ベテラン対決を制し、永瀬拓矢王座に挑戦するのは果たしてどちらになるのか
永瀬拓矢王座への挑戦権争いはいよいよ大詰め。第69期王座戦(主催:日本経済新聞社)挑戦者決定戦の▲佐藤康光九段-△木村一基九段が7月19日に東京・将棋会館で行われています。
藤井聡太二冠を筆頭に若手の活躍が目立つ現在の将棋界。ところが今期の王座戦では、51歳の佐藤九段と48歳の木村九段によるベテラン対決が挑決という大舞台で実現しました。
佐藤九段は挑決トーナメントで西田拓也五段、三枚堂達也七段、飯島栄治八段を破って挑決に進出です。王座戦では過去に第50、53、54期で羽生善治王座(当時)に挑戦していますが、いずれも3連敗で敗れています。15年ぶりに王座戦五番勝負の舞台に立つことはできるでしょうか。
木村九段は澤田真吾七段、高崎一生七段、石井健太郎六段を破りました。王座戦五番勝負には第56期で登場しましたが、こちらも当時の羽生王座に3連敗を喫しています。
振り駒の結果、先手番は佐藤九段になりました。佐藤九段は5手目に▲7七銀と上がり、矢倉を選択。対する木村九段は、現在流行中の早めに△7三桂と跳ねる急戦模様の作戦を採りました。
近年の先手矢倉では、▲6六歩と突かないのが一般的です。5~6年前まで、先手矢倉の5手目の主流は▲6六歩でした。本局のように、▲7七銀と指すのは少数派。それが後手の急戦策が猛威を振るったことにより、逆転して今日に至ります。後手からの急戦を受けるのに、▲6六歩と突いてしまうと争点を与えるということで、損だと見られるようになったのです。
木村九段が採用した急戦調の指し回しにも、▲6六歩と突かないのが現在の主流です。大舞台で指された将棋を例に挙げると、第79期名人戦七番勝負第4局の▲渡辺明名人-△斎藤慎太郎八段戦でも、第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局の▲渡辺明名人-△藤井聡太棋聖戦でも、先手は▲6六歩とは突きませんでした。
ところが本局、木村九段の△7三桂に対し、佐藤九段は悠然と▲6六歩と着手しました。佐藤九段は数少ない「▲6六歩を指す」棋士の一人なのです。周りに流されず、自らが良いと思った手を信念を持って指す佐藤九段らしさがここにも出ています。
とは言え、何も工夫がなければ後手急戦の餌食です。佐藤九段の工夫は▲4六歩~▲4七銀と上がるというものでした。▲5六歩と突くよりも、後手の急戦に備える意味があります。
先手が工夫を見せたなら、今度は後手の木村九段が工夫をする番です。これまでは急戦の構えを見せていましたが、△4四歩と突いて角道を止め、雁木に組んで持久戦に切り替えました。急戦一辺倒ではない、臨機応変な指し回しです。
その後お互いに駒組みを進めていきます。先手は右玉に組み、カウンター狙いの構え。後手は5筋の位を取ってそれを銀で支えるのびのびとした構えとなっています。
昼休明けからは、いよいよ本格的な戦いが始まります。どのような攻防が繰り広げられるのか、目が離せません。