ソフトバンクは8月4日、2022年3月期第1四半期決算を発表しました。それによれば売上高は全セグメントで増収し、営業利益も1%(31億円)の増益。今期も増収増益を維持しています。登壇した宮川潤一氏は「1年めのスタートとしては、一応、まずまずの結果と思います」と総括しています。
まずまずの第1四半期
コンシューマ事業の売上高に関しては、携帯端末の販売が回復したことで11%の増収がありました。しかしモバイルだけ見ると、通信料の値下げ影響により減収。年間では700億円程度の減収になる見込みです。新料金プランの追加でARPU(1ユーザーあたりの平均的売り上げ)が下がっており、コンシューマ事業の営業利益は3%の減益となっています。
スマートフォンの累計契約者数は、前年同期比で168万件の増加(7%増)でした。ワイモバイルが牽引しています。「ソフトバンクから低料金のワイモバイルに移行するお客様が増えました」と宮川社長。移行はグループ内でとどまっており、他社への流出は抑制できている、との見方も示しています。
料金値下げの減収影響は?
決算発表に続いて、報道陣の質問に宮川社長が回答していきました。
まず、新社長になって初めての第1四半期の手応えについては、「これまで技術の責任者、CTOとして事業に携わってきました。CEOになり、いろんなことを経験しています。今回はコロナ禍での交代でしたので、社内では制約もある。特に社員とのコミュニケーションは、まだWeb上でとっている状態。本当の意味で、社長になった実感が薄いと感じています」と感想を述べます。
料金値下げの減収影響について聞かれると、「第1四半期で100億円ちょっとの影響です。毎年、春は新規のお客様が増える時期ですが、この4~6月の3カ月間で100億円ちょっとの影響があった。第2四半期は150億円をちょっと超えるくらいの計算。それが横ばいになって、今年いっぱい影響が続きそうです。秋口になると、いつもながらのお祭りでiPhoneが出る。そうしたすべてを含んで、今期は700億円の減収と試算しています」と宮川社長。
LINEMOのミニプランについては「思い切り踏み込みました。それまでLINEモバイルという形で、LINEさんに卸したMVNOの形でサービスをやってきた。その流れで、LINEMOもこれに近い料金で続けていました。でも少し流出し始めた。どうしてLINEMOに残っていただけないのか、お客さんにアンケートしたら『3GBしか使わない。もう少し安価なMVNOが良い』という声が多く聞かれました。流出するよりはまし、ということでミニプランとして一歩を踏み込んでみたところ、思いのほかマーケットに受け、他社からの流入にも急に勢いがつきました。
これからも競合他社さんと、色々な料金競争があると思います。これまでソフトバンクはプライスリーダーだと言いながら、最近はどこか守りに入っていた部分もあった。一度、原点に戻って攻め側に回ろう、ということです。今後も他社との競争のなかで、新しいことにチャレンジしていきたい」と話していました。
値下げの影響が大きいのはソフトバンクブランドか、と聞かれると、「まずはARPUの話から始めたいと思います。ソフトバンクは完全定額・大容量のブランドで、中容量がワイモバイル、オンラインに特化したのがLINEMOです。各々、ARPUが違います。一概には説明しづらいところがありますが、価格に敏感なお客様は、ソフトバンクからワイモバイルに移動しています。するとARPUが下がります。LINEMOにも、ソフトバンクブランドから乗り換えている人がいる。トータルで、第1四半期でARPUが100円くらい下がりました。3,000万強のユーザーがいますので、計算ができます。
一方で、いま5G対応端末が出てきました。ユーザーがどんどん増えている状況です。基地局は1万3,000局を少し超えたところ。LTEの基地局は23万局ありますので、その比からすると、5Gの明かりのつくエリアはまだまだ少ない。来春を目標に、人口カバー率90%を目指しています。数にして5万基地局くらい。そこまでいけば、5Gのトラフィックも増加する。だんだんと、ソフトバンクブランドの大容量プランにお客さんも戻ってくると考えています。
5Gは2021年からスタンドアローン化します。これにともない、IoTのデバイスが増えてくる。いま国内のスマホの数は全体で1億7,000万くらい、だいたい日本の人口を超えた規模の普及数なんですが、これをはるかにひと桁超えるIoTのデバイスが急激に入ってきます。これの課金の仕方、ビジネスモデルを間違えなければ、これまでのコンシューマ事業に匹敵する売上規模、産業規模になると考えています」と述べました。
PayPayの展開
宮川社長はプレゼンのなかで、スマホ決済サービス「PayPay」のKPIは決済回数にあり、この四半期におけるPayPayの決済回数は7.9億回を超えたとアナウンスしています。このことついて聞かれると「PayPayを、まずはたくさん使われるアプリにしていきたいんです」と説明。PayPayアプリ経由で金融決済のアプリなどへ誘導し、ゆくゆくはPayPayの経済圏を広げていく考えです。
またプレゼンでは、NAVERと共同出資して、ブロックチェーンを活用した国際QR決済経済圏をつくり、アジアから世界にサービスを拡大していくとも説明しました。これについては「いまQRコードの決済事業として最大手はAlipay(アリペイ)です。また、アジアにはQRコードの決済事業者がたくさんいます。だから例えばPayPayを台湾で展開するか、と言われると色々なハードルがある。そこで外国の決済事業者のサービスを利用している人が、日本のPayPay加盟店でも決済できる仕組みをつくりたい。自国で入金したお金を使って、日本で決済できるわけです。逆に、PayPayユーザーが外国でもQRコード決済できるようにしたい。お互いに共創しあえるような、QRコードの経済圏を全世界に広げていきたい」と説明しました。
リアル店舗の行方は?
リアル店舗とオンライン販売の比率をどうしていくのか聞かれると「お客様の層がまったく違うと感じています。オンラインでできるものはオンラインで、というわけで我々もオンラインを強化していますが、どうしてもリアル店舗で話をしながらサービスに加入したい、端末を変更したい、という声も多い。携帯電話はデジタルですが、使うのはアナログの人間。その視点から、コストはかかりますがリアル店舗の形は維持し続けたいと考えています」と宮川社長。オンラインが増えはするものの、リアル店舗がゼロになる姿は(まだいまは)想像できないと話します。
地方での店舗の維持については「コストがペイできるだけの、つまり費用対効果と言いますか、そこに尽きます。ただ、よく地方創生の一環でデジタル化を進めてほしいという話で、DXのチームが地方に行くんですが、最後の最後、つまづくのはそれを利用するためのインターフェイスになるスマホの普及率が低いことなんです。自治体をデジタル化しても、その恩恵を受けるための市民、村民の方がスマートフォンを持っていない。結局、片側がアナログだと、自治体をデジタル化しても意味がないんです。いま、あらゆるプロジェクトでこの問題にぶつかっています。地方におけるスマートフォン教室が有効なため、地方でも一生懸命にやっていますが、そのなかで出た答えとしては、リアル店舗を残してくれというお話だった」と事例を述べました。
LINEMOの契約者数について聞かれると「非開示ということで会社には言われていますが、ざっくりとだけお話しますと、povoさんの100万と比べると相当少ないです。50万にも満たない状況です。というのも、いまワイモバイルで低料金のサービスを提供しています。低料金を求めるお客さんはいまワイモバイルに流れている。ワイモバイルの契約者数も開示する段階にはありませんが、約700万まで積み上がったところ。ですからLINEMO+ワイモバイルが、他社さんで言うところの低料金ユーザーということになります。7百数十万というお客さんが、LINEMOの低料金に近いゾーンにいるということです」と宮川社長。話しすぎたので、あとで怒られるかもしれません、と苦笑いしていました。
半導体不足の影響については「基地局の建設に影響はありません。これからの心配事は、アップルさん。実はiPadも、欲しい数は入ってきてないんですが、これから苦しいという会見をされていたので、秋口移行のiPhoneの供給が間に合うかどうか、心配しています」と不安を述べました。
また、デジタル庁の発足については「平井大臣の就任以降、いろいろ議論させて頂いています。日本のデジタル化が遅れていることは、僕自身も危惧しているところ。結局、使い手側の方々にスマートフォンがない、デジタルの入り口がないということ。行政のデジタル化、日本人全体の個々のデジタル化、これがセットじゃないと話が進まない。日本は、まだスマートフォンの普及率が低い。我々の努力不足ということですが、なんとか日本全体を盛り上げたい。デジタル庁にも期待しています」と話します。
そのうえで「やりたいことは、立ち遅れている企業自身のデジタル化。これが第1フェーズです。山積みの書類がクラウドにあがり、仕事がデジタル化し、DXがはじまる。新しい産業づくりが始まるということで第2フェーズに移行します。そのあとに見えるものは、デジタルに恩恵を受けた個人ができたことで、生活のデジタル化が起こる。これが日本の目指す姿だと思っています。ソフトバンクとしては、通信の側面から応援する側面があり、また(Zホールディングスを含めて)デジタルを使うことで何が便利になるか提案する側面があります。最後は、都市全体がデジタル化すると、データの連携が必要になる。そこでデータ連携基盤を提供すべく、いまプロジェクトを進めています。今年、どこかでご説明したい」と宮川社長。日本のデジタル化に向けて、お役に立てることはどんどんしていきたいと意欲を示しました。
プラチナバンドの再分配について
プラチナバンドの再分配の議論が出ていることについては「あまり総務省さんとけんかしたくないんですが」と前置きしたうえで、「もともと900MHzをいただく際には、6年がかりだった。ありとあらゆる勉強をさせていただいた。その間、私たちの事業体は2.1GHzだけでやっていたわけです。総務省さんからは『それを使うだけ使ったら、おかわりしに来い』という話だったので、根性論でまず15万局まで立ち上げました。
最終的には18万局まで立ち上げた。結果的に5Gの世界、大量トラフィックの時代になると、当時苦労して立ち上げてきた基地局がトラフィックオフロード局として利用できる。キャパシティがたくさん増えたソフトバンクができたということで、結果的には感謝していますが。今回のプラチナバンドの再分配の議論ですが、我々にもお客様がいる。3キャリアともそうですが、既存の周波数にはお客さんが入っている。その巻き取りに際しては、使っているお客様との会話も必要。ということで、ぜひていねいに行っていただきたいと申し上げています。
そして基地局と言っても、タワーをつくり、無線機を設置して、電波を発射したら終わりということではありません。毎年、ソフトウェアのアップグレードをしている。多いときで年に2~3回。そうしないと、新しいサービスについていけない。コストが数十億円になるケースも多くなってきました。お客様のサービスをより良くするために更新をやっている。再分配によってはそうした更新が滞り、サービスが劣化してしまう危惧もある」と宮川社長。
そして「ただ、我々がいま総務省さんと議論していることもあります。現在は、周波数をキャリアに渡すと、まるで既得権益のように常に更新して使い続けている。そうではなく、次の人たちにもチャンスを与えるべきで、どこかのタイミングで見るべきじゃないかとも思うんです。では、どうやって実現するか。いまテーブルについて議論しているところです」と話したうえで、最後には「プラチナバンドが欲しい方の気持ちはよくわかります。自分たちもそうでしたから。でも、それを使えるようにするため、我々も汗を流してきた。そんな歴史もある。『ないから欲しい』だけでは、ちょっと議論にならないのでは、というのが正直な気持ちです」と語ります。感情をおさえつつも、話したいことは山のように溢れてくる、そんな宮川社長の様子でした。