和月伸宏氏の人気コミックを実写化した映画『るろうに剣心』シリーズが、ついに最終章を迎える。2012年の『るろうに剣心』に続き、『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』(14年)と3作合わせて累計興行収入125億円以上、観客動員数は980万人を突破した大ヒット作で、幕末に人斬り抜刀斎として恐れられた緋村剣心(佐藤健)が、不殺(ころさず)を貫きながら仲間と平和のために戦う姿を描いている。
コロナ禍での延期を経て公開を迎えた『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は、原作では最後のエピソードとなる「人誅編」をベースに縁(新田真剣佑)との究極のクライマックスが描かれる「The Final」と、原作では剣心が過去を語るかたちで物語が進む「追憶編」をベースに、剣心の元妻・巴(有村架純)が登場し、“十字傷の謎”に迫る「The Beginning」の2部作に。6月4日に「The Beginning」が公開されると、週末興行収入ランキングで1、2位を独占するなど、すでに大ヒットを記録している。
漫画原作の実写化でありながら、リアルな時代劇としての側面も持つ同作。そこにあるのは徹底的な「汚し」「壊し」などの技術でもあり、「小汚いところがすごい」と褒める意味で話題にもなっている。大友啓史監督もIMAXシアターの大画面で「The Final」を見たときに「汚しの表現にはこだわっているので、それがしっかり効いていると思った」と発言している。今回は、大友監督に”汚し”とはどういうものなのか、話を聞いた。
■細かな努力が生きていく
——『るろうに剣心 最終章』の公開と、これまでのシリーズへの注目から、改めて「”汚し”がリアルですごい」と話題になっていました。
僕、汚し歴は長いですからね。『龍馬伝』でやりすぎるぐらいやりましたから(笑)。”生活感”の表現は、僕にとってすごく大事なことです。毎日のりのきいた着物を着ているキャラクターだったら汚す必要はありませんが、その空間や時代で普通に生活している人たちを表したいと思うと、エイジングをちゃんとやらないと。
僕らがよく言うのは、神谷道場などのセットも、建てたばかりの初日は「その日のカレー」なんですね。でも、一晩寝かせた次の日の朝のカレーっておいしいじゃないですか。セットも同様で、道場が30年経っているとすると、30年間打ち込みの稽古があって、何百人もの門下生たちが流した汗がボトボト落ちたりしているわけだから、そういう痕跡を作っていくのは、僕が演出をする時の美術チーム、衣装チーム、メイクチーム全員の最低限のルールです。そこについては徹底してきているし、全体の共通認識になっていますね。
——そういう現場にするために、難しいこともあるんでしょうか?
スタッフ間に、とりわけ俳優をきれいに見せなければいけないという考えが固定しちゃっている場合がありますね。むろん衣装の素材などにもよりますが、普通に動いたら、衣装も髪も乱れたり皺になったりするものですし、それが生活として普通の状態なんですけどね。だけど、不必要に気を使い、必要以上に整えたりしちゃう場合がある。乱すために、あえてテイクを重ねる時もあるくらいです。そういう僕なりの考え方を、『龍馬伝』の頃から少しづつ徹底してきたつもりです。衣装一つとっても、撮影に入る前に汚して洗ってクタクタにする、それが当たり前でなければいけない。黒澤明監督の映画では、武将の役をやるエキストラに鎧を与えて1カ月過ごしてもらうとか、そういう目に見えない努力もしていたんですよね。身体に馴染んでいるか馴染んでいないかは、映像に映ると一目瞭然ですからね。
今の時代、現実にどこまでできるかは別として、そういうことを詰めて考えると、やるべき努力というのは無限にあります。むしろどこで諦めるかという問題ですらある。僕らは諦めが悪いので、締め切りギリギリ許されるまでに、とにかく足掻きながら、やれることはまだあるのではないかと思いながらやっています。夏のシーンでは、助監督も霧ふきを持って、暇があればエキストラの方に吹きかけて汗を演出し、農民だったら爪に土もたまる。そういう細かな努力が大画面で見たときに生きていくし、映像に映る映らない以前の問題として、「そこに存在していた人がどう生きていたのか」を考えることなんだと思います。
※映画『るろうに剣心 最終章』特集はこちら!
■大友啓史監督
1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業。1990年にNHKに入局し、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01~04年)、『ハゲタカ』(07年)、『白洲次郎』(09年)、大河ドラマ『龍馬伝』(10年)などを演出。イタリア賞始め国内外の賞を多数受賞する。2009年『ハゲタカ』で映画監督デビュー。2011年5月に独立し、『るろうに剣心』(12年)、『プラチナデータ』(13年)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)の2部作を手がける。『るろうに剣心』シリーズは世界50か国以上で公開され、3部作の累計興行収入が125億円を突破、大ヒットとなる。その後も、『秘密 THE TOP SECRET』『ミュージアム』(16年)、『3月のライオン 前編/後編』(17年)、『億男』(18年)、『影裏』(20年)と話題作を次々と世に送り出す。2017年より「OFFICE Oplus」を新たに立ち上げ、海外での映像制作も視野に活動を広げている。
(C)和月伸宏/集英社 (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会