自分の退職金がいくらぐらいになるのかは、誰でも気になるところです。そこで本記事では、退職金の計算方法について、くわしくご紹介します。
勤続年数別の退職金相場や、退職金にかかる税金についても解説しますので、転職や退職を検討している人も、ぜひ最後までお読みください。
退職金制度の基本
退職金制度とは、勤務していた企業から退職時に賃金が支払われる制度です。支給方法は一括払い、分割払い、両方の併用など、企業によって異なります。なお、退職金制度の導入は法的な強制力がないので、退職金制度がない企業もあります。
退職金計算書とは?
退職金計算書とは、企業に勤めている「現時点」でもらえる退職金を計算した書類です。自己破産やローンを組むときなどに銀行や裁判所から求められることがあります。
退職金計算書が必要になった場合は、勤務している会社の担当部署に申請書を提出して入手しましょう。
退職金の相場はどのくらい?
ここからは、企業規模別と勤務年数別の退職金相場をご紹介します。
- 大企業の退職金相場
厚生労働省(中央労働委員会)が公表した「賃金事情等総合調査(令和元年)」には、「企業規模別の平均退職金額」が記載されています。同調査における「大企業」の定義は「資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上」です。
卒業後すぐに入社し、定年退職まで同一企業に勤務した場合の最終学歴別平均退職金額は次のとおりです。
大学卒 | 2,289万5,000円 |
高校卒 | 1,858万9,000円 |
- 中小企業の退職金相場
中小企業の退職金相場は、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情」に記載されています。同調査における中小企業の定義は「従業員数が10人から299人の企業」です。
卒業後すぐに入社して定年退職まで同一企業で勤務した場合の「モデル退職金」をみてみましょう。
大学卒 | 1,118万9,000円 |
高校卒 | 1,031万4,000円 |
- 勤務年数別退職金相場
りそな年金研究所の「企業年金ノート(2021年4月)」には、大学卒業後に入社したケースの「勤続年数別モデル退職金」が掲載されています。
3年 (25歳) |
5年 (27歳) |
10年 (32歳) |
20年 (42歳) |
30年 (52歳) |
定年 | ||
中央労働委員会 (大企業・2019) |
会社都合 | 68万7,000円 | 123万8,000円 | 312万8,000円 | 965万9,000円 | 2,012万9,000円 | 2,511万1,000円 |
自己都合 | 32万8,000円 | 63万4,000円 | 186万1,000円 | 801万8,000円 | 1,898万3,000円 | ||
東京都 (中小企業・2018) |
会社都合 | 34万6,000円 | 60万3,000円 | 148万3,000円 | 425万円 | 785万6,000円 | 1,118万9,000円 |
自己都合 | 23万1,000円 | 42万3,000円 | 113万5,000円 | 353万4,000円 | 705万9,000円 |
勤務年数だけではなく、退職理由によっても退職金の相場が変わっています。なお、「自己都合退職」とは転職や結婚などの個人的な理由による退職、「会社都合退職」は経営破綻や業績不振などによる退職です。
国家公務員の退職金相場は?
ここでは、常勤職員と、常勤職員のうち「行政職俸給表(一)」が適用される職員が定年退職まで勤務した場合の相場をご紹介します。
なお、国家公務員の基本給は「俸給」と呼び、それぞれの給与は法律で定められた「俸給表」で決まっています。ここで紹介する「行政職俸給表(一)適用者」とは、常勤職員のうち56%を占める一般行政事務職員などのことです。
退職理由 | 常勤職員 | うち行政職俸給表(一)適用者 |
---|---|---|
定年 | 2,090万6,000円 | 2,140万8,000円 |
応募認定 | 2,588万1,000円 | 2,278万円 |
自己都合 | 316万1,000円 | 362万7,000円 |
その他 | 201万6,000円 | 265万8,000円 |
退職理由の「応募認定退職」とは、平成25年から始まった早期退職募集制度の募集に応募して認定された退職者のことです。
地方公務員の退職金相場は?
地方公務員が60歳で定年退職した場合の退職金相場をみてみましょう。
- 都道府県
全職種 | 約2,211万円 |
一般職員 | 約2,160万円 |
一般職員のうち一般行政職 | 約2,165万円 |
教務公務員 | 約2,237万円 |
警察職 | 約2,202万円 |
- 指定都市
全職種 | 約2,163万円 |
一般職員 | 約2,107万円 |
一般職員のうち一般行政職 | 約2,247万円 |
教務公務員 | 約2,243万円 |
- 市区町村
全職種 | 約2,016万円 |
一般職員 | 約2,016万円 |
一般職員のうち一般行政職 | 約2,160万円 |
教務公務員 | 約2,147万円 |
国家公務員の定年退職手当は常勤職員が約2,091万円、行政職俸給表(一)の適用者が約2, 141万円だったので、都道府県・指定都市・市区町村を問わず地方公務員の一般行政職の方が高い退職金をもらっています。
退職金の計算方法
退職金の計算方法には主に下記の4種類があり、企業によって採用している方法が異なります。
- 定額制
- 基本給連動型
- 別テーブル制
- ポイント制
それぞれ、くわしくみていきましょう。
「定額制」の退職金計算方法
定額制とは、勤続年数に連動して退職金額を決める方式です。勤続年数が5年なら20万円、10年なら40万円といった形で退職金が決まります。
「基本給連動型」の退職金計算方法
基本給連動型は、勤続年数に基本給と退職理由も加味して退職金を算出します。計算式は次のとおりです。
- 退職金=退職時の基本給×支給率×退職事由係数
勤続年数によって変わる「支給率」と、退職理由によって異なる「退職事由係数」の数値は企業によって違います。
下記の条件で退職金を算出してみましょう。
勤続年数:18年
支給率:8.0
自己都合退職:係数0.8
退職時の基本給:36万円
36万円×8.0×0.8= 230万4,000円
「別テーブル制」の退職金計算方法
別テーブル制とは、給与制度とはリンクしない「別表」にしたがって退職金を算出する方法です。計算式は次となります。
- 退職金=基礎金額×等級係数
別表の例をみてみましょう。
基礎金額 | 等級 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
勤続年数 | 会社都合 | 自己都合 | 1~3級 | 4級・5級 | 6級 | 7級 | 8級以上 |
1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
4 | 300,000 | 150,000 | 1.0 | 1.1 | 1.2 | 1.3 | 1.4 |
5 | 400,000 | 200,000 | 1.0 | 1.1 | 1.2 | 1.3 | 1.4 |
: | : | : | : | : | : | : | : |
20 | 2,200,000 | 1,980,000 | 0.6 | 0.7 | 0.9 | 1.0 | 1.1 |
21 | 2,300,000 | 2,070,000 | 0.6 | 0.7 | 0.9 | 1.0 | 1.1 |
22 | 2,400,000 | 2,160,000 | 0.6 | 0.7 | 0.9 | 1.0 | 1.1 |
23 | 2,500,000 | 2,250,000 | 0.6 | 0.7 | 0.9 | 1.0 | 1.1 |
: | : | : | : | : | : | : | : |
上記の別表を使って下記条件の退職金を計算してみます。
勤続年数:20年
自己都合退職
等級4級
基礎金額198万円×等級係数0.7=138万6,000円
「ポイント制」の退職金計算方法
ポイント制とは、従業員にさまざまなポイントを付与して退職金を計算する方法です。勤続年数や役職によって個別にポイントが加算されます。計算式は下記のとおりです。
- 退職金=退職金ポイント×ポイント単価×退職事由係数
ポイント単価は「1万円」のように計算しやすい額を使うのが一般的です。「退職金ポイント」は、設定されている勤続年数ポイントや職能ポイントを合算して算出します。設定例は次のとおりです。
勤続年数ポイント
満勤続年数 | ~10年 | 11~20年 | 21~30年 | 31~35年 | 36年~ |
1年あたりポイント | 5 | 10 | 15 | 20 | 10 |
職能ポイント
職能資格 | 1等級 | 2等級 | 3等級 | 4等級 | 5等級 | 6等級 |
1年あたりポイント | 3 | 6 | 10 | 15 | 20 | 30 |
上記の設定がされている企業で、下記の従業員が退職するときの退職金額を算出してみます。
勤続年数:11年
職能等級:1等級(4年)、2等級(5年)、3等級(2年)
自己都合退職
ポイント単価1万円
自己都合退職の係数は0.8
勤続ポイントは、5ポイント×10年+10ポイント×1年=60ポイント
職能ポイントは、3ポイント×4年+6ポイント×5年+10ポイント×2年=62ポイント
退職金額は、退職金ポイント(60+62)×ポイント単価1万円×退職事由係数0.8=97万6,000円
退職金にかかる税金
退職金にも税金がかかります。額が大きいので課税額も高くなりますが、受け取り方法によっては所得控除が適用されるので確認しておきましょう。
退職金には「所得税」と「住民税」がかかる
退職金を一時金として一括で受け取る場合は退職所得になるため、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税がかかります。勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておけば確定申告の必要はありません。
年金形式の分割で受け取る退職金は「雑所得」として扱われます。ただし、以下の両要件を満たすときには確定申告をする必要がありません。
- その年の公的年金などの収入金額が400万円以下で、公的年金などに関わる雑所得以外の所得金額が20万円以下
退職所得控除を受けられる
退職金を一括で受け取る場合は「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しておくと、退職所得控除と2分の1課税が受けられます。
控除適用後の計算方法は次のとおりです。
- (退職金の総額-退職所得控除額)×2分の1 = 退職所得金額(課税される金額)
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、退職金の総額に20.42%の所得税がかかってしまうので注意しましょう。
退職金を受け取れるのはいつ?
退職金を受け取れる時期は企業によって異なりますが、一般的には「退職してから1~2カ月後」になります。企業によっては半年後になることもあるので、退職金の用途が決まっているときは、事前に受け取れる時期を確認しておくといいでしょう。
退職金の計算方法は企業によってさまざま
退職金の計算方法は企業によって異なるので、どの方法を採用しているのかを知っておくことが大切です。また、退職金の相場は業種や勤続年数になっても異なります。
退職金を一括で受け取る場合は所得税と住民税がかかりますが、事前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しておくと退職所得控除が適用されるので、ぜひ利用しましょう。
参考文献
中央労働委員会「令和元年賃金事情等総合調査(確報)」
東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」
内閣官房東京都産業労働局「退職手当の支給状況(令和元年度退職者)」
総務省「退職手当の支給状況」