富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が電子ペーパー「クアデルノ」(QUADERNO)の第2世代にあたる新製品を、7月8日に発売しました。
2018年に発売された初代モデルと比較しながら、新しいクアデルノの魅力をレポートしたいと思います。
「読む」だけじゃない「書ける」電子ペーパー
クアデルノはE-Ink社が開発した16階調グレースケール表示に対応する電子ペーパーを搭載するデジタル文具です。電子ペーパーは「読む」だけでなく、文字やイラストを「書く/描く」こともできます。
PDFのドキュメントを読み込めばドキュメントリーダーのようにも使えるため、ビジネスパーソンからも注目されているようです。(関連記事:「ブギーボードにクアデルノ、盛り上がるデジタル文具 - 古田雄介の家電トレンド通信」)
さて、まずは搭載されている電子ペーパーの仕組みを簡単に説明します。この薄いディスプレイの電子インクフィルム層には、白と黒の帯電顔料が詰まっている無数の微粒子サイズのマイクロカプセルが敷き詰められています。
スタイラスペンでその表面をなぞるとマイクロカプセルに電圧がかかり、線や図形が描画されます。液晶ディスプレイのようにバックライトを持たないため、駆動に必要な電力の消費効率が良く、また軽さが求められるデバイスにも適していると言えます。
静電容量式のタッチパネルは、指によるタッチ操作に対応。筆記は、付属するデジタルスタイラスペンを使います。
ペンの単体購入も可能ですが、初代と異なる、第2世代のクアデルノ専用のペンとなるのでご注意を。ちなみに、ワコムのEMRに対応する他の製品向けのスタイラスペンでクアデルノに筆記することもできますが、純正ペンのほうが精度が高いとのこと。第2世代のクアデルノ専用のスタイラスペンとしては、ドイツの文具メーカーであるLAMYとのコラボモデルも発売されます。
第2世代のクアデルノにもA4サイズとA5サイズのモデルが発売されます。一度フル充電にすれば、充電池の持続時間は最長約2週間(Wi-Fi/Bluetoothオフ時の場合)。
本体の薄さはA5モデルが約5.9ミリ、A4モデルが約5.7ミリ。質量はA5モデルが約261グラム、A4モデルが約368グラムです。質量が初代のモデルから10グラムほど増えていますが、手に持つとわずかに違いを感じました。内蔵ストレージの容量は32GBです。
新しいクアデルノの価格情報や機能の紹介についてはニュース記事も合わせてご覧下さい。
書き味が滑らかに、サイズはスリムになった専用ペン
今回はA4サイズの新しいクアデルノを借りて試すことができました。主に3つのポイントに注目しながら新旧モデルを比較してみたいと思います。やはりクアデルノの醍醐味は電子ペーパーに「書ける」ことだと思うので、まずは書き味をチェックします。
第2世代のクアデルノには、ワコムが特許を取得する電磁誘導方式(EMR)を採用する新しいデジタルスタイラスペンが付属します。新旧モデルのペンを比較してみると、新しいペンの方が軽くスリムになっています。筆者は新しいペンの方が持ちやすいと感じました。
側面のサイドボタンは誤操作を防ぐため少し高い位置に移動しています。筆者は仕事で電子ペーパーを常用しており、書いたり・消したりを頻繁に繰り返すので、サイドボタンは前機種のペンのようになるべく通常の握り位置に近いところにある方がうれしかったのですが、新しいペンも使い込むうちに慣れてきました。
新しいペンは、ペン先の反対側に“テールスイッチ”があります。クアデルノの本体設定からそれぞれのボタンに5種類の機能が割り当てられます。
新しいペンは“書き味”がとても滑らかになっています。前機種はペン先の傾き補正をある程度固定値で行っていましたが、新しいワコムのEMRの技術を搭載するペンは上から見て360度、横から見て180度の傾き補正を、筆記中リアルタイムに行っています。これにより曲線や斜線がより正確に、滑らかに書けるようになっています。
前機種ではひらがなの曲線、漢字の斜め線がいびつに描画されてしまうことがありました。筆者は元から書き文字がきれいな方ではありませんが、それでも電子ペーパーで書いたドキュメントを人にも見せられるように、丁寧に書いた文字はもう少し正確に反映されてほしいと思っていました。
新しいクアデルノの書き味は文句なしです。テキストを書く用途に限らず、イラストのスケッチにも使えるレベルだと思います。
新しいクアデルノでは、ペン先と描画位置とのズレがなく、安定した精度の高い筆記ができます。ひとつ気になる点があるとすれば、文字を続けて“素速く”書いた時に描画の遅延が発生することがありました。ソフトウェアアップデートなどにより改善されることを期待しています。
スタイラスペンは充電不要ですが、ペン先がすり減ってきたら定期的に“替え芯”を交換するメンテナンスは必要です。
また前機種はクアデルノ本体の側面にペンをマグネットで付けることができましたが、新世代のモデルはこの機能が省略されました。
代わりにペン自体にクリップが付いているので、使わない時にはシャツやジャケットのポケットに入れて動かないようにクリップして持ち歩くことができます。筆者のように従来機を使ったことのある方は、最初は少し慣れない感じがあるかもしれません。
コントラスト性能向上、視認性が良くなった画面
ふたつめに、新しいクアデルノは電子ペーパーディスプレイの視認性がアップしたことに注目したいと思います。
第2世代のクアデルノにはコントラスト性能がアップしたE Ink社の最新電子ペーパーディスプレイが搭載されています。
元からクアデルノは文字の輪郭に“にじみ”がない、パリッとした表示を実現していますが、新しいモデルは文字や線の色が深く沈み、さらに立体的に感じられるようになりました。
電子ペーパーディスプレイはバックライトを持たないため、暗い場所での画面の視認性は液晶ディスプレイなどに劣るところがあります。
ただ、筆者は発表会やイベントを取材する時にいつも、やや暗い場所で電子ペーパーを使っていますが、実際にはよほど真っ暗な場所でなければ文字を書いたり、読むために苦労した経験はありません。
新しいクアデルノで試したところ、少し暗めな場所でも筆記した内容がよりはっきりと読めました。
CPUとメモリを強化、タッチ操作の応答が20%速くなった
新しいクアデルノは内蔵するCPUとメモリーのスペックアップを図っています。
タッチ入力に対する応答感度が約20%ほど向上したといいます。本体ベゼルの上部中央に配置されている「ホームボタン」をクリックすると立ち上がるホームメニューの表示、そこからのドキュメントの選択表示が高速化しています。ドキュメント内のページ送りも前機種に比べてサクサクと動くので快適です。
うれしいType-C対応、使い勝手がチューンアップ
そして3点目として、新しいクアデルノは全体が細かくチューンアップされて使いやすくなっています。
筆者は充電と有線接続によるPC同期に使うケーブルがmicroUSBからUSB Type-Cになったことが一番うれしいです。それにしても最近はmicroUSBケーブルを使う機会がめっきり減りましたね。
PCとの同期にはWindows/Mac対応の「QUADERNO PC App」を使います。ファイルの出し入れはUSBケーブルによる有線接続か、またはWi-Fi/Bluetoothを使う無線接続の両方が使えます。
PCを持たずに外出した場合、クアデルノで作成したファイルをいったんモバイル版アプリ「QUADERNO Mobile App」を使ってiPhoneやAndroidスマホに吸い出して、あとからPCに転送する方法もあります。
クアデルノに保存したファイルの一覧表示が文字ベースの「リスト形式」だけでなく、ドキュメントの内容が一瞥してわかりやすい大きめの「サムネール形式」により確認できるようになったことも地味ながら大きな進化だと思います。
同様にクアデルノ本体のソフトウェアアップデートも、本体をWi-Fiに接続していればPCを介することなく直接プログラムをダウンロードして更新をかけられるようになりました。これは便利です。
ビジネス用途から創作活動までおすすめできる
クアデルノ本体のデザインは元の完成度が高かったこともあり、第2世代になってもほぼ前機種と見分けがつかないほど変わっていません。
筆者はカラバリぐらいは期待していたのでやや残念ですが、専用カバーや先述したLAMYのスタイラスペンなど、クアデルノのカスタマイズが楽しめるアクセサリーが今後充実していくことを楽しみにしたいと思います。
カラー表示が可能なiPadなどのタブレットに、電子ノートアプリを入れたらクアデルノと同じようなことができるかもしれません。
ただ、実際に使い込んでみるとやはり、片手で持ちながら会話のメモを取ったり、機動力が求められるシーンでは本体がとても軽く、書き味にも優れる「電子ノート」であるクアデルノが圧倒的に便利であることがわかるはずです。
最新のデジタルスタイラスペンの筆記性能が大幅に向上したことで、ビジネスパーソンに限らず、クリエイターの方々に対しても、新クアデルノがクリエーションをサポートする魅力的なツールになりました。
タブレットやスマホのように様々な用途に使うことをコンセプトに掲げず、「書くこと・読むこと」に特化した電子ペーパー「クアデルノ」はやはりとてもユニークなデバイスだと思います。
富士通クライアントコンピューティングのクアデルノは、同カテゴリの製品においてトップクラスの完成度に到達しています。興味を持った方はぜひ体験してみることをおすすめします。