今回は、メディアアーティストとして作品を発表する一方、筑波大学准教授として研究・開発へ勤しみ、さらに実業家や写真家としての側面も持っている落合陽一氏に話をうかがった。多角的な活躍を続ける落合氏は、コロナ禍を経た現在のコミュニケーションをどのように捉えているのだろうか。

  • (C)蜷川実花

    (C)蜷川実花

■落合氏が考えるリモートで「貴重な人材の特徴」後編はこちら

コロナ禍で変化した働き方のマインド

2020年の新型コロナウイルス感染症流行を受け、働き方改革は一気に加速し、テレワークを行っている人も増加している。テレワークを行うための技術自体は元々あったものの、コロナ禍によって人々のマインドが大きく変化した結果といえるだろう。落合氏はコロナ禍後の変化について、まず次のようにまとめる。

「マインドは大きく変わってきていると思います。昔はリモートワークといえば"手抜き"と思われることも多かったと思いますが、リモートワークを選択することによって、全員の時間的・作業的な効率が向上することが増えましたよね。打ち合わせの時間も短くなっていますし、わざわざ移動する時間もなくなりました」

落合氏自身も、取材で面と向かってインタビューアと話す機会はすっかり減ったという。装置を見せて欲しい、撮影が必要といった取材以外は、すでにほとんどがオンラインになっているそうだ。

「リモートワークが進むことで、忙しい人はより忙しく、椅子を暖めていた人はよりヒマになるでしょう。それこそ、椅子を暖めるだけの会議だったら3つぐらい同時に参加できるのがいまの特徴だと思っています。逆に、椅子を暖める役割のために忙しかった人にとっては朗報だし、椅子を暖める役割すら課せられない人はより存在感がなくなるでしょう」

短いWebミーティングの重要性

テレワークはいま、企業の働き方を大きく変化させている。この1年のリモートワークで、ビジネスパーソンもすっかりこの新しい労働環境に慣れたことだろう。一方で、「エグゼクティブは悩みどころも多いだろう」と落合氏は推察する。なぜなら、リモートワークは会社への帰属意識や社内カルチャーの伝達を弱めるからだ。

「身体性を用いた行事、例えば飲み会や社員旅行がなくなっているので、エグゼクティブには離職率を下げるためのアプローチが求められるでしょう。昨年の新入社員の中にはほとんど出社していない方もいますから、『会社への帰属意識がほぼない』という人も増えていると思います」

またテレワークの普及によって、企業内ではちょっとしたコミュニケーションが取りにくくなっているとも指摘する。

「テレワークが中心になってくると、以前は隣の席に『調子どう?』『仕事、進んでる?』と話して10秒で終わるような、些細なコミュニケーションが取りにくくなります。なので、『いまちょっとだけ話せますか?』から始める短いWebミーティングの重要性が増していると思います」

落合氏自身も、自分のラボや会社で10分程度のミーティングをたくさん行っているそうだ。

「対面では無意識に声がけをしていたと思います。ですが、リモートワークでのコミュニケーションは意識しないとできません。つまり、些細なコミュニケーションのために予定を立てたり、相手にメールを送ったりしないといけないのです。この意識を持たないとコミュニケーションは減ってしまうと思います」

また、大学でも短いリモートミーティングを頻繁に行うよう心がけているそうだ。これは、相手の体調を知るためだという。

「メンタルが弱ると、学校や会社に出てこなくなることで相手の調子がわかるじゃないですか。リモートだとこれがわからないんですよね。しかも、家から出ない生活を続けるとストレスの抱え方もこれまでと異なりますから、発見するのはなかなか大変です。他人と話す機会が減りますし、運動量も減少しますから。弱っている人が弱っているとわかるように、リモートでは相手の様子を意識的に見るようにしています」

では、社内のコミュニケーションを円滑にするために、ビジネスパーソンはどのような点を心がけるべきだろうか。

「なるべくいろんなコミュニケーションの方法を試してみるという点に尽きるのではないですかね。ひとつの手段で伝わらなかったからといって諦めないというのは、基本であり重要です。すべてがオンラインになったら相手をフィジカルに捕まえることが難しくなるので、返事が来るまでいくつもの手段を試すべきです。いまは容易にコミュニケーションが途絶してしまいますから」

テレワークで生まれる新しい格差

緊急事態宣言後のテレワーク実態を見ると、実はテレワーク非従事者が約7割を占めているという。落合氏は「テレワークは良い点がたくさんありますが、一方で社会的には格差が増えると思います」と述べる。

「実際にリモートへ移行できる層は、全体の1/3~1/4ほどしかいません。働き方が多様化しているので、むしろ共通するマインドがまだ醸成されていないように感じています。同じ年収レンジでも、テレワークできる層とできない層が完全に分かれてしまっています。俗にいう、"分断"の問題ですね」

ビジネスパーソンのみならず、学生にとってもこの影響は大きい。落合氏はその理由として、人脈形成の難しさを挙げた。

「人脈がすでに形成されている人はコミュニケーションも取れますが、まだ人脈が形成されていない人にとってはすごく大変でしょう。これは単純に資本主義的な格差の話ではなくて、例えば学校の在校生と新入生の間にも格差があるし、企業の中堅社員と新入社員の間にもあると思います。それは、人的ネットワークを新たに築き上げることが極めて難しい社会になりつつある、ということかもしれないですね」

後編では、アフターコロナの世界においてビジネスパーソンが心がけるべきことについて、より具体的に聞いていきたい。

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落合陽一/Yoichi Ochiai メディアアーティスト
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。「デジタルネイチャー(PLANETS)」、「2030年の世界地図帳(SBクリエイティブ)」など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。オンラインサロン「落合陽一塾」主宰。