みなさんは自分の人生に満足していますか? 自信を持って「満足している!」と答えられる人は、実はそれほど多くないのではないでしょうか。では、人生の満足度はなにによって決まるのでしょう。
その問いに対して、「家こそが人生をつくり、その満足度を左右する」と答えるのは一級建築士の八納啓創さん。「家が人生をつくる」という主張の根拠、そして人生をよりよい方向に導くための方法をあかしてくれました。
■家という空間が、日々の習慣、そして人生をつくる
人生をいちばん大きく左右するものとはなんでしょう? 建築士という職業をしているわたしの答えは、「家」です。
わたしたちの日々の生活は、起床して顔をどのように洗うか、どんなものをどんなタイミングで食べるかといったふうに、そのほとんどすべてが「習慣」によってかたちづくられています。そのような、習慣でかたちづくられる日々の生活の積み重ねが人生です。
では、習慣はどのようにかたちづくられるのでしょうか。たとえば、「帰宅したらすぐにテレビのスイッチを入れる」という習慣ならどうでしょう? 「テレビがついていないと寂しいから」と能動的にテレビを観るケースもあれば、リビングのソファに座ったら手元にリモコンがあるために無意識でテレビのスイッチを入れるケースもあります。
前者は人の意図による行為ですが、後者は、いわば「空間が人に働きかけた」結果による行為です。そう考えると、空間—すなわち、家が習慣をかたちづくる要素として非常に大きいといえます。つまり、家が習慣をつくり、習慣が日々の生活、ひいては人生をつくっているのですから、家こそが人生をつくっているとも考えられます。
揶揄するわけではありませんが、全員がそろって少し肥満気味という家族もいますよね。そういう家族が住む家のリビングテーブルには、まず間違いなくお菓子が入ったかごがつねに置かれています。そのために、先のテレビのリモコンの例と同じように、無意識のうちにお菓子に手が伸びるのです。
■床の散らかり具合は心のバロメーター
もちろん、そのように家がかたちづくる習慣が、人生をよくない方向に導くこともあります。自宅の床にたくさんのものが散らかっている、あるいはトイレが汚れているという人はいませんか? これはよくない傾向です。
わたしの経験上、床の散らかり具合とトイレの汚れ具合は、住む人の心の状態とリンクしており、心のバロメーターだと見ています。精神的な疲労を抱えている人は、ものを片づけたりトイレを綺麗にしたりしようという心の余裕を持てなくなっているのです。
床が散らかってトイレが汚れている人の心は疲れて弱っていますから、そのことに気づいたら、「あ、いまの状態はちょっとまずいぞ」と、本来なら自分をいたわってあげなければなりません。しかし、その意識が欠けていたとしたらどうなるでしょう。
ものが散らかっているデスクでは仕事がはかどらない、スッキリしたデスクなら仕事がはかどるといった話は聞いたことがありますよね。このことも、床の散らかり具合とトイレの汚れ具合が心のバロメーターであることに通じることですが、スッキリと整った部屋では思考もクリアになる一方で、散らかっている部屋では思考が混乱しやすくなります。
すると、あらゆる判断が鈍り、そのことがエスカレートするとさらにものが散らかって汚部屋化することにもなります。もちろん、そうなってしまえばさらに判断が鈍り…と悪循環におちいることになるでしょう。
それどころか、さらに悪い事態も招きます。そういう汚部屋に住んでいるうち、その人は「自分は散らかった汚い部屋に住むのがふさわしい人間だ…」「綺麗な部屋に住む価値などない人間だ…」と、自己価値をぐっと下げてしまうのです。
そこまでいくと、仕事をしても正当な報酬を受け取るという感覚が抜け落ちてしまうことすらあります。「自分はこんな報酬をもらえるような人間ではない…」と思ってしまうわけです。もちろん、ビジネスパーソンとして成果を挙げることを思えば、これは大問題です。それこそ、悪い方向に人生を大きく変えていきます。
■愛情を注げるものだけを残して整理する
そんな事態を避けて、人生をよりよい方向に向かわせるためには、先にも述べた、心のバロメーターである床の散らかり具合とトイレの汚れ具合を意識しておくことは大切です。床が散らかりはじめたりトイレが汚れはじめたりしたことに気づいたら、自分の心が弱っていると認識し、自分をいたわって休みをとることも考えてください。
また、心が弱っていると床が散らかるということがある一方で、散らかっていると思考が混乱して心が弱るということもありますから、余計なものを減らしていくこともポイントになります。
そこで、「自分の家には自分が大好きで愛情を注げるものだけを置き、そうでないものは捨てる」と強く心に決めて、持ち物を整理してみましょう。いまはあらゆるものの価格が下がっている時代ですから、たとえば眼鏡ひとつをとっても、それほど愛着がないにもかかわらず「安いから」という理由だけでいくつも持っている人もいると推測します。
それらは、本当にあなたに必要なものですか? いまはコロナ禍によって在宅時間が増えていますから、持ち物の整理もしやすいタイミングといえます。
また、そのついでに玄関を綺麗に整えてみてはどうでしょうか。これも、人生をよい方向に導くためには大切なことだとわたしは考えます。なぜなら、招いた人を最初に迎える場である玄関は、いわば住む人の外見と同じだといえるからです。たとえば商談の場で初対面の人と会うとき、まず目に入るのは相手の外見ですよね?
もちろん、相手もあなたの外見を見ています。その第一印象次第で、商談がうまくいくこともあればうまくいかない場合もあります。
それと同じことが、玄関にもいえるのです。冒頭で家が人生を左右するといいましたが、人間関係も人生を左右する大きな要素であることは間違いありません。よりよい人間関係を築いて人生を充実させるためにも、持ち物の整理を進めるとともに、ぜひ玄関を綺麗に保つようにもしてください。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子