勝者と大阪ラウンド(6・27丸善インテックアリーナ『RIZIN.29』)勝者の対決となった。
この中で最注目は、やはり朝倉海vs.アラン・ヒロ・ヤマニハだろう。

昨年の『RIZIN』の主役は、朝倉兄弟だった。兄・未来がフェザー級(66キロ級)戦線をリード、弟・海はRIZINバンタム級チャンピオンのベルトを腰に巻いていた。
だが、ここに来て状況が一変している。
昨年大晦日『RIZIN.28』で堀口恭司とのリマッチに敗れた海は王座転落。未来は6・13東京ドームで、ボンサイ柔術のクレベル・コイケに絞め落とされてしまった。そして同日、ホベルト・サトシ・ソウザが、トフィック・ムサエフ(アゼルバイジャン)に勝利しRIZINライト級(71キロ級)王座に就いた。
リングの主役が、朝倉兄弟からボンサイ柔術に移りつつあるのだ。
そんな状況下で、朝倉海vs.ヤマニハは行われる。

■ヤマニハの作戦とは?

勢いに乗るボンサイ柔術のクレベルは言う。
「ヒロ(ヤマニハ)は、海に勝つよ。海は、ヒロのことをボンサイで一番弱いと言っていたけど、それは間違いだ。私はヒロと毎日一緒に練習しているからわかる。とっても強い。1ラウンドでKO、もしくは2ラウンドで決めてヒロが勝つ」

ヤマニハは『RIZIN.29』でのバンタム級トーナメント1回戦で倉本一真(修斗GYM東京)と闘い判定勝ちを収めた。しかし、決して圧勝ではなかった。クロスファイトを何とか凌ぎ切った観が強い。「決めの強さ」も感じることのできない試合だった。

それでもクレベルは言う。
「ヒロの実力は、あんなもんじゃない。この前は、緊張しすぎていて本来の力が発揮できなかっただけ。練習通りの動きができれば(朝倉海に)勝てる」と。

  • 6月27日、大阪での『RIZIN.29』で倉本一真とクロスファイトを展開、判定で勝利を収めたヤマニハ。(写真:RIZIN FF)

果たして、そうだろうか。
私の予想は「朝倉海優位」だ。
スピード、パワー、展開の読み、キャリア、すべてにおいて朝倉が優っているように思う。 大方のファンもそう見ているのではないか。
朝倉は、試合開始直後から積極的に前に出るだろう。得意の打撃でプレッシャーをかけていく。そしてペースを握ったところで相手に組みつかせることなくパンチで倒す、あるいはパウンドで決めるのではないか。もし引き込まれたとしても、パワーとスピードで上回る朝倉のエスケープは容易だろう。昨年8月の扇久保博正戦(朝倉の1ラウンドKO勝ち)のような展開、結末が目に浮かぶ。

ただクレベルの発言も、同門を贔屓目に見ているだけだとは思わない。
すでにヤマニハに作戦を授けていることだろう。

作戦とは何か?
それは、「打ち合いで絶対に引かない」闘いをすることだ。
最初から寝業狙いだと、どうしても消極的な展開になり相手にペースを握られてしまう。そうしないために打ち合いには毅然と挑むのだ。総合的な打撃力は朝倉が上でも、倒されること覚悟で引かなければカウンターの一撃を見舞えることもある。朝倉にいくらかのダメージを与えたうえでグラウンドに持ち込むことができれば勝機を見い出せよう。
ヤマニハの気持ちの強さは、朝倉に匹敵する。加えてチームに勢いもある。ワンチャンスに賭ける作戦だ。

私の「朝倉優位」の予想は変わらない。
だが、ヤマニハがアップセット(番狂わせ)を起こしたなら、RIZINのリングにおける勢力図は一夜にしてボンサイ色に塗り変えられることになる。
ヤマニハが飛躍を目論む一戦、海にとっては、絶対に負けられない闘い─。

文/近藤隆夫