ファーウェイ・ジャパンから、10.95型タブレット端末「MatePad 11」が発売されました。日本における「HarmonyOS」搭載デバイスの第1弾となります。本体カラーは日本向けにはアイスブルーの1色展開、価格は54,780円です。
HarmonyOSはファーウェイが独自に開発したモバイルOSで、スマートフォンやタブレットを中心に、パソコンやIoT家電と幅広く連携できるという特長があります。先行して展開している中国では、スマートウォッチやスマートディスプレイから、スマート冷蔵庫やスマートジューサー(!)まで幅広い製品が発表されています。
ただし日本ではいまのところ、HarmonyOSに対応するスマート家電は登場していません。当面はスマートウォッチ「HUAWEI Watch」シリーズや完全ワイヤレスイヤホン「HUAWEI Freebuds」シリーズなど、ファーウェイ製品同士の連携でHarmonyOSを体験する状況が続くことでしょう。
Androidとどう違う?
では、「HarmonyOS 2」を搭載したMatePad 11は、Android OSのタブレットと操作性や使い勝手にどれほどの違いがあるのでしょうか。結論からいうと、現時点のHarmonyOSはAndroidと「ほぼ同じもの」と解釈しても差し支えありません。
Google PlayからアプリをダウンロードできるAndroidタブレットは、「Google Mobile Service(GMS)」というGoogleのコアサービスが動作しています。GMSはいわば縁の下の力持ちで、たとえばアプリからプッシュ通知を送るときや、アプリ内での地図表示が必要なときにも動作します。
一方、HarmonyOSはGMSを搭載せず、代わりに「HUAWEI Mobile Service(HMS)」というコアサービスが動いています。ファーウェイ公式アプリストア「AppGallery」で配信されているアプリは、通知や地図表示なども含めてHMS上で動作します。MatePad 11をはじめ、HarmonyOS搭載デバイスではGoogle PlayやGoogle製アプリは使えません。
マルチウィンドウが便利
HarmonyOSは、一般的なAndroid OSの使い勝手をファーウェイ独自にカスタマイズした独自機能も含んでいます。MatePad 11をはじめとしてタブレット端末では、マルチウィンドウ機能が大きくカスタマイズされています。
たとえば、通常の2分割表示に加えて、スマホ型のウィンドウ形式で2つのアプリを表示可能。タブレットの画面に開いているアプリの上に重ねて表示することで、3つのアプリを同時に展開できます。
ファーウェイ製品のスマートフォンやWindows PCとの間でスムーズに連携できるのも、HarmonyOSの特徴です。スマートフォン「P40 Pro」の画面をそのままMatePad 11上に表示したり、スマホ宛のメッセージ通知を確認したりできます。Windows PCのMatebookシリーズにワイヤレス接続して、MatePad 11をPCのサブディスプレイとして使う機能もあります。
日本向けに投入されているHarmonyOS対応製品は限られていますが、ファーウェイのお膝元である中国では、スマート冷蔵庫やスマート掃除機、スマートジューサーなど、多彩な機器にHarmonyOSが採用されています。HarmonyOS対応のスマートフォンやタブレットは、そうしたスマート機器をコントロールする母艦として、簡単に接続・連携する機能も備えています。
薄型・高性能タブレットとしては割安なMatePad 11
では、MatePad 11のタブレットとしての機能や性能をざっくりと見ていきましょう。MatePad 11はファーウェイが2021年6月にグローバル向け(おもに中国とヨーロッパ向け)に発表した製品です。グローバル向けには同時に上位モデルのMatePad 11 Proも発表されています。
ディスプレイは10.96インチのIPS液晶です。解像度が2,560×1,600ドットと高く、スタイラスペン「M-Pencil 2」による描画をサポートします。120Hzのリフレッシュレートに対応し、Webサイトなどのスクロールもなめらかです。
有機ELディスプレイを搭載するスマホと比べると、120Hz表示にしたときの最大輝度はやや低い印象も受けますが、室内で使う分には十分な見栄えのディスプレイといえるでしょう。
オーディオは4基のスピーカーを内蔵し、オーディオブランドのHarmon Kardonが音響を監修しています。小柄なタブレットながらクリアで立体的なサラウンドを奏でるため、映画を鑑賞する場合は内蔵スピーカーだけでも見ごたえのある音響で楽しめます。
MatePad 11はLTEなどのモバイル通信には対応せず、Wi-Fiのみをサポート。Wi-Fi 6(IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax)準拠です。
チップセット(SoC)はファーウェイ自社設計のKirinシリーズではなく、クアルコム製のSnapdragon 865という、1世代前の最上位チップセットを採用。内蔵メモリは6GB、内蔵ストレージは128GBで、最大1TBのmicroSDカードが使えます。
カメラは背面が1,300万画素、インカメラが約800万画素です。バッテリー容量は約7,250mAh、本体サイズは約幅254×高さ165×厚さ7.25mm、重さは約485gとなっています。
別売のアクセサリーとして、タブレットに装着してワイヤレス充電できる「HUAWEIスマートキーボード」と、文字やイラストの筆記に使える「HUAWEI M-Pencil 2」が用意されます。
ファーウェイの直販価格はタブレット単体で54,780円。高性能で薄型のAndroidタブレットの新機種がほとんど市場に出回らない中では、割安感のある価格帯といえるでしょう。
「Google Playがない問題」は解決法もある
HarmonyOSは、建前としてはGoogleが提供するAndroidとは別のOSです。しかし実際には、Androidと共通する部分が多く、現状のHarmonyOSは実態としてはAndroidの派生OSといえます。日本でHarmonyOSを使うとなると、公式アプリストア「HUAWEI AppGallery」の品ぞろえの薄さがネックとなりそうですが、これには抜け道もあります。
HarmonyOSはAndroidアプリの実行ファイル(.apk)ファイルを実行できるため、Google Play以外のストアからアプリを導入する「サイドロード」が可能です。たとえば、AmazonはAndroidアプリストア「Amazonアプリストア」を運営しています。おもにAmazonのFireタブレット向けストアですが、一般的なAndroidスマホ・タブレットにアプリをインストールすることもできます。
MatePad 11でAmazonアプリストアを導入してみたところ、「互換性のない可能性がある」という表示が出たものの、ストアアプリ自体のインストールで問題は発生せず、ストア上のアプリも多くをインストールできました。
Amazon アプリストアにはプライム・ビデオやKindleといったAmazon製アプリのほか、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSアプリ、日経電子版やNHKラジオ らじる★らじるのような情報配信系のアプリも並んでいます。筆者が検証した範囲では、これらは問題なくMatePad 11で動作しました。また、WebブラウザーのFirefox for MobileやChromiumのように、公式Webサイトでアプリを公開している例もあります。
Google製のアプリやNetflixは使えない
HarmonyOSには、GmailやGoogleマップなどGoogle系のサービス、アプリはプリインストールされていません。さらに、ファーウェイ標準のブラウザーアプリではGoogleアカウントのログインを拒否され、Gmailなどを使うこともできません。ただし、FirefoxやChromeからはGoogleにログインできるため、回避できなくはないという状況です。
動画配信サイトの場合、HUAWEI AppGalleryやAmazon アプリストアで入手できないサービスでも、多くはWebサイト上で再生が可能でした。ただし、Netflixは正規版のアプリを導入する手段が存在せず、Webブラウザー上での再生も不可能な状況でした。
野良アプリ公認? 衝撃の「Petal検索」
ツール系のアプリについては、ファーウェイ自身が開発しているものも多く存在します。メール、メモ帳、天気、時計、音声レコーダーなどは標準搭載されているアプリでこと足りるというユーザーも多いでしょう。
地図アプリは「Petalマップ」というファーウェイ独自のアプリがあります。住宅地図は詳しく、物件情報も十分なボリュームがあり、実用的なものに見えます。PetalマップではTomTomが地図サービスを提供しており、クレジット表記によると、日本においては昭文社やゼンリン、国土地理院などの情報も活用されているようです。
ファーウェイ独自のアプリで異色の存在が「Petal検索」アプリ。Web検索やニュース、画像の検索といった検索機能を盛り込んだアプリです。Web検索は日本ではBingの検索結果が表示されます。
検索アプリとしては珍しくもありませんが、興味深いのはPetal検索の「アプリ検索」機能です。アプリ検索では、HUAWEI AppGalleryのアプリ以外にも、APKPureやUptodownといった代替アプリストアを串刺し検索して、アプリをインストールする機能があります。
これらのストアで配信されるアプリは俗に「野良アプリ」とも呼ばれ、多くは公式な開発者ではなく、有志がアップロードしたアプリの実行ファイルを再配布する形式を取っています。Petal検索の結果にはGoogle Playのみで配信されているアプリも多く並びますが、違法に再配信されている可能性や、製作者の意図しない改造が施されている可能性もあります。マルウェアが仕込まれていても不思議ではありません。よって、Petal検索からのこうしたアプリのインストールは避けたほうが無難です。
万人向けではないけれど……
HUAWEI MatePad 11はAndroid(系のOS)を搭載するタブレットとしては高性能で、機能面でも充実している印象です。54,780円という価格は、なめらか表示のディスプレイや狭額ベゼルデザインの良さを考えれば妥当でしょう。
一方で、HUAWEI AppGalleryでダウンロードできるアプリは、当初と比べてだいぶ充実したのは事実とはいえ、日本で実用的に使うにはまだまだ足りていません。ある程度は補完できますが、少なくとも万人向けのタブレットではないことは確かです。また、代替アプリストアには著作権やセキュリティの面で不安があり、各ユーザーが自己責任で利用するならともかく、Petal検索には課題が残ります。
根本はGoogle系サービスが使えないことが問題で、仮にGoogle Playが再び正式に利用できるようになれば、ほとんどは解決されるでしょう。Google系サービスに対応しない背景には、ファーウェイ自身が米国政府からの制裁を受けており、その影響でGoogleとの取り引きを禁じられたということがあります。この問題がどう推移するかは米中間の政治的な動向にも大いに左右されるため、成り行きを見守るしかありません。
MatePad 11が搭載するHarmonyOSは、建前としてはAndroidとは別のモバイルOSですが、実際にはAndroidとほぼ完全な互換性を有しており、Android向けアプリを導入するための抜け道も存在している状況です。今後Googleとの取り引きが再開するなら、ファーウェイはおそらくすぐにGoogle Playストアを復活させるでしょうし、少なくともそうできる体制を整えていることは製品からも見て取れます。状況の改善が見通せない現状では、MatePad 11は「分かっている人向けのタブレット」と考えたほうがよいでしょう。もちろん「分かっている人」にとっては、高性能で機能も十分、コストパフォーマンス的にも納得できるタブレットです。