戦型は相早繰り銀になった

将棋のタイトル戦、第6期叡王戦(主催:株式会社不二家)五番勝負第2局、▲豊島将之叡王-△藤井聡太二冠戦が8月3日に山梨県「常磐ホテル」で行われています。第1局を藤井二冠が勝利して迎えた本局。藤井二冠が連勝でタイトル奪取に王手をかけるのか、それとも豊島叡王がタイにするのか。激戦必至です。


第6期叡王戦五番勝負の勝敗表

第1局は藤井二冠が自陣に大駒を投入する、▲3九角という驚きの手でいったん相手の攻めを受け止めてから、攻め合いに持ち込んで一気に寄せ切るという内容で勝利しました。

第2局は先後を入れ替えて、豊島叡王が先手番。戦型は再び角換わりとなり、ともに早繰り銀を繰り出していく相早繰り銀の形になりました。相早繰り銀は両者が叡王戦と並行して戦っている王位戦七番勝負第2局でも現れた作戦です。

序盤は王位戦とほぼ同じ手順で進んでいきました。先に手を変えたのは後手の藤井二冠。王位戦では△9五歩と端を突き越した手に代えて、△4四歩と突きます。何気ない歩突きですが、この手の真意は数手後に明らかになりました。

豊島叡王が▲5八金と守りを固めたのに対し、藤井二冠は△7五歩と突いて仕掛けていきます。歩交換後に豊島叡王は▲7六歩と銀取りに打って受けますが、そのタイミングで△4五歩!が驚きの一手。銀取りを無視して、自らも銀取りをかけたのです。この手が△4四歩の狙いでした。

この△4五歩は前例のない新手。流石の豊島叡王も予想していなかったのか、長考に入ります。そして30分の考慮の末、穏やかに▲3七銀と撤退する順を選択しました。銀を取り合う順に突入すれば、午前中から大乱戦になるところでした。

相手が銀を引いてきたので、藤井二冠も当たりになっていた銀を逃がします。豊島叡王の銀は3七、藤井二冠の銀は6四におり、単純な比較では藤井二冠の銀の方が前線に進出できていて、好位置にいます。

それでは先手は早くも作戦失敗なのか、というと、そうでもありません。△4五歩は銀を撤退させる役目を果たしましたが、その代わりに相手の攻め駒に近づいてしまっています。その弱点を突いて、豊島叡王は早速▲4六歩と位に反発していきました。

▲4六歩△同歩▲同銀と進むと、先ほど述べた後手の銀の位置による優位はなくなります。素人目には歩切れを解消しつつ、銀を再度4六へと進める先手が得をしているように思えます。藤井二冠の狙いは何なのでしょうか。

藤井二冠は40手目に△4二飛と飛車を転回しました。飛車で銀取りをかけるのが、藤井二冠が描いていた構想でした。銀取りを受けるために先手が▲4七歩と打つと、△4五歩▲3七銀△8二飛と進みます。こうなると、なんと先手が▲4六歩と突く前の局面に戻ってしまうのです。これでは千日手になりかねず、先手としては不満です。

よって、豊島叡王は▲4五歩と打って変化しました。この歩が位として相手を押さえつける駒になれば先手がペースを握り、負担になるようなら後手が優位に立つでしょう。午後の戦いからも目が離せません。

対局開始時の豊島叡王(右)と藤井二冠(提供:日本将棋連盟)
対局開始時の豊島叡王(右)と藤井二冠(提供:日本将棋連盟)