ヤマハ発動機が7月19日、「環境技術説明会」を実施。同社が今後取り組んでいく環境への対策や、モビリティの開発について説明が行われた。

環境技術開発を加速させるためファンドを設立

説明会には、日髙祥博代表取締役社長、取締役上席執行役員で技術・研究本部長の丸山平二氏が登壇した。

  • ヤマハ発動機の日髙祥博代表取締役社長

パリ協定におけるGHG(温室効果ガス)排出量の削減に向けた努力目標に対し、各国がそれぞれに目標値を掲げている。日本は2030年に2013年比で46%の削減、2050年にカーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)を目標としており、非常に高い目標設定となっている。日髙社長は、「実現に向けた取り組みは、さらなる成長機会であるとともに、サバイバルとなりうる大きな課題と認識」と話した。

2018年に発表した同社の長期ビジョンでは、「ART for Human Possibilities 人はもっと幸せになれる」というテーマのもと、モビリティやロボティクス技術を掛け合わせたソリューションを創出し、人間の可能性を広げていきたいと掲げている。ビジネスモデルの持続性に直結する課題として「環境・資源」「交通・教育・産業」を挙げ、基盤強化に関わる重要課題としては「イノベーション」と「人材活用推進」を挙げた。

その中でも環境に関する課題は「モビリティ事業のサステナブルな成長にかかわる重要課題」とし、2019年にはTCFD提言(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同、さまざまな情報開示も実施している。

このたび発表した環境計画では、2018年に策定したものを見直し、新たな目標値を設定した。同社ではライフサイクルCO2排出量でカーボンニュートラルを実現することを中長期目標としている。排出量の内訳では「スコープ1・2(企業活動における自社の排出)」が1.8%、「スコープ3(輸送、製品使用などそれ以外)」が98.2%となっている。スコープ3の中でも大きなウェイトを占めているのは「製品使用時」の82.7%で、そのうち、製品別では「二輪車」が65%、「マリンエンジン」が19%だという。

  • 新たな目標値として「スコープ1・2(企業活動における自社の排出)」は2030年までに半減、2050年までに86%削減、「スコープ3(輸送、製品使用などそれ以外)」は2030年までに24%削減、2050年までに90%削減を目指す

これを受け、新たな目標値として2010年を基準年として「スコープ1・2」は2030年までに半減、2050年までに86%削減を目指す。「スコープ3」については、2030年までに24%削減、2050年までに90%削減を目指すとした。削減しきれない分については、国際的に認められた方法でのオフセットを実施し、2050年にカーボンニュートラルを実現する。

同社では二輪車販売のうち、85%がアジア地域での販売となっている。小型で安価なモビリティを提供することは、生活圏の拡大や職業、教育機会の拡大に直結するため、SDGsの観点からも重要なミッションであると考えているという。その一方で、気候変動の課題も急務だ。より燃費効率の高い製品の開発、EVモデルの普及、カーボンニュートラル燃料に対するパワートレインの開発などに尽力し、相反するこの2つの課題を解決していきたいとした。

このような環境技術開発を加速させるため、環境資源分野に特化した自社ファンドをアメリカ・シリコンバレーに設立する。運用期間は15年、総額1億ドル規模の事業を想定しており、取り組むべき領域に注力しながら、ネガティブカーボンの獲得につながる新規事業の構築を目指していく。

2050年に90%を電動化、CO2削減への取り組み

同社は1955年の創立以来、二輪車を中心にさまざまな小型モビリティを生み出してきた。小型モビリティは四輪乗用車と比較して、環境負荷の小さな移動手段のひとつ。製品ライフサイクルにおけるCO2排出量は、四輪車に比べ二輪車のほうがICE(内燃エンジン車)では70%、EV(電気自動車)では75%も排出量が少なくなっている。

  • ヤマハ発動機らしい環境に優しい小型モビリティを開発

電動アシスト自転車は1993年に同社が世界で初めて開発し、その後も量産型二輪自動車、燃料電池車、交換型バッテリーEVなど、環境負荷が低い小型モビリティを開発し続けている。また二輪車のほか、ドローンや電動車いす、ゴルフカーなど、幅広い領域に技術を広げている。中でも、電動アシスト自転車は、日本のみならずグローバルに利用が広がっており、2030年での日米欧における総需要は現在の3倍となる1,500万台を超える規模にまで需要が拡大すると見込んでいる。

そして、小型モビリティは、車両の専有面積が小さいことも特徴の一つ。同社が描く近未来像は、四輪車とともにさまざまな小型モビリティがそれぞれの速度域で、安全かつ楽しく移動ができるものとイメージしている。

基本方針としては、移動にともなう1人あたりのCO2排出量のさらなる低減を目指しており、大きく2つの方法を検討している。ひとつは、新たな小型モビリティを生み出していくというもの。具体的には、四輪車と二輪車の中間に位置する小型モビリティ、二輪車と電動アシスト自転車の間に位置するような小型モビリティの開発を検討しているという。

そして、もうひとつの方法は、モビリティの動力源をより環境負荷の少ないものにスイッチしていくというもの。具体的には、二輪車やマリン製品で、バッテリーEV、FCV、カーボンフリー合成燃料を活用することが検討されている。

加えて、内燃機関の熱効率や駆動効率の向上にも粘り強く取り組んでいく。これは、SDGsの観点からも同社が取り組むべき課題と捉えている。これまでも、4ストローク化やフューエル・インジェクション化、ブルーコアエンジン開発など、得意とする小型エンジンの分野で燃費向上や環境対応を進めてきた。今後しばらく求められる内燃機関のため、そして将来のカーボンフリー液体燃料の普及に備えるためにも、高効率エンジンの開発を実直に進めていく。

今後の見通しとしては、2030年頃より電動化の普及、合成液体燃料の普及を加速させ、2050年には二輪車で90%を電動化、船外機では燃料電池技術の活用も想定しているという。

新領域をカバーする新モビリティを開発

四輪車と二輪車の中間にあたる新領域の電動小型モビリティ「MV‐VISION」は、人の感性に寄り添える、人と街を調和させることのできるモビリティ。二輪車と四輪車のいいところや楽しさをあわせ持つ新提案となっている。車体には簡易なキャビンを持ち、自動制御で自立、なおかつ二輪車のように車体を傾斜して旋回することが可能だ。

  • 四輪車と二輪車の中間にあたる電動小型モビリティ「MV‐VISION」

そして、二輪車と電動アシスト自転車の中間に位置するモビリティ「TORITOWN」は立ち乗りのスタイル。ラストワンマイルを安全かつ楽しい移動時間に、というコンセプトを形にしたもので、乗り手がバランスを取ることで軽快に走り回り、容易に自立することができるという。

  • 二輪車と電動アシスト自転車の中間に位置するモビリティ「TORITOWN」

このほか、免許返納後の移動手段としての活用など、外出機会を増やし心身の健康増進といった暮らしの広がりを探求した「NeEMO」、将来の自動運転を視野に、人と人とがつながるモビリティとしてデザインされている「Slow Mobility」など、さまざまな新領域への開拓が示された。各地で実証実験なども進められている。

  • 暮らしの広がりを探求した「NeEMO」、人と人とがつながるモビリティとしてデザインされている「Slow Mobility」

動力源での取り組みでは、既存のモビリティでの移動に伴うCO2をパワートレインを使って削減していく試みを進めている。「E01」は125㏄相当の次世代電動コミューターで、高い機動性をもつバッテリーEVのプラットフォーム。「E02」は50㏄相当として開発されている。

  • 「E01」は125㏄相当、「E02」は50㏄相当の次世代電動コミューター

「E01」には、高剛性・クレードルフレーム、高出力・大容量リチウムイオンバッテリーが採用され、60分で90%の充電が可能。高回転型モーターにより、リニアな加速感と上質な走りを実現した。

  • 「E01」

  • 「E01」

「E02」では48V着脱式バッテリーの採用を前提にデザインされており、着脱を容易にするレイアウトの工夫が施されている。パワーユニットには、静かでスムーズな加速感を実現するダイレクト駆動方式のインホイールモーターを採用。リアアームと統合し、これまでにないコンパクトなレイアウトとなっている。

  • 「E02」

  • 「E02」

丸山氏は、「乗り物は、移動を便利にするだけの道具ではなく、元来、楽しさを与えてくれるパートナー。カーボンニュートラルの実現を目指していく上で、環境にやさしく、より安全で、より楽しいソリューションを創出していく営みはポジティブなチャレンジ」とし、今後の開発に期待してほしいと締めくくった。