23歳にして、すでに10年以上にわたってさまざまなジャンルの作品で印象を残している俳優・中川大志が、片野ゆか氏のノンフィクション小説を原案に映画化した『犬部!』に出演。林遣都扮する“大の犬好き”を自認する獣医学部の学生・花井颯太の親友となる、動物愛護サークル「犬部」を立ち上げる同級生の柴崎涼介を演じている。
2010年に発売され、獣医学部の学生たちが動物愛護活動に奔走する様を綴った原案小説に対し、映画版では実際に獣医師となった主人公たちの姿を描き、動物愛護活動における現在の日本のリアルを伝える。
動物映画としても、人間ドラマとしても引き付ける本作で、中川が柴崎を演じて感じたことや、「本当に尊敬している役者さんです」と語る林遣都との共演について聞いた。
■実情を伝えるうえですごく大事な役だと思った
――動物ものは撮影が大変なイメージがありますが、オファーを受けたときの気持ちは?
もちろん大変だとは、ある程度想像していました。でも動物とここまでがっつりお芝居した経験はなかったので、まず「すごく楽しみだな、やりたいな」と思いました。動物は頭がよくてちゃんと人を見ているので、ごまかしが利かないですよね。僕らは役として芝居をしていますが、動物たちと嘘なくしっかり向き合って、心を通わせないと、作品として伝わらないと思ったので、そこは大事にしたいと思いましたし、お芝居していて楽しかったです。
――原案小説や漫画版と比べて、映画版が一番大人向けな印象を受けました。
動物たちの歴史や、ペットとしてのシステム、保健所……今は動物愛護センターと言いますが、そうしたものがどう変わってきたのか、僕自身、知らないことがたくさんありました。僕も犬を飼っていますが、ちょっと目を背けたくなるような話にも、この作品に出演するうえでは向き合わなければいけなかったので、つらいところもありました。しかも僕の演じた柴崎という役は、この映画のなかでも、そうした社会的なメッセージや実情を伝えるうえですごく大事なところを担っている役です。そうしたことを少しでも多くの人に知ってもらえるきっかけになったらいいなと思いましたし、そのことも、この作品をやりたいと感じた大きな理由のひとつでした。
――確かに“きっかけ”になりうる作品ですね。柴崎を演じるうえで特に心がけたことを教えてください。
柴崎は、物事を広く捉えられる人間だと思います。物事がどう成り立っているのか、社会の現状を含めて。一方、遣都さんが演じている花井颯太は、どちらかというと感情で突き進んでいくタイプなので対照的です。柴崎には「殺処分を少しでも減らしたい、センターを少しでも変えたい」という志があって、それを達成するために何をしなければならないのか、何が一番の近道なのかを考えて分かっている男。だからこそ誰よりもつらさも感じることにもなる。でも「誰かがやらないといけない、そこから逃げても何も変わらない、自分がやらなければ」という志が、10代の頃から見えている。しかもそれを行動に移せるというのは、とてつもないエネルギーを要することですよね。それがどこから来るのかといったら、動物への愛でしかない。
――とても難しい役柄だったかと。
そうですね。口で言うだけなら誰でもできるけれど、柴崎は本当によく考えていて、先まで見据えて行動している。実際、柴崎の言う通りなんですよね。でもそんな男が現実に直面していくなかで、心身が侵されていく。そこのドラマはしっかりと描かないといけないと思いました。
■大きな刺激を受けた林遣都との共演
――さきほど、柴崎の愛犬・太郎を演じた“きぃちゃん”と再会して楽しそうにされていました。
撮影期間中、カメラの前だけで、「何年も連れ添ってきた相方の犬です」と言っても無理があるので、相方として認めてもらうというか、距離が縮まるように、一緒に過ごす時間を少しでも多く取るようにしていました。
――具体的にはどんなことを?
青森での撮影だったのですが、動物たちがトレーナーさんたちと一緒に滞在していた場所があって、そこに日々の撮影が終わってから、遣都さんと一緒にお邪魔して、お散歩に行かせてもらったり、お世話のお手伝いをさせてもらっていました。そうやってちょっとずつ距離を縮めていきました。きぃは本当に頭がいいんです。僕が合図をしても芸をしてくれるし。でも、久々に会ったんですけど、覚えてないんじゃないかな。
――そうですか? 写真撮影の際も仲良さそうでしたよ。
どうなんだろう。覚えてるのかな?(笑)
――林さんとは、二人きりで話をすることも多かったそうですね。
この映画が、何年間にもわたる物語なので、台本には描かれていない空白の時間をふたりで話し合いました。この間になにがあって、どういうタイミングでここになっているのか。お互いの考えていることを共有して、篠原(哲雄)監督に提出してやっていました。その時間もすごく楽しかったです。
――林さんと時間を過ごされて、どんな方だと感じましたか?
作品への向き合い方、自分が任されているキャラクターや役割に対する向き合い方といったものが、本当に丁寧で、本当に真摯なんです。その姿勢は、一番そばで見ていてすごく感じました。でも力は入っていないというか、現場でもカメラの前でもすごく自然体。しっかりした準備をしているからこそ、カメラの前ではキャラクターを見せようと意識せずとも、自然体でそこにいられるのだと思いました。いい空気を作ってくださるので、周りも変に力まずにいられました。一緒にお芝居のことや役の話をしている時間、僕はすごく刺激をもらいましたし、本当に尊敬している役者さんです。
――少し前に別の作品で中川さんにお話を聞いた際にも、たくさん準備をしたうえで、現場ではそれらをすべて捨てて挑めるように心がけていると言っていました。林さんもそうなのかもしれませんね。
花井颯太というキャラクターは、クセが強いというか、色の強いキャラクターだと思うんです。でも、映像で見たときに、すごく遣都さんとフィットしていて、本当にナチュラルで無理がありませんでした。一瞬一瞬、すべてが颯太として成立しているんです。映画を観て、僕はそこにすごく感動しました。現場でも感じていた部分でしたが、映像として、細かいところにもそれが残されているのを、すごく感じました。
■愛犬の前で急に倒れる芝居をしたら…
――以前、中川さんがご自身の飼っているフレンチブルドッグのワンちゃんのお話をしていて、とてもかわいがっているのが伝わってきました。ワンちゃんと自分の心が通じてるとか、「オレのこと分かってるわぁ」と思った瞬間はありますか?
分かってないんじゃないですか?(笑)。僕が急に倒れたりしたら助けにくるかなとか、急に泣いたり落ち込んでいたりしたら寄ってきてくれるかなと思って、たまに演技したりするんですけど、いびきをかいて寝ていました(笑)。
――それは、ひょっとしてウソだとばれてしまっているのでは……。
僕の演技がウソだとばれているのか(笑)。そうかも。そこまで分かられているのかもしれないですね。でも何も気づいていないだけだとしても、そのマイペースなところが見ていて飽きないし、そこがかわいいです。自由に生きているなぁって。でも、芸はしてくれるんです。お手とおかわりが出来ます。教えました。とてもかわいいです。
■中川大志
1998年6月14日生まれ、東京都出身。2009年にデビューし、10年の『半次郎』で映画初出演。11年に放送された大ヒットドラマ『家政婦のミタ』で一家の長男を演じて一気に注目を集めた。さまざまなジャンルの作品、役柄に挑戦しており、コントバラエティ番組『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』ではコメディのセンスも発揮している。近年の主な出演作は映画『坂道のアポロン』『覚悟はいいかそこの女子。』(18年)、『砕け散るところを見せてあげる』(21年)、大河ドラマ『真田丸』(16年)、ドラマ『G線上のあなたと私』(19年)、『親バカ青春白書』(20年)など。現在、主演ドラマ『ボクの殺意が恋をした』が放送中。
(C)2021『犬部!』製作委員会