コロナ禍を経て、コミュニケーションの在り方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場する中、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、Amazon Web Services(AWS)の日本法人第1号の社員として2009~2016年まで活躍し、現在はパラレルマーケター/エバンジェリストとして活動している小島英揮氏のガレージオフィスを訪問した。これからのコミュニケーションの在り方を聞くとともに、小島氏が都心から離れた場所にガレージオフィスを構えた理由も深掘りしていく。

■【前編はこちら】「ビジネスとプライベートは渾然一体」パラレルマーケター 小島氏に聞くIT×コミュニケーション

  • パラレルマーケター/エバンジェリスト 小島秀揮氏とガレージオフィスの様子

    パラレルマーケター/エバンジェリスト 小島英揮氏とガレージオフィスの様子

これから求められるのは「ゴールイメージの共有」

コロナ禍を経て、ビジネスコミュニケーションの形は大きく変化した。だが、この変化に応じたマネジメントを実行できている組織は決して多くない。小島氏は、これから組織にどのようなマネジメントスキルが求められると考えているのだろうか。

「僕は"ゴールイメージの共有"だと思うんですよね。いま自分たちがどんなゲームをやっていて、何点取るのが勝利条件なのか。あと何分で何点取らないといけないのか、それとも点を取らなくても逃げ切れば勝ちなのか、それをチームと共有しないといけない。相手の作業を見て逐一指示を出すといったマイクロマネジメント的な管理手法はほぼ通用しなくなりますから、状況を共有する力がすごく大事になる気がします」

これまでの日本企業のやり方は、いわば野球型といえる。攻守交代制で、バッターは打順が来るまで、抑えのピッチャーは出番が来るまでやれることがほとんどない。チームに指示を出したければ、監督が選手を呼び、直接伝えればOKだ。

だが、これからの会社にはサッカー型のマネジメントが求められると小島氏は語る。監督はピッチにいる選手に都度サインや指示は出せない。選手はピッチにいる限り役割があり、試合は常に動き続けている。ゴールに至る形、そして勝利条件をチーム全体で共有しなければ、試合に勝つことはできない。

「野球とサッカー以外の例えですと、将棋とRTSでしょうか。ビジネスでは別に『金も銀も飛車も同時に打って、王手!』したって良いわけです。『ターン制なんて誰が決めたの?』っていう。日本企業は、従来やってきた野球や将棋のようなルールが通用すると思い込んでいた節がありますよね。で、もともとすでに通用しなくなっていたんだけど、日本ではその変化があまり見えなかった。それが露呈したのがコロナ禍であるわけです」

小島氏は「コロナ禍で新しくできたものはない、既に兆しのあったものが表舞台に出てきた」と語る。変化の兆しはすでにあったが、アーリーアダプターはとっくに実践済みで、際だった成果を出すのはそういう人だった。これからは、そんな"知る人ぞ知る"だった手法がメインになる。

心がけるべきは「アウトプット・ファースト」

組織においてサッカー型のマネジメントスタイルが求められる中で、若いビジネスパーソンがスキルを身につけていく上では、どのようなことを心がけるべきだろうか。

これに対し小島氏は、「それはもう『アウトプット・ファースト』です。つたなくてもアウトプットして、フィードバックをもらって、またアウトプットする。このフィードバックサイクルを回すことが、コミュニケーションスキルを磨く上でも絶対に良い」と断言する。

「SNSでもブログでも何でも良いのですが、自分の意見を文字にしたりプレゼンしたりして外に出すこと。そうすると考えがシャープにまとまりやすいのです。更に、アウトプットすることで、インプットが来るようになるんですよ、『賛同します』とか『それは違うんじゃないか』『こうしたらもっと良いよ』とか。日本のビジネスパーソンの多くは『アウトプットの前にたくさんインプットしなければ』という強迫観念に捕らわれているように感じます。しかし、それでは永遠に前に進めないのです」

このアウトプット・ファーストを安全に実行できる小島氏おすすめの方法が、コミュニティの活用だ。一番興味のある分野のコミュニティに入り、登壇・講演側に回る、誰かのレビューにコメントする。興味のある内容であればアウトプットがしやすく、またコミュニティの価値を判断しやすいからだ。これによって横の繋がりを作れるようになれば、社外で通用するコミュニケーションスキルも得られるという。

「コミュニティでアウトプットを続けていれば、最終的にはその筋でよく知られた存在になれるんですね。そうすると、今度は向こうから自分を見つけに来てくれます。この記事のインタビューイとして僕が見つけられたのも、僕がアウトプットした情報が重なって『この人なら大丈夫』というフラグが立っていたからですよね。『見つけられる存在になりなさい』なんです」

一方で「ただし、"全員"に見つけられるようになるのは不可能だし、意味がない」とも小島氏は言及する。全員によく思われたい、というぼんやりとした考えではなく、どの筋の人に、どんな人として、どんな目的で見つけられたいかという設定が重要だという。最初はわからないかもしれないが、アウトプットを続けていればだんだんと「自分はどうなりたいか」理解できてくるという。そうすれば、どんなコミュニティに入り、どんなアウトプットするべきかも見えてくる。

  • コミュニティでアウトプットを続け、見つけられる存在になることを目指すよう小島氏はアドバイスを送る

    コミュニティでアウトプットを続け、見つけられる存在になることを目指すよう小島氏はアドバイスを送る

小島氏がこれからやってみたいふたつのこと

リモートワークが前提となり、働く場所は自由になった。だから小島氏も住宅地にガレージオフィスを作って働ける。ここまで話を進めた上で、小島氏は「いくつかやってみたいことがある」と語った。

ひとつ目は、"オンラインが前提になったからこそ、オフラインでしかできない体験を増やしていきたい"という内容だ。

「例えば京都に一週間くらいずっとステイして、もちろん仕事はするんだけれど、京都ならではの食事を楽しんだり、関西の友達と会ったり、その季節にしか見られないものを見たりするんです。これまでの働き方では細切れの休みしか取れませんでしたから、『暮らすように滞在する』のは難しかった。でも、いまはそれがやりやすくなりました。以前はできなかったオフライン体験ですよね。そうすれば新たな視点も見つけやすいんじゃないかな」

ふたつ目は、"もっと多くのビジネスと関わりたい"という内容。小島氏はITのBtoBを出自としており、小島氏を見つける人もやはりそういった分野を知る人が多い。

しかし、オンラインが前提となり、BtoCや行政といった別の業種からのアクセスが増えているという。対面が前提だった以前はそのような相手に会ったり、場所に行ったりするのは難しかったが、オンラインであれば自分も相手も時間が作りやすい。「この歳になってビジネスの可動域が広がりそうな予感があります」と小島氏は話す。

小島氏がガレージオフィスを作った理由

このようにビジネスコミュニケーションが大きく変化する中で、小島氏は東急田園都市線あざみ野駅近くの事業物件を改装し、ガレージオフィスとした。そのトリガーこそコロナ禍ではあるものの、十分な素地があったうえで必然的に作ったものだという。

「ガレージオフィスを作った理由にはふたつの流れがありました。ひとつは僕自身のガレージライフの憧れ。でも、家族がいたら個人の主義主張は薄まるというか、折り合いを付けないといけないから、自宅で勝手はできませんよね。もうひとつは、以前から自分のオフィス自体は持ちたいと思っていたこと。しかし、仕事の中心が都心だとオフィスも都心に持たないといけないわけで、コストが現実的じゃなかったんですよ。このガレージへの憧れと、自分のオフィスを持ちたいという気持ちが、コロナ禍で急に現実解として融合したんです」

  • 憧れたガレージライフと自分のオフィスへの思いがひとつになったガレージオフィス

    憧れたガレージライフと自分のオフィスへの思いがひとつになったガレージオフィス

  • 気持ちよく集まれる場を目指したガレージオフィスには小島氏の好きなものが詰め込まれている

    気持ちよく集まれる場を目指したガレージオフィスには小島氏の好きなものが詰め込まれている

コロナ禍でビジネスの中心がオンラインになり、自宅で仕事をすることが増えた小島氏。だが、多くのビジネスパーソン同様、小島氏の自宅も仕事をするようにデザインされているわけではない。子供の個室はあっても自分の書斎はなく、リビングか寝室で仕事をしていたという。家族からの求めもあり、オフィスの必要性はより増すことになったわけだ。

とはいえ、目的はあくまで在宅勤務の代替なので、都心ではなく近場でないと意味がない。そこで目を付けたのが地元の商店街だ。現在、古くから残る日本の商店街は少なからずシャッター街になっており、ちらほらと空き物件もある。このような事業物件を改装し、小島氏は「欲しかったガレージライフ」と「いま必要な仕事場」を手に入れた。家主からすれば、食品を扱わない、火も使わないという優良な借主であるわけで、Win-Winだ。

「この先、みなさんそれぞれが仕事場を持つことになると思います。家に作るか、家の近くに持つかはさまざまですが、いままで住んでいた家で仕事をし続ける人はあんまりいないんじゃないでしょうか。これまで以上に職住近接の働き場が求められる中で、ガレージオフィスはひとつの解決の形=ロールモデルだと思います。これを見て近いアプローチをする人が出てくると思いますし、出てきて欲しいというのが期待値ですね。『あ、こういう風にやっていいんだ!!』と感じて実行する人が増えれば、新しいロールモデルが生まれ、働き方もどんどん変わっていくと思います」

■【前編はこちら】「ビジネスとプライベートは渾然一体」パラレルマーケター 小島氏に聞くIT×コミュニケーション