東京オリンピック真っ最中だ。会場でも熱戦が続いているが、テレビオタクとしてはもうひとつの競技会場は、各テレビ局の中継や、ニュースでの"競技解説"になると思っている。

現役を引退した選手たちが今度はレポーターとして、颯爽とテレビに登場。種目によっては生放送を渡り歩く元・選手たちの新しい道。その姿を見て「あ、この人もう引退したんだ……」と、初めて気づくこともある。とはいえ、アナウンサーのように発音や表現に関する鍛錬を重ねてきたわけではない。いきなりのテレビ出演で緊張しているのだろう、たどたどしい部分がある。

それも以前に偉業を成し遂げたアスリートたちの、ご愛嬌かしら……と思っていたら、とんでもないエースが舞い降りてきた。それが元・日本代表の白井健三さんだ。

  • 白井健三
    写真:松尾/アフロスポーツ

「白井先生!」と呼びたくなる明晰な解説ぶり

白井さんのスポーツ解説員デビューは、朝のニュース番組『ZIP!』(日本テレビ系)だった。「あ~、日本メダルを取ったのね……」とボーッとしながらテレビを見ていたら、白井さんの解説の流暢さに目が覚めた。彼の解説は体操のルールを知らない私にも理解できる、わかりやすさがあったのだ。彼の人の良さが滲み出ていて、生放送にもかかわらず堂々としていた。

たまたま隣に並んでいたのも、元アスリートでかなり人気のある選手だった。それが緊張していたのか、若干声が震えていて、奇しくも当日デビューを飾った白井さんの方が落ち着いていた印象だった。

私は体操競技に関しては内村航平選手のビジュアルが猛烈タイプなだけで、ルール詳細は分かっていない。そんな私でも白井さんが現役時代、体操界の不動王だった内村選手を超える記録を作ったことは知っている。

床運動で次々と新技を披露して、自分の苗字である『シライ』を名付けて、技はシリーズ化していた。ひねり技が彼の特技であり、ひねり王子と呼ばれ始めたのも2013年ごろで高校生だったいうのが話題に。このニュースを聞いて斬新だと思っていた。新しい技を生み出したことだけに満足するのではなく、商標登録のようにちゃんと自分の武器として扱う。これにより世界中の体操選手が『シライシリーズ』と披露すれば、そのたびに彼の名前が出ることになる。

すごい宣伝効果だ。『すしざんまい』の木村社長が毎年正月に高額なマグロを購入して(近年はなし)、各メディアにアピールしていたことを思い出す。確かに購入金額はすごいけれど、ニュースで取り上げられる広告効果を考えたら安い。店名はどこまでも知られることになる。同じような現象で『シライシリーズ』は広がっていくのか……と思っていた矢先に事件が起きた。

今年の6月に白井さんが突然の引退発表をしたのだ。

ビジュアルが『シライシリーズ』にもたらしたもの

「他人の子どもの成長は早い」とよく言うけれど、白井さんの名前が世間に知られるようになってからの成長は早すぎた。一瞬のひねり技のようで、とても私たちには追いつかないほど。

彼は猛スピードの成長を経て、東京オリンピックで活躍をするものだと思っていた。ただ裏ではスポーツ選手が向き合わなければならない、ケガと戦っていたのだ。24歳という若さで、表舞台を去ることを決意するとは(勝手に)『シライシリーズ』構築の次に驚いた。でもこういう露出をしていく人は、きっと何かするのだろうと踏んでいたら、キャスターデビューである。

とてもインパクトがあるブランディングだ。その後押しをするのが、あのクッキリとした眉毛と目鼻立ちだ。薄顔大国日本からすると、なかなか貴重な顔立ちで、もし彼が薄顔だったら……話題に上がることは少なかったはず。同ラインにさかなクンや加藤諒さんがいるけれど、皆、やっぱり印象に残る。ひょっとしたら『ZIP!』で、堂々と見えたのも濃顔効果かもしれない。ふと鏡に映る、眉毛のない自分の顔を見て納得をした。

競技では一旦、終了したけれど『シライシリーズ』はまだまだ続く。元日本代表選手のキャスター枠といえば、森末慎二氏や池谷幸雄氏がトップに立っている。ここの枠を抜いて、キャスター界の金メダルを狙って欲しい。

あと数日間のオリンピック。ニュースに彼が登場したら「白井くんだ!」と、薄顔の小粒な目を見開いて注目しています。