マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、オリンピックと商業主義について解説していただきます。


いよいよ東京オリンピックが開幕します。

オリンピックは過去に数々のドラマを生み出してきましたが、私が個人的に強く記憶しているのが84年ロサンゼルス大会です。

ロサンゼルス大会の記憶

開会式では、ロケットベルトを装着した「ロケットマン」が空を飛び、驚かされました。競技では、カール・ルイス選手が陸上で4つの金メダルを獲得。柔道山下選手が怪我をおして金、一方でマラソンでは本命の瀬古選手が大失速……などが思い出されます。

同大会は、高額なTV放映権やスポンサー協賛金などで黒字を計上し、商業主義を一気に加速させた大会でもありました。ビジネスの面でとくに印象に残っているのが大手ハンバーガーチェーンMの大盤振る舞いでした。

スクラッチカード

Mは大量のスクラッチカードを配布しました。削って出てきた競技でアメリカが金メダルを取ればビッグMが無料。銀や銅でも、チキンナゲットやポテトがもらえました。しかも、スクラッチカードは「no purchase necessary」、つまりMの店舗に行きさえすれば何も購入しなくてももらえたのです。

前回80年のモスクワ大会はソ連(当時)のアフガニスタン侵攻に抗議して、アメリカや日本が大会不参加。そして、ロサンゼルス大会はその意趣返しでソ連などが不参加でした。そのため、アメリカが金メダルを荒稼ぎしていました。

当時、私はアメリカに留学しており、夏休みを利用してハワイを訪れたのがちょうどロサンゼルス大会の開催中でした。レストランでの一人の食事は気乗りしなかったので、よくMにお世話になりました。スクラッチカードをもらって削ったらアメリカが金⇒ビックMと引き換えるために店舗に行って、カードをもらう⇒削ったらアメリカが金……これを繰り返した記憶があります。

Mの店舗では、10センチほどの厚みのあるカードの束を持ったお客さんをよく見かけました。あれだけ大盤振る舞いしても、Mにとって宣伝効果は絶大だったのではないでしょうか。オリンピックで巨額のおカネが絡むことのほんの一例でしょう。

アスリート・ファーストの大会に

オリンピックの商業主義は、これまでも問題視されてきました。本来はアスリート・ファーストであるべきなのに、スポンサーやメディアの意向を優先した競技スケジュールや、特定の競技や選手にメディアのカバレッジが集中するなどの弊害を生んできました。そうした商業主義の弊害が如実に現れたのが今回の東京オリンピックではないでしょうか。

大会の延期か開催か、有観客か無観客か、競技方式をどうするか、などの判断がスポンサーやメディアの意向に大きく影響を受けたように思います。オリンピック開催に大きなリスクがあることが明らかになったことで、今後は開催に手を挙げる都市が一段と減るかもしれません。商業主義を見直し、本当の意味でアスリート・ファーストの大会にする良い機会かもしれません。

無事閉幕することを願って

国際的なスポーツ大会があると、いつもの私ならにわかナショナリストになってとにかく日本の選手を応援することに熱中します。しかし、今回はオリンピックが無事に始まって無事に終わることを何よりも願わずにいられません。コロナの感染拡大やその他のアクシデントがなく、アスリートが公正・公平に競い合って全力を出すことができれば、結果は二の次だと。もちろん、日本選手の活躍に期待しないわけではないですが、今回に限ってその優先順位は高くありません。