「気が置けない」という慣用句を聞いて、あなたはどのような意味を思い浮かべますか? もし、「気を使わなくてはいけない」だと考えるなら、それは誤りです。本来は「遠慮がいらないほど親密な関係」という意味になります。
正反対の意味で理解されてしまうことの多い「気が置けない」。もし間違って使用してしまうと、文章や言葉が全く逆の意味になってしまい、自分の意図が正しく伝わらないことも。
この記事では、「気が置けない」の正しい意味と使い方、類語や英語表現を説明します。この機会に正しい日本語を覚えて、正確に使うようにしましょう。
「気が置けない」の意味
「気が置けない」とは、「遠慮したり、気を使ったりする必要がない」という意味の慣用句です。
「気」とは、「遠慮」や「気遣い」のことを意味しています。つまり、「気が置けない」とは、相手との間に遠慮や気遣いが自然となくなってしまうほどに打ち解けている様子を表します。
ですから、「気が置けない友人」という場合は「互いに遠慮しあうことのない、仲のよい友人」、「気が置けない会議」という場合は「形式張っていない、互いにフランクに話し合える会議」という意味になります。
文化庁の調査では4割以上が誤用
「気が置けない」は本来、遠慮がいらないことを指しますが、文化庁によって行われた「平成24年度 国語に関する世論調査」では、すべての年代において「相手に気配りや遠慮をしなくてはならない」という誤用の意味で使っている人のほうが多いという調査結果になりました。
全年代の平均をみてみると、「気が置けない」を間違った意味で使っている人は47.6%、正しい意味で利用している人は42.7%となっています。多くの人が意味を勘違いしたまま使っているので、使用する際は誤解されないように注意しましょう。
「気が置けない」の使い方と例文
実際にどんな場合に「気が置けない」を使うのか、以下の例文で確認してみましょう。
「気の置けない」「気を置けない」は正しい?
「気が置けない」は、「気の置けない」もしくは「気を置けない」と書かれることもあります。気"の"置けないは気"が"置けないと同様の表現として使えます。しかし気"を"置けないという表現は日本語としておかしくなってしまうため避けましょう。
というのも、「気が置けない・気が置ける」「気の置けない・気の置ける」の「置ける」は、特に目的語を持たない「自動詞」になります。しかし、「気を置けない・気を置ける」といった場合の「置ける」は目的語を持つ「他動詞」となり、文法上の役割が違ってきます。
「気の置けない」という表現は問題ありませんが、「気を置けない」は誤りですので、気をつけましょう。語感も見た目もよく似ているので、間違えないように注意が必要です。
「気が置けない」の例文
- 彼女とは中学時代からずっと一緒で、気が置けない仲である。
- 今回は気が置けないミーティングだから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。
- 隣に住んでいる奥さんは気が置けない話しぶりでとても好感が持てる。
- 気が置けない仲間たちと行くキャンプは最高だ。
「気が置けない」は遠慮をしなくてもいい親密な間柄という意味なので、結婚式など長年つきあっている親友を紹介する場面で使われることが多くなります。ただし、「気が置けない」という表現そのものには長年つきあっているという意味はないため、初対面のフランクな人に対しても使用可能です。
「気が置けない」の類語
「気が置けない」という表現を使うと誤解を招きやすいため、わかりやすい他の語句に置き換えて表現すると伝わりやすくなります。気が置けないと同じ意味の表現について確認しておきましょう。
気心の知れた
「気心」とは人間が元々持っている気質のこと。それがお互いに理解し合えるということから、「互いのことをよく知っており、とても親しい」という意味になります。仲のいい幼なじみや同級生を指して使うことが多いでしょう。
- 結婚する友人のために、気心の知れた仲間たちだけでパーティーを企画する。
気安い
「気安い」も、いい意味で遠慮がなく、気楽な状態や様子を表します。人と物、両方に使用可能です。
- 難しい頼みだったが、彼は気安く請け負ってくれた。
- 勘違いされたら嫌なので、私に気安く話しかけないでもらえませんか?
- はじめてでも入りやすい、気安い店だ。
肝胆相照らす(かんたんあいてらす)
肝とは肝臓のこと、胆とは胆嚢のこと。体の内部にある大切な臓器であることから、転じて、心の奥深くのことを指します。互いに心の奥深くまで打ち明けあい、親しくつきあうという意味です。
- 一晩中、肝胆相照らして語り合った。
懇意
「懇意」も親しくつきあうという意味になります。ビジネス関係の相手やあらたまった場、目上の人に対しても使いやすい表現です。
- こちらの取引先とは、先代の社長の時代から懇意にしていただいている。
- 田中くんとは、高校生の頃から懇意にしている。
「気が置けない」の対義語
気が置けないの対義語についても確認しておきましょう。もし、間違った意味で「気が置けない」が使われていた場合は、以下の表現に直すといいでしょう。
気が置ける
「気が置けない」があるのですから、当然「気が置ける」という表現もあります。「自然に気遣いをしたり、緊張したりしてしまう」ということなので、互いにぎこちなく打ち解けない様子を表しています。
現在では「気が置けない」の意味と誤解されがちなこともあり、あまり見かけることはありませんが、文学作品などで目にすることがあるでしょう。
気兼ねする
「気兼ね」とは、他人に対して気を使ったり、遠慮してしまうこと。
「どうか遠慮しないでください」という意味で、「どうぞ、気兼ねなくおくつろぎください」と使うことも多い表現です。
- 隣の部屋に気兼ねして、テレビの音量を小さくした。
「気が置けない」の英語表現
「気が置けない」を英文で書こうと思って字面通り「carefree」と訳してしまうと、「のんきな・無頓着な」という意味になってしまいます。場面や意味に応じて、類似した表現に言い換えるようにしましょう。
close, friendly など
「気が置けない」を英語で表現する場合、一番簡単な言い換えは「親しい・親密な」という意味の close や、「友好的な・仲がいい」という意味の friendly になります。
会議やお店など、人以外に対して「気が置けない」を使いたいのであれば、casual を利用するようにしましょう。
- I went touring with a close friend. (気の置けない友人とツーリングに出かけた)
- Let's enjoy lunch at a casual shop. (気の置けない店でランチを楽しもう)
open up
「気が置けない話ができる仲」というように、「心をひらく、打ち解ける」に重点を置いて表現したいのであれば「open up」を利用することもできます。
- I can't open up to my teacher. (私は先生に心を開けません)
open one's mind to ~
「心をひらく」という表現には、open one's mind to ~ やopen one's heart to ~ もあります。
- After a long time, Yoshiko finally opened her mind to me. (長い時間をかけ、ついにヨシコは私に心をひらいてくれた=ヨシコと私は気の置けない仲になった)
「気が置けない」は遠慮がいらないことを意味する言葉
「気を許せない」と誤解されてしまうことが多い「気が置けない」という慣用句ですが、本当の意味は「遠慮がいらないほど親しい」ということ。
結婚式や友達の紹介などでは頻出の表現になりますが、間違ってしまうと失礼になるので注意が必要です。「気心の知れた間柄」などとわかりやすく類語表現にすると、聞き手からの誤解も防げます。
ビジネスやプライベートにおいて、気が置けない間柄の人間は貴重な存在。慣用句の意味を覚えて、お互いの間柄を正しく表現しましょう。