日常生活においてよく見聞きする「名前負け」という言葉。
「あの人は名前負けしている」などのフレーズで使うことがありますが、意味を正確に理解できていますか。
今回は、「名前負け」の正確な意味や使い方を、例文とともにくわしく解説。また、「名前負け」の類語や英語表現などもあわせて紹介しますので、意味をよく理解して言葉を正確に使いこなしましょう。
「名前負け」の意味
「名前負け」とは、「名前が立派すぎて実物が見劣りしてしまっていること」を意味する慣用句です。
名前が不相応に立派すぎることでかえって実物が劣って見えていることで、日常生活でも時々耳にする言葉です。
誤用している人も意外と多い
決して難しい言葉ではない「名前負け」ですが、実はその意味を勘違いしている人も少なくありません。
実際、文化庁が平成27年度に行った「国語に関する世論調査」において、本来の意味ではないニュアンスで使っている人が一定数いることが明らかとなっています。
年代を問わず誤用しやすい言葉ですので、正確な意味や使い方を押さえておいたほうがいいでしょう。
「名前負け」の誤用例
「名前負け」の意味を勘違いしている人は、年代問わずいるようです。ここからは、「名前負け」の代表的な誤用例を紹介していきます。
(1) 「相手の名前に圧倒される」と解釈している
「名前負け」の誤用パターンとしてよく挙げられるのが、「相手の名前に圧倒され気おくれしてしまう」と解釈していることです。
この誤用は特にスポーツ関係者の間に多いといわれており、例えば実力のあるチームや人物と試合をする際に、「相手の方が格上であってもその名前に振り回されないように」という意味合いで使われることがあります。
実際、高校野球の監督が常勝校との対戦において、「相手の学校名に気おくれするな」という意味の間違った使用法で選手たちを鼓舞していた、というエピソードがあります。本来の意味とは異なるため、このような使い方は避けたいものです。
(2) 名前より実物が立派だと考えている
「名前負け」という言葉は前述の通り、実物が名前「に」劣っていることを表します。しかし字面だけを見て、名前「が」実物より劣っていると勘違いしている人もいるようです。
このような解釈でいると、「名前負け」という言葉を正反対の言葉で使うことになり、聞き手を混乱させてしまいます。
「名前の方が実物より優れている」という本来の意味をしっかり理解しておきましょう。
「名前負け」の正しい使い方と例文
実物より名前が立派なことを表現したい時に使う「名前負け」は、人に対してもものに対しても使うことができる慣用句です。
「名前負けしないよう精進します」など、自分に対して謙虚な姿勢や意気込みなどを表現することができます。一方、他人に対して「あの人は名前負けしてるね」というと、皮肉だと受け取られますので注意しましょう。
いくつか例文を紹介しますので、具体的な用法や使用シーンなどを確認してみましょう。
例文
せっかく偉大な師匠の名前を受け継ぎましたので、名前負けしないよう精進いたします。
先代の名前を継いだあの歌舞伎役者は、実力が伴っておらずどう考えても名前負けしている。
「プレミアホテル」という名前だがどこにでもあるような普通のホテルのため、名前負けしていると感じてしまう。
「日本キャニオン」と呼ばれているぐらいだから素晴らしい景色だろうと予想していたが、実際はそこまで迫力がなく名前負けの印象だ。
「名前負け」の類語や対義語
言葉の意味をより深く理解したり使い方のポイントを把握したりするためには、類語や対義語を知ることが非常に効果的です。
ここからは「名前負け」と似た意味の類語や逆の意味となる対義語をいくつか紹介しますので、それぞれの意味や用法を確認しておきましょう。
類語(1) 名ばかり
「名ばかり」は、「形式は整っているものの実際は内容が伴っていないこと」を表す言葉です。
例えば、「名ばかりの管理職」と表現した場合は、「肩書きは管理職であるが、実質的な権限が与えられていないこと」という意味です。
「名前負け」が意味する「実物が名前に劣っていること」とニュアンスが同じのため、類語といえるでしょう。
類語(2) 有名無実
「有名無実」という言葉も、「名ばかりで、それに実績が伴っていないこと」を指します。
立派な名前を持っているもののほとんど活動していない組織や、実質使われていない制度などを表す時に使う言葉で、「名ばかり」とほぼ同じニュアンスで使用できます。
「名前負け」とも根本的な意味が似ているため、文脈や状況によっては言い換えられるケースが多いでしょう。
対義語(1) 名は体を表す
「名は体を表す(なはたいをあらわす)」とは、「名前がそのものの実態をよく表している」ということを意味することわざです。
例えば、「新製品の商品名はまさに、名は体を表すものだ」などと使うことができ、名前がそのもののありさまを表していたり、実質と相応している様子を示したりする時に使われる言葉です。
実物が名前より劣っている「名前負け」とは真逆の意味となるため、覚えておきましょう。
対義語(2) 名に恥じない
「名に恥じない」は、名前が持つ名声を損なっていないさまを表現している言葉です。
名声や評判などに実力が十分伴っている状態を指すため、「名前負け」の対義語だと考えられるでしょう。
例えば、「先代の名に恥じない落語家であることは一目見ただけでわかった」といったような使い方をします。
「名前負け」の英語表現
「名前負け」という表現、英語にはあるのでしょうか。
「名前負け」は日本の慣用句のため全く同じ意味の英語表現はありませんが、「実践する」を意味する「live up to」を否定して「don’t live up to(実践していない)」としたり、「~に値する」を意味する「deserve」を否定して「don’t deserve(値しない)」としたりして、近いニュアンスを表すことができます。
具体的な用法を確認しておきましょう。
例文
I think the new product ABC company launched doesn’t live up to its name.(ABC社が発売した新製品は、名前負けしていると思う)
Our boss doesn’t deserve to be called ‘Head of Planning Department’, because he hardly comes up with interesting ideas in meetings. (部長は会議においてほとんどアイデアを出していないため、「企画部部長」という役職は名前負けしている)
正しい意味や使い方を理解して誤用を避けよう
「名前負け」は「実物より名前が立派である」という意味。「相手の名前に圧倒される」「名前よりも実物のほうが立派だ」などと誤解している人もいますが、その使い方は間違いです。
正しい使い方や類語・英語表現などを理解しておき、どんな場面でも自信を持って「名前負け」を使えるようになりましょう。
参考文献
文化庁「平成 27 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」