佐賀県鳥栖市にある久光製薬の「久光製薬ミュージアム」。大きく張り出したガラスカーテンウォールに、落ち着いた雰囲気の石の外壁がマッチする独特な意匠のこの建物は、環境への配慮に基づいたCSR意識を社内外へ発信するシンボル的な存在にもなっている。その特徴は? どのような経緯で建設が始まったのだろうか?

  • 大胆なデザインが目をひく、久光製薬ミュージアム(佐賀県鳥栖市田代大官町408番地)には、のべ5,000名を超える来館者があった(2020年2月時点)

久光製薬ミュージアムとは

久光製薬ミュージアムは、創業170周年記念事業の一環として2019年2月15日に完成した。館内では1847年に創業した同社の歴史や創業者たちの想いに迫る展示が行われている。基本デザインは、イタリアの世界的な彫刻家であるチェッコ・ボナノッテ氏によるものだ。

  • 館内の様子

久光製薬ミュージアムは、省エネルギー/創エネルギーの観点でも特徴的な建物になっている。環境の負荷低減、保全活動など、環境に優しい事業活動を目指している久光製薬では、この久光製薬ミュージアムにおいて佐賀県では初となる建築物省エネルギー性能表示制度の最高ランク「ZEB」(ゼロ・エネルギー・ビルディング)の認証を取得。屋根の断熱強化、空調設備などの省エネ化、各種センサー設置による設備機器の運転制御などにより、高い省エネ率を実現したと同時に、創エネルギーとして太陽光発電を採用、屋根面の太陽光パネルで年間を通じて多くの電力量を確保しているのだ。

久光製薬では「自然環境を生かしつつ、さらにZEBという省エネ性の高い建物を造るということは、社会に貢献し、地球に優しい取り組みを行うという会社としてのCSRの姿勢を発信でき、企業価値も高まる機会になったと思っています」と振り返る。

  • 本社に隣接する、樹木の茂る敷地内に建てられた久光製薬ミュージアム。高効率のソーラーパネルを屋根面に最大限に配置。年間を通して多くの電力量を確保している

いかに課題を克服したか

ZEB化にあたっては、意匠デザインを損なうことなく、いかに省エネ/創エネ性能を高められるかに苦慮したようだ。例えば太陽光パネルは、外観から見えない位置と角度にこだわって設置する必要があった。また大きなガラス素材を使うため、断熱性の側面で課題があった。しかし久光製薬、安井建築設計事務所、五洋建設の3社で意思統一をはかり、課題があれば共有して取り組んだ。その結果、ひとつも妥協なく課題を解決していけたという。

  • 外観デザインに影響しないよう、太陽光パネルは地上から見えない位置に配置されている

太陽光発電パネルでエネルギーを創ると同時に、遮熱と断熱に優れたLow-Eペアガラスを全面に採用し、屋根も断熱を強化。また高効率な空調機を複数台稼働させることで建物全体での運転効率を高くし、LED照明、昼光センサーを取り入れて省エネ性を高めた。

ZEB化によるランニングコスト削減への効果について、安井建築設計事務所では「これだけのガラスを使ったRC建物であれば、かなりの空調代がかかってしまうかも知れないという心配がありましたが、全面にLow-Eガラスを採用したことで、熱負荷を大幅に軽減できました」と説明。

また久光製薬でも「ガラスを多用すれば夏期の冷房使用にかかる電気代は増大することが一般的ですが、ZEB化技術導入により、電気代を抑えることができました。省エネで快適であることを実感しています」と評価する。全館のLED照明化、空調の高効率化など、さまざまな工夫も功を奏しているようだ。

久光製薬ミュージアムの来館者の反応について、同社の担当者は「この建物がZEBだということを必ず紹介するようにしています。お客さまには『どういうところが省エネなんだろう?』と関心を抱かれるかたも多く、皆さん興味津々で見学されています」と明かす。そのうえで「当社の『世界の人々のQOL(Quality Of Life、生活の質)向上を目指す』という経営理念を具現化する取り組みの一環として、社員の教育や研修などにも活用しています」と説明した。

久光製薬ミュージアムは、意匠設計の素晴らしい建物というだけではなく、同社の環境への配慮を具現化した取り組みでもあった。このことを社員に、そして社外に発信していくことは経営層の共通認識になっている。裏付けるように「2020年度 日本建築家協会優秀建築選100作品」「第9回カーボンニュートラル 支部奨励賞」を受賞している。

そんな久光製薬ミュージアムを今後とも、社内外から注目される施設として積極的に活用していく方針だ。久光製薬では「将来にわたって、環境への配慮など弊社のCSR意識を社内外へ発信するシンボル的な存在になるであろうと強く感じています」と説明している。