満員電車に理不尽な上司、わがままなクライアント。こんな会社員人生もう抜け出したい! と考える人は少なくないでしょう。でも、ビジネスパーソンにとって独立起業はまだまだハードルが高いのが現実。

  • 資金調達も事業計画書も経営経験も必要ない“しょぼい起業”で、いくつもの事業を成功させてきた矢内さん。

ところが、そんな従来の起業イメージを覆す“しょぼい起業”を提唱するのが、ベストセラー本『しょぼい起業で生きていく』の著者「えらいてんちょう」こと矢内東紀さん。「資金、事業計画、経営経験がなくてもできる」というその方法についてうかがいました。

■50万円で起業。だめならすぐ撤退して次へ

大学在学中、「就活なんてやってられない」「そもそも毎朝、決まった時間に起きてスーツ着て満員電車に乗って会社に通うのが無理」という理由から、初期費用50万円でリサイクルショップを開店。その後Twitterのアカウントを開設し、「えらいてんちょう」を名乗り始めました。「てんちょう」だけでは個性がないので、「私はえらいんだ」と言いたくてそう名乗りました(笑)。

翌年には、毎日バーテンダーが変わる「イベントバーエデン」をオープン。このバーの形態が予想外に支持されて、Twitterの宣伝効果もあって、現在では全国で6店舗展開しています。“しょぼい起業”といっても、その後の展開までしょぼいとは限らないのです。

“しょぼい起業”は資金も、経営経験も、事業計画もナシでできる起業です。まず資金について説明します。“しょぼい起業”では、次の2点を基本としています。

1.自己資金50万円を貯めてから起業する。

2.資金が底をつくまでやっても芽が出ない時は一度撤退、資金を貯めて再度挑戦する。

借金さえしなければ、失敗しても大きなダメージにはなりません。銀行にお金を借りなければできないような起業は、そもそもしない方がいいです。

「本当に50万円で起業できるの? 」と思うかもしれません。でも、今は無料ネットショップ開業サービス、YouTube、ゴーストレストラン (デリバリーに特化した飲食店)など、初期費用0円の起業方法がいろいろあります。これらは実店舗がない分、失敗してもすぐに次のアイデアを試すことができます。

実店舗で始める場合でも、駅から少し離れた場所なら東京23区内でも月額10万円以下の賃貸物件は珍しくありません。やり方次第で、起業は意外なほどお金をかけずに可能です。

  • 矢内さんが店長を務めていた「イベントバーエデン」。駅から遠く、少々わかりにくい場所にあるが、逆にそれが隠れ家的魅力になっている。

■まず自分が普段やっていることを商売にしてみる

“しょぼい起業”で始めやすいのは、「自分が日常やっていること」を事業化することです。毎日料理をする人なら飲食店、お酒が好きだからバー、本が好きだから古本屋というノリです。どうせ自分の分の食事は作るのだから、一緒に複数人数分の量を作り、自分の分以外を販売する。大量に材料を買って作ることでコストが抑えられ、利益も得られます。

私がリサイクルショップを経営していた当時は、いい商品が入荷したら自分がそれまで使用していたものと交換し、古いものを販売しました。おかげで、そこそこ新しい家電を使い続けることができたし、家電の支出を抑えられた分、可処分所得も増えました。

これを「生活の資本化」(コストの資本化)と私は呼んでいます。「生活の資本化」のいいところは、大きな現金収入にならなくても生活費が浮くところ。経営経験が無くても破綻しにくく、継続しやすいのが特長です。

  • 「イベントバーエデン」は、仲間内でカラオケに行くことが多かった矢内さんが「カラオケができる店を開けば、結果的にカラオケ代が浮くのでは」と借りた物件。当時はここに寝泊まりしていた。

■事業計画を練るヒマがあったら実行あるのみ!

ゼロから起業する場合、綿密な計画を立てたところで、その通りに進むことはめったにありません。“しょぼい起業”のいいところは手数が打てること。カレー屋がダメならバナナジュース屋、それもダメならタピオカ屋と挑戦を繰り返すことができます。

「○○が好きだから○○店をやりたい」と、綿密に計画を練っている人もいると思います。でも、単に「自分が好きだから」では商品は売れません。芽が出るまで粘るだけの技術や財力がないのなら、タピオカミルクティーのような流行りものから挑戦してみるのもアリだと思います。

「流行りものなんて二番煎じでやりたくない」という人もいるでしょうが、ニーズがあるとわかっているなら参入しない手はありません。作り方がわからない商品でも、ネットで調べれば大抵わかります。YouTubeでパンの作り方を勉強して、ベーカリーを開店した人もいます。流行りものを経験することで商売のカンやコツを掴んでいけるし、他と差別化するための創意工夫のコツも見つかるはずです。

私の事業も、学生時代の「アラブでウケる漫画をつくり、オイルマネーで大金持ち」というおめでたい計画から始まり、出版社の下請け、不動産投資、リサイクルショップ、バー、塾、語学教室経営と、めちゃくちゃな変遷をたどってきています。リサイクルショップと、バーが当たって、ようやく経営が多少安定してきましたが、当初の計画に固執せず、流れに身を任せたからこそ今があります。大事なのは成功するまでトライ&エラーし続けることです。

  • 「起業というと独自のものを作ろうとしがちですが、それよりも『皆がお金を払うもの』を売るのが一番いいです。amazon、メルカリなどで人が何を買っているのか、あるいは自分はどういうものを買っているのかをつぶさに分析していくことが重要です」(矢内さん)