マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、英国の新型コロナウイルスの状況について解説していただきます。


英国は7月19日に行動制限解除の最終段階へ

英国のジョンソン政権は7月19日に新型コロナ対策としての行動制限解除の最終段階(第4段階)に進むことを正式決定しました。バーやレストランが再開され、各施設の入場制限などもなくなります。ソーシャルディスタンスやマスク着用は、法的義務から人々に遵守を期待するガイドラインに変わります。

英国では、昨秋から今年初めにかけて新型コロナの新規感染者数が爆発的に増加しました。そのため、ジョンソン政権はロックダウン(都市封鎖)を含む厳しい行動制限を英国民に課しました。その結果、新規感染者数が大幅に減少したことを受けて、3月8日の第1段階から5週間ごとに状況を確認しながら行動制限の解除を進めてきました。6月21日に予定されていた最終段階は4週間延期されましたが、いよいよ完全解除となります。

コロナの新規感染者数は5月中旬以降に急増

その一方で、行動制限解除の第3段階に入った5月中旬以降、変異株の影響で新規感染者数が大幅に増加しています。7月14日には1日で4万人を超えました。人口10万人当たりの新規感染者数は、5月には日本を下回るまでになりましたが、足もとでは日本の約30倍に達しています。

行動制限解除の4条件

それでも予定通り最終段階へ進むのは、ジョンソン政権が4つの基準が満たされていると判断したからです。それら4つの基準とは……

  • ワクチン接種が順調に進むこと
  • ワクチンの効果で重症化や死亡が抑制されること
  • 病院システムの崩壊につながるような入院者数の増加がないこと
  • 変異株によっても基本的なリスク評価に変化がないこと

ワクチンの接種状況

英国はワクチンの接種において主要国の先頭を走ってきました。Bloombergによれば、英国の成人の87%が少なくとも1回のワクチン接種を済ませており、3分の2が2回の接種を終えているとのこと。また、Our World in Dataによれば、全人口に占める、少なくとも1回のワクチン接種を終えた人の割合は、7月上旬段階で、英国が68%、ドイツが58%、米国が55%、日本が31%、世界平均は26%です。

英国の新規感染者数は急増していますが、死亡者数はやや増加傾向にあるものの、ワクチンの効果によって低水準にとどまっています。コロナの根絶が期待できない以上、ある程度の重症化や死亡は経済を回すためにやむを得ないと考えられているのでしょう。

7-9月期以降の経済成長を後押しするか

厳しい行動制限の影響で、英国の1-3月期のGDP成長率は前期比マイナス1.6%でした。4-6月期はその反動もあって、市場では同5%程度の成長が予想されています。行動制限が完全に解除されれば、7-9月期以降も相応の経済成長が期待できそうです。

一方で、行動制限の解除によって新規感染の拡大に歯止めがかからなくなれば、ロックダウンや行動制限に逆戻りする可能性もありそうです。そうなれば再び経済へのダメージは避けられないでしょう。

英ポンド相場の先行きに重要な影響も

英ポンド/米ドルは今年1-4月に堅調でした。今年1月1日に実現したブレグジット(英国のEU離脱)に際して大きな混乱がみられなかったことに加えて、ワクチン接種が進んでいたことも一因でしょう。そして、英ポンド/米ドルの5月以降の軟調は、変異株による世界的な感染拡大がリスクオフの投資家心理をもたらしたこと、そして感染拡大が英国で顕著だったことが背景だと考えられます。英国での行動制限の完全解除が吉と出るのか凶と出るのか、英経済や英ポンド相場の先行きに大きな影響を与えそうです。