退職金が出ない企業が存在することをご存じですか? 「え? それって違法じゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、退職金は会社ごとに設定できる制度。法律で支払いを義務付けられているわけではないため、退職金なしでも違法ではありません。

今回の記事では、退職金制度や退職金を受け取れる条件についてご紹介します。

「どうせ退職金なんて微々たるもの」と、考えている方もいるかもしれません。記事の後半では、退職金が出ないことのリスクについて触れているので、ぜひ最後までご覧ください。

  • 退職金なしの企業は違法ではないのか?

    退職金がでなくても違法ではありません

「退職金なし」の会社は違法ではないのか?

退職金を支給しないことは、違法なのではないかと疑問に思う方もいるでしょう。結論からいうと、退職金を支給しなくても違法ではありません。ここでは、退職金制度についてや、退職金の支給がないことが多い業種などについて紹介します。

■退職金制度について

退職金制度とは、会社を辞めるときに退職金(退職手当もしくは退職慰労金ともいう)が支給される制度のことです。位置づけとしては、福利厚生の一つとなります。

あくまでも会社側が設定するものであり、法的に義務付けられた制度ではありません。そのため就業規則に退職金についての記載がなければ、退職金の支払いの義務は生じないことになります。

もともと退職金は、終身雇用制度を多くの企業が取り入れていたころの名残で、「働いた対価の後払い」の意味合いを持っていたと言われています。近年では、退職金制度を撤廃する企業もあり、退職金のあり方が昔とは変わってきています。

■退職金なしの会社は約20%

厚生労働省が調査した「平成30年就労条件総合調査」のデータによると、退職金制度のある企業は80.5%となっています。裏を返せば、およそ5社に1社の割合で退職金の支給がない会社が存在するということになります。

退職金が支給される会社のうち、1,000人以上の従業員数がいる企業では9割以上が退職金制度を導入していますが、従業員数が少なくなるほど支給率が下がっていることがわかります。

【従業員数ごとの退職金支給率】

従業員の数 退職金がでる企業の割合
1,000人以上 92.3%
300~999人 91.8%
100~299人 84.9%
30~99人 77.6%

■退職金なしが多い職種は?

次に、職種別で退職金の支給率を見ていきましょう。前項と同様に、厚生労働省のデータを用いて主要な職業を表にまとめました。

【職業別による退職金支給率】

職業カテゴリ 退職金がでる企業の割合
複合サービス事業 96.1%
鉱業、採石業、砂利採取業 92.3%
金融業・保険業 88.6%
医療・福祉 87.3%
卸売業・小売業 78.1%
運輸業・郵便業 71.3%
宿泊業・飲食店サービス業 59.7%

複合サービス事業の支給率がもっとも高く9割以上となっています。宿泊業や飲食店サービスの支給率は6割以下です。職種によって退職金の有無が左右されるのがわかります。

また、この統計調査は常用労働者30人以上の民営企業を対象にしているため、社員29人以下の企業も含めるともっと低い数字になると予測されます。

  • 退職金なしの企業は違法ではないのか?

    退職金を受け取れる3つの条件を確認しましょう

退職金を受け取れる条件とは

退職金制度がある会社に所属している場合、自分は支給対象かどうかが気になりますよね?

「入社時に退職金の話がなかったし……」と、不安に思う方は、勤め先の就業規則を確認するのがもっとも簡単で確実な方法です。ちなみに「就業規則を見せられない」といわれたという声を聞くこともありますが、これは労働基準法の第106条に違反する行為です。自分が退職金をもらえる対象かどうかを知るには、まず就業規則をチェックしましょう。

■勤続年数

退職金を受け取る条件として最低勤続年数を設定している企業がほとんどです。例えば「入社してから3年以上勤務」といったケースが多くみられます。併せて、勤務年数に応じて退職金の支給額も増えるのが一般的です。

モデルケースとして東京産業労働局が発表した「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」の一部をご紹介します。

【勤続年数別での退職金モデルケース】

勤続年数 大卒者(自己都合退職の場合)の支給額
10年 113万5,000円
15年 214万9,000円
20年 353万4,000円
25年 524万3,000円

あくまでモデルケースではありますが、このように勤続年数で退職金支給額が変動していることがみて取れます。

■退職理由

会社を辞める理由によっては、退職金が出ない可能性もあります。例えば、就業規則に「懲戒解雇での退職の場合、退職金の支給はしない」といった記載があれば、懲戒解雇された場合は退職金を受け取れません。

退職理由について何の記載もないときは、自己都合退職であろうが懲戒解雇であろうが退職金の支給は会社側の義務です。もし支払わないといわれたら、就業規則の提示を求めましょう。

自己都合での退職なのか、会社都合での退職なのかで受給資格が変わってくる場合もあります。

■雇用契約

退職金の支給は、正社員に限った制度ではありません。2021年4月から始まった、パートや派遣社員と正社員の差をなくすための同一賃金同一労働での退職金の扱いについてご紹介します。

同一労働同一賃金は、同一企業や団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者など)の間の不合理な待遇差を解消するために導入されました。

しかし退職金についての明確な記述はありません。「不合理な待遇差の解消」という文から察するに、賞与や福利厚生、退職金も正社員と同じ水準の支払いが必要と考えられます。

  • 退職金を受け取れる条件とは?

    退職金がない会社に勤めているとリスクもあります

「退職金なし」のリスクとは

退職金が支給されない会社に勤めている方は、将来のリスクも考慮しましょう。

「どうせ数年しか勤めてないし、退職金は期待してない」と思う方も多いかもしれません。しかし、たとえ少額だとしても、退職後の生活に影響してくる可能性があります。退職金が出ないことによるリスクを2つご紹介します。

■老後の資金源がなくなる

第一に、定年退職を迎えたときに老後の資金源が少なくなるというリスクがあります。 例えば、家のローンが残っていたり、貯金が思うようにできていなかったりした場合です。退職金が出ないことにより、退職後の老後破綻に陥る危険が高まるといえるでしょう。

■退職後の生活費に困る

定年退職以外にも、転職や予期せぬ病気、家庭の事情などで退職を選択することがあります。その際に収入がない期間が発生する可能性を想定した場合、退職金が出ないのはリスクが大きいのではないでしょうか。

東京産業労働局による退職金のモデルケースでは、3年以上勤務していれば、自己都合退職でも約20万円の支給があるというデータがあります。ひと月の生活費分にはなるので、すぐ転職先が決まらない場合や、失業手当の待機期間中でも安心できるでしょう。

  • 退職金なしのリスクとは?

    退職金が出ない場合はリスク対策しましょう

「退職金なし」の状況への対策方法

就業規則を確認して、退職金が出ないとわかった時点で行動する必要があります。今回、3つの対策方法をまとめているので、老後や退職後のリスク軽減のためにもすぐにできそうなものから始めましょう。

対策1. 退職金が出る企業へと転職

簡単ではありませんが、20代~30代であれば転職も視野に入れましょう。

退職金は勤続年数が長いほど、金額が大きくなります。将来的な退職金額を考えた場合は、早いうちに退職金制度を導入している会社へ移るのがいいと言えます。

対策2. 給料の2割を貯蓄へまわす

退職金が出ないけれど、転職も難しいと考える方も多いのではないでしょうか。

そのようなときは、老後貯金をしっかり行えば問題ありません。無理なく貯蓄できる金額は、一般的に手取り額の2割といわれています。

例えば、手取り30万円の45歳の方のケースはこちらです。

手取り30万円×20%=6万円(月の貯金額)
6万円×12カ月=72万円(年の貯金額)
定年を65歳と想定すると
72万円×20年(残りの勤続年数)=1,440万円の貯金が可能

この他にボーナスや昇給もあるでしょう。老後は2,000万円が必要といわれています。退職金がない場合、貯蓄を心がけていきましょう。

対策3. 副業や投資などで収入源を増やす

2019年に施行された働き方改革関連法により、副業を許可する企業も増えています。

預貯金だけでは退職後の生活を維持できないと考える方は、副業をして収入を増やすのもひとつの方法です。ある程度の資金がたまったら投資でさらに増やすこともできるでしょう。

そうはいっても副業は労働時間が増えるため、身体やメンタルの負担も少なくありません。投資もリスクを伴うので注意が必要です。

  • 退職金なしの対策方法

    退職金が出ないなら、計画的な貯金や副業も視野に入れましょう

退職金なしは違法ではないが、退職後のための対策は必要

1990年後半までは退職金が支給されるのが当たり前のように思われていました。しかし近年、退職金の全体の水準が低下してきています。支給額が少なくなるだけでなく、退職金制度そのものを撤廃する会社もでてきました。

あくまで退職金を支給するかしないかは会社次第なので、いざ支給されないとなっても困らないために普段から貯蓄をして対策をしていきましょう。