iPhone 12シリーズなど5G対応のスマートフォンを使っている人が増えてきました。各キャリアとも5Gエリアの拡大を急ピッチで進めており、昨年と比べると都市部では5Gで通信できるエリアがだいぶ増えたと感じる人も多いと思います。

  • スマートフォンは5G対応モデルが主力となり、各キャリアの5Gエリアも着実に広がりを見せている。そのようななか、各キャリアは5Gを快適に使えるよう独自の工夫を凝らしている

「すでに4G(LTE)のエリアが日本全国をカバーしているのだから、4Gの基地局に5Gのアンテナや通信設備を載せればスピーディーに5Gエリアが広がるんじゃない?」と考える人もいるでしょう。しかし、4Gと5Gの電波の特性はまったく異なるうえ、5Gの電波がほかの電波や通信機器に影響を与えないようにする必要があるなど、実際は細やかな設計や技術が必要になり、そう単純に進められるわけではありません。

首都圏や関西圏の鉄道路線の5G化を積極的に進めているKDDIに、5Gエリア整備の苦労話や5Gが快適に使えるようにするためのノウハウを取材しました。

4Gの基地局に5Gのアンテナを付けるだけではダメなわけ

まず、4Gと5Gで大きく異なるのが、通信に利用している電波の「周波数帯」です。4Gと比べ、5Gはかなり高い周波数帯の電波を利用しています。4Gは、ビルなどの障害物があっても回り込んだり透過したりして飛び続けるのに対し、5Gはビルなどに阻まれると電波が急激に弱くなってしまいます。そのため、5Gはエリア化したい場所を見通せる場所(利用者がいる場所)にアンテナを細かく設置する必要があるのです。これが「4Gの基地局に5Gのアンテナや通信設備を付けただけではダメ」といわれる大きな理由です。

  • 5Gが中心に利用する高い周波数帯の電波は「直進性が高い」「透過しにくい」などの特徴があり、4Gが利用する電波とはかなり性格が異なる

  • 4Gが利用する低い周波数の電波は、障害物があっても回り込んで進む特徴があるが、5Gが利用する高い周波数の電波は障害物に遮られてしまう

  • ひとつの基地局で広いエリアをカバーする4Gとは異なり、5Gは建物などの状況を見て最適な場所に細かく基地局を建てる必要がある

KDDIが5Gエリアの整備を積極的に進めているのが、多くの人が狭いエリアに密集する駅のホームです。ホームの上部に5Gのアンテナを設置し、列車と平行に電波が飛ぶようにすることで、長いホームの全体に電波が行き渡り、かつ入線してきた電車の影響を避けられるようにしています。JR東京駅では、ホームごとに順次アンテナの設置を進めており、すでに5Gアンテナの整備が済んでいる山手線ホームでは1Gbps超えの通信速度がサクッと出ました。

  • JR東京駅の山手線ホームでは、ホームの上方に5Gのアンテナを設置している(左上)

  • ケーブルがつながっている平たいボックスが5Gのアンテナ。ホームの人のいる場所に電波が届くよう、角度を付けて固定しているのが分かる

  • ホームでスピードテストを実施したところ、コンスタントに1Gbps超えで通信できた

駅以外の場所では、街灯などを利用して細かく5Gの基地局を整備しています。その際に留意しているのが、設置した5Gの電波がほかの事業者が利用している電波に影響を与えるなどの干渉がないようにすること。アンテナの向きや角度を細かく調整し、影響がないかを検証しながら設置を進めているそうです。

5Gでの通信に固執せず、「パケ止まり」を回避している

興味深かったのが、5Gの基地局から離れて電波が弱くなった「5Gエリアぎりぎりの場所」での工夫です。5Gの電波が完全に切れる寸前まで粘って5Gで接続しようとすると、電波はつながっているのに通信できない「パケ止まり」の状況になってしまいます。その“使えない”状況を回避するため、5Gの電波がある程度弱くなったら早々に4Gでの通信に切り替え、通信が止まらないようにすべく、基地局を制御しています。5Gのエリアは狭くなってしまいますが、ユーザーの使い勝手を損ねない工夫として注目できます。

  • 5Gでつながっているのに電波が弱くて通信できない「パケ止まり」の状況を回避するため、5Gエリアでも電波が弱くなったら早々に4Gに切り替えるように基地局を制御している

目には見えない5Gの電波を“見える化”するための工夫が、先日発表したスヌーピーの3DARコンテンツです。KDDIの5Gエリア内でアプリを起動すると、3Dグラフィックスで描かれたスヌーピーがARで現れる仕組みで、「スヌーピーが現れたからここは5Gが使えるんだ」ということが把握できる仕組みです。

  • KDDIの5Gエリアに入ると、スヌーピーがARで現れるコンテンツが起動できる

  • 目には見えない5Gエリアの存在を楽しく認識させるコンテンツとしてauユーザーに訴求する