11日に放送された大河ドラマ『青天を衝け』第22回「篤太夫、パリへ」(脚本:大森美香 演出:田中健二)はパリ編の初回。この回の演出は東大仏文科卒の田中健二氏である。

  • 『青天を衝け』第22回の場面写真

1867年(慶応3年)、篤太夫(吉沢亮)が見たパリの凱旋門から放射状に広がる街並みの壮大さと優美さが圧巻で、それを見る篤太夫の表情も迫真だった。「ぐるぐると果てしない」階段を上がった先に広がっていた見たことない世界は第7回で山にのぼって青天を衝いたときに次ぐ感動ではないだろうか。

パリと言えば、興収100億突破したアニメーション映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』でもパリの放射状の街が描かれている。それを思い出した人も少なくないだろう。パリの独特の放射状の街並みの美しさは格別だ。非常に絵になる。篤太夫がやがて開発に関わった日本の田園調布も放射状をしている。イギリスの田園都市を参考にしたそうで、篤太夫が肉眼で見た欧米の風景が日本にもたらされたと思うと感慨深い。

行きの船上では篤太夫はひどい船酔いでつらい思いも味わった。だがその後、パンにバターを塗って食べたら「はなはだ美味!」、コーヒーを飲んで「すこぶる胸がさわやかだ」と新体験を楽しむ篤太夫。外国奉行支配組頭・田辺太一(山中聡)が篤太夫にかける「異人、異人というがえげれす(イギリス)人、フランス人、おろしや(ロシア)人、それぞれ風土も歴史も言葉も違う。それを何も知らずいっしょくたに憎むなんていうのはいかにも阿呆のすることだ」というセリフが印象的だった。それと杉浦愛蔵(志尊淳)が土下座について「文明国では安易に地に頭を下げぬ」と言うことも。21世紀になって土下座を描いたドラマがブームになるとはこの時代の人たちは想像しなかったことだろう。

第22回ではほかに、慶喜の弟・松平昭徳(板垣李光人)とナポレオン三世が会見する場や、初代ナポレオンの墓のあるアンヴァリッド教会、ダンスの行われる広間など、シャンデリアが照らし出す外国建築と俳優たちが見事に融合し、江戸時代の日本とはまるで違うきらびやかな異国の景色が楽しめた。エレベーターに乗って万博会場の屋根の上にあがって風に吹かれて見るパリの風景も。コロナ禍がなかったら海外ロケもあったかもしれず惜しいがVFXでも十分スケール感があった。

華やかなパリ万博。見るものすべてが篤太夫には物珍しい。ところがJAPON(日本)のほかに別途、琉球が参加していて、その琉球のブースには薩摩の島津の旗が飾られていた。日本と琉球(それも薩摩)と2つの代表があるように見えることは問題である。「大君」と「薩摩太守」と差別化することになるが、のちに外国の新聞で“日本は「連邦国」”と書かれてしまう。将軍と大名が同格で将軍は「一大名」に過ぎないとまで書いてあってこれでは公儀の立場が悪いと篤太夫たちは困惑する。

その一件には五代才助(ディーン・フジオカ)が関わっていた。彼が琉球王国の博覧館委員長としてモンブランを任命していた。薩摩とモンブランの策略によって田辺は彼の評判を落とす記事を書かれる。「異人、異人というがえげれす(イギリス)人、フランス人、おろしや(ロシア)人、それぞれ風土も歴史も言葉もちがう~~」と言っていた田辺が薩摩を認めずに対立しているところが皮肉である。

この状況は武力を使わずとも剣を交えずとも博覧会のなかで公儀と薩摩の頭脳戦という戦が起こっているようなものだろう。五代が目下、篤太夫とは対立する薩摩側の人間で、バトルものでいったら強力な敵である。篤太夫にとって相手に不足のない五代は、モンブランと話しているときの不敵な笑みも魅力的だった。

昭徳がナポレオン三世と謁見することで公儀の面目が保たれる。弟が凛々しく任務を全うしている頃、兄・慶喜(草なぎ剛)も大阪城でフランス公使・レオン・ロッシュと話し合いをしていた。日本では和の建物にテーブル等外国の家具を融合させ素敵な雰囲気が醸し出さられていた。

次々改革を進めていく慶喜。だが、薩摩の島津久光(池田成志)が政治の主導権を慶喜から奪おうとしていた。慶喜と久光が会った時、慶喜の勧めで写真(フォトグラフ)を撮るシーン。久光の顔があまりに苦々しそうで、こんな漫画みたいな顔を実際はしてないだろうと思ったら、実際の写真もちょっとムスッと映っていて可笑しかった。これ以降、薩摩は急速に倒幕に舵をきる。

第22回は何もかもが目新しく見ていてテンションの上がる場面ばかり。旅費がかさんでくると篤太夫は倹約に大活躍。ホテルを出てアパルトマンに引っ越すことにしたが、その家賃も高く、値下げしてもらおうとするが……。アパルトマンも十分広いにもかかわらず、お供の者たちは「しみったれた」と文句を言う。ここもシャンデリアがあって端正な住まいで全然しみったれてはいないのに。武士はプライドがやたらと高く値切るようなことは想像できないのだ。一方商人の出の篤太夫は値切るのが当たり前のように育っているから、昭徳――ひいては慶喜や公儀のために知恵を絞る。やっぱり篤太夫が頭脳を使って状況を切り開いていく展開がワクワクする。

第23回の予告では篤太夫はちょんまげを切って洋髪になっている。ますますの新しい展開に目が離せない。

(C)NHK