ヤマハ発動機の新型「MT-09」は、徹底的な軽量化によりトルクフルでアジャイルな走りを獲得した爽快なバイクだ。その軽やかな走りを支える技術は盛りだくさんだが、今回は足元に輝く新開発の「スピンフォージドホイール」に注目したい。どんな技術を盛り込み、何を目指したホイールなのか。プロジェクトリーダーの末永健太郎氏に話を聞いた。
最小肉厚2mm! 世界最軽量級への挑戦
ヤマハの「MT-09」は、「More Torque & Agile」をコンセプトに掲げる新型バイク。その実現に向け、ヤマハがこだわったのが軽量化だ。新型「MT-09」は車両全体で約4キロの軽量化を達成し、車両重量を600ccクラス並みの189キロに抑えている。
軽量化成功の要因としてはエンジンやフレームの見直しなど複数の項目が挙げられるが、注目したいのは新技術を採用したキャストホイールだ。「ヤマハ スピンフォージドホイール」と名付けられた新ホイールは、従来モデルのキャストホイールに比べ、前後で計700グラムの軽量化を達成。慣性モーメントは11%低くなっているという。
新しいホイールの開発にあたり、ヤマハは何を目指したのか。「開発にあたっては最小肉厚2mm、慣性モーメント10%低減という目標を設定し、必要な材料特性も設計しました。安全性を担保するために強度を確保した上で、どこまで薄く、軽くできるかがポイントでした」と末永氏は振り返る。
キャストホイールはハブ、スポーク、リムで構成されるが、車重を受けるハブは剛性、スポークはデザイン性、回転するリムは運動性能といったように、それぞれのパーツに求められる要素は異なる。
今回は車両コンセプトに合わせて、運動性能に直結するリム部分で世界最軽量級を目指したが、そこには課題があった。リムを軽量化するには強度としなやかさを両立させなければならないが、通常のアルミ合金の場合、その2つはトレードオフの関係になってしまうのだ。つまり、強度を上げるために硬くするとしなやかさが失われ、逆にしなやかにしようとすれば硬くなくなってしまうのである。
材料の強度自体は、ヤマハが材料調律とフレーム開発で培ってきたアルミ合金の処理技術を活用することで剛性を向上させることができた。問題はしなやかさだが、これには新工法「回転塑性加工」を活用し、開発目標を達成したという。
回転塑性加工とはどんな技術なのか。末永氏は次のように説明する。
「ろくろで壺を整形する際に、粘土の塊を手で絞って徐々に薄く整形していくのと同じ要領で、鋳造で作ったリム部分にローラーを押ししごいて加工する技術です。これにより鋳造組織が密で細かい鍛造のような組織となり、薄くて強いホイールが完成しました。この最適な材料と工法のハイブリッドがヤマハ スピンフォージドホイールの特徴ですね」
シャフトを通した状態のヤマハ スピンフォージドホイールと従来のキャストホイールを持ち比べてみると、その違いは明確だった。手に持った重量感ももちろん違うのだが、ホイールを回転させてみると、その違いはより鮮明になる。従来のキャストホイールはブレが大きく、その場で安定させるためには結構な力を必要としたのだが、ヤマハ スピンフォージドホイールは軽く支える感じでも、その場でキープできてしまうのだ。
ヤマハ スピンフォージドホイールは今後、ヤマハバイクの主流になるのか。「ヤマハは昔から、商品開発・設計・材料工法の三位一体による車両開発にこだわっています。ホイール採用の基準としては、開発する車両とのフィーリングが合うか合わないかが大事になりますので、いきなりすべてが置き換わることはないでしょうね」とした末永氏だったが、「我々ものづくりサイドとしては(新型ホイールを)採用してもらいたいですが……」との本音(?)も聞くことができた。